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第19話 未知の果物とクレープ

「ユキは妖精の棲みかでご馳走になっていたから、まだ腹は減ってないか?」


「羽虫の食事など食った気になれん。そなたの食事が一番だ」


「嬉しい事、言ってくれるな。じゃあ、まずは貰ってきた果物の種取りを兼ねて料理も作るか」


「うむ」


本当に妖精の食事が口に合わなかったらしくユキはヨダレが垂れないように、何度も口を啜っていた。


妖精の棲みかから持ってきた果物の皮を剥いて味見をしてみた。


紫の丸い果実は、味わった事のない味覚でモチっとしててぷちっと弾ける。


甘味と酸味も絶妙で、この果物自体が完成されたデザートみたいだ。


黄緑の丸い果物は、酸っぱいけど爽やかで、絞ったら美味しいドリンクが出来そうだ。


ドラゴンフルーツのように皮に覆われているが水色の果物は中はピンクで砂糖よりも甘い。


これは、そのまま食べるより何かと組み合わせたり砂糖の代わりに使おう。


砂糖を入れずにジャムにしてみるか。


翼は3種類の果物から種子を採ってガーゼのような布に包んで革袋にしまった。


「よし。リーフが寝てる間に、美味しい物でも作ってやるか。収納全オープン」


冷蔵庫にワイン樽、焚き火台と収納ボックスが出てきた。


焚き火に火をつけておく。


翼は、大きなマッド狼の骨付き肉を4個冷蔵庫から出した。


「今日は、ずっとやってみたかった骨を持ちながら肉を食べるぞ。鉄板を置く前に取っておいた骨付き肉を4個直火に掛けて、塩胡椒を振っておく」


焚き火台の上の方に串焼き用の穴があり、その穴に直接骨を差し込んでいく。


その上から鉄板を置いて、骨は時々くるくる回転させる事で余分な油も落としてくれる。


鉄板を上に置いて肉を囲む事で直火の美味しさと、オーブン焼きのように肉の中まで柔らかく火が通る。


鉄板の脇に小鍋を置いて、ドラゴンフルーツのような果物は、水色の皮をタンザク切りにする。


ピンク色の果肉はほぐして、そのままタンザク切りにした皮と一緒にヒタヒタの水で煮詰めておく。


「小麦粉に卵と砂糖を混ぜて生地の素を作って、お玉を使って鉄板に丸く薄く伸ばす」


翼は薄いクレープ生地を作っていく。


黄緑色の果物の薄皮を剥いた果肉は、生のままクレープ全体の1/6箇所にだけ三角形になるように並べる。


ドラゴンフルーツのような極甘の果物で作ったジャムを淡い薄黄緑色の果実の上に掛ける。


冷蔵庫から生クリームと砂糖を混ぜて作っておいたホイップクリームの入ったチューブの袋を出す。


2種類の果実とジャムを乗せたクレープ生地に、たっぷりのホイップクリームを絞っていく。


クレープ生地をホイップに被せるように半分に折ってくるくる巻いたら、新鮮果実クレープの出来上がり。


「クレープは冷蔵庫に入れておいて、食後に出そう」


翼はクレープを冷蔵庫に閉まってから、ユキの前に大きな葉っぱの皿を用意した。


「ユキ、お待たせ。両脇の骨を持ちながら肉を食べるんだけど、どうかな」


「うむ」


ユキは両前脚で器用に骨を押さえて、肉をむしりとって食べ始めた。


「おおっ、外側がパリパリで中には肉汁がたっぷりで美味しいぞ。何本でも食べれるな」


かなり大きな骨付き肉なのに、2本じゃ足りないとでも言いたげだ。


「それはどうも。でもユキの分は2本だからな。ワインもどうぞ」


ユキの為にボウル皿にワインをいれて、骨付き肉の隣に出した。


「うむ」


「リーフ、マッド狼の骨付き肉だよ。食べて早く元気になって」


翼のステータスが上がっているせいか、ワインを飲ませたリーフは一気にHPが200も回復した。


けれど体の回復と心の回復は、別の物だと翼はよく知っているのだ。


家族に裏切られて傷付けられた翼は、いつもは陽気に笑って料理を作っているが寝る前には嫌な記憶を思い出してしまう。


翼の作ったワインを盗んでも、悪びれもしない父親と兄の事を家族だったからこそ忘れられないのだろうと思う。


「リーフの為に、クレープって言う甘いお菓子を作ったんだぞ」


「クエープ?」


リーフが、甘いお菓子と聞いて目を開けた。


翼はそんなリーフに、思わず吹き出してしまいそうになるのを我慢して話し続けた。


「果物とホイップクリームが入った甘いデザートだぞ」


「たべう」


「ああ、その前に骨付き肉だよ」


翼はリーフの前にお皿に乗った骨付き肉を出して、いつものジュースも隣に置いた。


「おいしの」


翼が骨を両手で持って見せると、それを真似して2本の腕を出して骨を掴み肉をバクバク食べ始めた。


「美味しいか。良かったな」


翼はリーフの食べっぷりを見て、やっと安心して自分も骨付き肉を食べ始めた。


2人が食事を終えたのを見計らって、翼は冷蔵庫で冷やしておいたクレープを取り出した。


「食後のデザートだぞ。どうぞ召し上がれ」


新しい皿の上にクレープを乗せて、ユキとリーフの前に置いた。


「たべうたべう」


リーフは待ち兼ねていたとばかりに、バクバク食べ始めた。


「うむ」


ユキも珍しくリーフの勢いに圧倒されながら、クレープを口にした。


「おおっ、クレープとはペラペラした紙のようだと思ったら、見た目よりもずっと旨いぞ」


ユキ曰くペラペラした生地はモチモチとして爽やかな果物とジャムが濃厚なホイップクリームと合わさると旨さが倍増するらしい。


どこのコメンテーターだよ。と突っ込みたくなるが、料理を褒められて悪い気はしない。


◇◆◇


 翼達はやっとリュシオン王国の門まで辿り着いた。


何だか長い1日だった気がする。


「よう、今日は遅いお帰りなんだな」


門番の衛兵であるロベルトが声を掛けてきた。


「ああ、少し遠出して来たんだ」


「宿は取ってあるんだろ。早く帰ってゆっくり休むといい」


初日に会った時には根掘り葉掘り聞いてきたから、どこに行ってきたのかと聞かれると思ったのだけれど。


「ありがとう、そうするよ」


翼はロベルトの心遣いに感謝して、宿屋に向かった。


そして宿屋に入る前に1日で薄汚れてしまった、翼は勿論だがユキとリーフにも「クリーン」の魔法を掛けた。


「あんまり汚れたままだと