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第2話 前世回想

【1話と2話を一部、入替しました】

 前世回想


「桜アワードワインコンクールに新作のワインを出品したいんだ」


二十歳になったばかりの高坂翼は、ワイナリー経営者の次男。


長男が二十五歳で、大学を卒業してから販路拡大を推し進めている。名前は高坂亮一。


大学で経営学を学び葡萄畑やワイン作りには、まったくと言っていいほど興味がない。


対して翼は、ワインを学ぶ為に、大学の農学部醸造科学に通いながら、新作ワインを作っている。


ある日、実家の葡萄畑で香りの強い葡萄が収穫されたので、翼はその葡萄を使ってワインの醸造を試みる。


すると葡萄の時にも香り高かったが、ワインにするとむせ返る程の芳しさを放っている。


「味はどうだ?」


翼はさっそく、ひと口含んでみる。


うわっ、何だこの芳醇な味わいは。


これなら、フランスで開催されるヴィナリ国際ワインコンクールに出しても戦える。


翼はワインをボトルに注ぐと、経営者の父と兄に持っていく。


「今までにない芳醇なワインが出来たんだ。これをコンクールに出品したい」


「何だ、この香りは」


ワインの香りを確かめた2人がうなる。


ひと口飲んだ表情が、このワインの価値を物語っている。


「このワインはうちの代表作になるぞ」


父はワイングラスを頭より高くかかげて、勝沼シャトーワイナリーの成功を確信したようだ。


「こんなワイン、飲んだことないぞ。お前が作ったのか」


ワイン作りに興味のない兄も、このワインの良し悪しは分かるのだろう。


「ああっ、うちの畑で採れた葡萄で作ったんだ」


◇◆◇


 翼はコンクールに出品する為に、ワインボトルの選定からラベル、コルク栓までこだわり選ぶ。


出品する為に一度、桜アワードに連絡を入れて必要事項を確認する。


「勝沼シャトーワイナリーの高坂翼と申します。コンクールに出品したいのですが」


「勝沼シャトーワイナリーさんね。先程、新作のワインが出来たので出品したいと連絡がありましたよ」


事務局の方の話で、事務手続きは終わっていると言われる。


あとは翼の作った新作ワインを事務局に送るか、直接届ければいいと言われた。


事務手続きが済んでいるのであれば、ワインを直接送ると言って電話を切る。


「父さんか兄さんが、事務局に連絡して手続きまでしてくれたのか」


自分のワイン作りを応援してくれる家族がいてくれて嬉しい。


◇◆◇


 コンテストは審査員の試飲、評価、点数で決められていく。


優勝だったり、金賞だったりコンテストで1位の名称は異なる。


でも受賞するだけで、そのワインは品薄になりワイナリー自体も格が上がる。


「今年の金賞受賞ワインは、勝沼シャトーワイナリー。制作者は高坂亮一さんです」


え?


「高坂さんは大学で経営学を学び実家の葡萄畑で、ワイン用の葡萄を育ててきたそうです」


「受賞のコメントもお願い致します」


「高坂亮一です。勝沼シャトーワイナリーの畑で、特別な葡萄が育ちワインを醸造しました」


そこから兄さんの葡萄を収穫するまでの苦労や醸造の難しさまでが語られていく。


全て翼が、兄さんに話して聞かせた内容じゃないか。


「お前も亮一を祝ってやれ」


父の高坂が、ぼうぜんと立っている翼の肩を叩いたことで、ショックで体に力の入らない翼は、前によろけて倒れそうになる。


「これくらいで、何をよろけているんだ」


父は情けないとでも言いたそうだ。


「父さん、どういう事?あのワインは葡萄から俺が育てて収穫したんだ」


「お前は葡萄を育ててワインを作る。でも販売して人と会うのは亮一じゃないか」


「だから俺が作ったワインを、ひと言の相談もなく兄さんの名前で出品したの?」


「誰の名前でも、うちのワインだろ。どうしてお前は、そう料簡が狭いんだ」


「はっ?料簡が狭いって?本気で言ってるの?」


この人はダメだ。


俺の事なんて何とも思っていない。


翼はその場から車で走り去る。


「わあああああああ、わああああああ」


途中で車を降りて森林の中を駆け回り、転んでも起き上がり、叫び続ける。


「あっ」


草の生い茂る場所に足を置いた瞬間、そこに地面がなかった。


真っ暗な空間から一転、真っ青な空に投げ出されて、真っ逆さまに落ちていく。


「うわあっ」


ガサガサズドンッ


暗転。


◇◆◇


 ガサ、ガサ、ガン、ガッ


木の枝に引っ掛かりながら地面に激突する。


「うっ、うっ、痛っ」


足を踏み外したのか。


「いたいの?」


子供がいるみたいだ。



 回想終了



 ああっ、この時にリーフが助けてくれたんだな。


本当に命の恩人だったんだ。


◇◆◇


「リーフ何してるんだ」


リーフが周辺をピョンピョンはねていた。


「おきたアニいた」


もしかして夢じゃなくて、俺がいて嬉しいのか?


俺は夢じゃなくて少しだけガッカリしたのに、ごめんな。


そうだ、昨日は死にそうなところをリーフに助けられたんだ。


それにリーフがいなかったら、1人だったら堪えられなかっただろう。


「リーフ、ギュウってしていいか」


「ギュウなあに」


翼は跳びはねるリーフを手招きする。


するとリーフはピョンピョンと跳びはねて翼に近付いてくる。


「おいで」


翼が両手を広げると、リーフが腕の中に飛び込んできた。


「ギュウ」


翼はリーフが潰れないように、そっと抱き締める。


「ギュウ」


リーフも真似して声に出した。


「収納箱全オープン。さあ、朝御飯は何を食べようかな」


翼は、手慣れた仕草で冷蔵庫に果実酒の樽、料理キットを出す。


焚き火台に火を付けてメニューを考える。


「簡単にサンドイッチにしよう」


フランスパンを取り出して、切れ目を入れて鉄板の上に乗せる。


レタス、トマト、ベーコン、チーズ、卵は鉄板で焼く。


「リーフ、苦手なものありそうか?」


「???」


「嫌いなもの。ぺっ、ぺってしたくなる物」


翼は野菜とチーズを見せた。


「おいしの」


「大丈夫そうだな」


鉄板のフランスパンにバターを塗って、具材を詰め込む。


それを手作りのマヨネーズをかけて、6等分に切って、3個ずつお皿に乗せたら出来上がり。


「俺はワインを飲むけど、リーフには葡萄ジュースな。おっとその前に、ステータスオープン」


翼は手をかざして、リーフのステータスを確認した。


【名前 リーフ

【HP 20/20

【MP 20/20

【スキル 回復

【種族 ベビーリーフスライム


良かった。HPも寝て起きたら回復してるな。


やっぱり俺の知ってるゲームと一緒だ。


「お待たせ。さあ、召し上がれ」


「ビョーン、とって、パックン」


リーフはすっかり食べ方を覚えたみたいだ。


「おっおいしの」


これも初めての美味しさだったな。


これから、もっといろんな物、作ってやるからな。


翼はワイン作りをしながら、ワインに合う料理の勉強も怠らなかった。


だから一通りの物は作る自信がある。


「う~ん、ワイン最高。やっぱり俺の作るワインは旨いじゃないか」


ただ、ゲーム世界では葡萄や果物を樽に入れるとワインや果実酒が出来上がるんだよな。


この樽は金貨を貯めてやっと買った宝物だから、そんじょそこらじゃ手に入らないけどね。


「おっ、リーフ俺の真似してジュース飲んだんだな」


リーフは腕を二本だして、コップを押さえてジュースを口に運んでいる。


やっぱり、賢い。


「みずおいしの」


「これは葡萄ジュースだよ」


「ぶどうおいしの」


「う~ん微妙に、違うけど、まあ、おいおい教えていこう」


翼は慣れた手付きで汚れた皿を、葉っぱで拭き取り、タンクの水で軽く流した。


職業が料理人であれば、クリーンと言う汚れ物を綺麗にしてくれる魔法が使えるのだが、翼のレベルでは、まだ使えない。


「そろそろ街に行って、現在地の確認もしたいな」


収納箱や冷蔵庫に入っている食材は時間が止められているので腐らない。


ただ、勝手に補充はしてくれないので、買い出しは必要。


収納箱は無限と思える程詰め込めるが、何が入ってるか忘れてしまうので程々に詰め込む。


「リーフ、どっちに行けば街があるか知ってるか?」


「ないない」


うん、だと思った。


「とにかく歩いて見るか。収納」


翼が収納と唱えると冷蔵庫や焚き火台、樽も全て収納箱に収まり、収納箱も目の前から消える。


「リーフこれから歩いて行くけど、疲れたら抱っこするから言うんだぞ」


「だっこ?」


「さっきのギュウってした状態で、歩けば疲れないだろ」


「あい」


リーフは楽しそうにピョンピョン跳びはねながら付いてくる。


あんなに右に左に飛び回ったら、疲れるんじゃないかな?


でも、まっ、いいか。


疲れたら抱っこしてやれば、いいんだから。


こうして2人の旅は始まった。


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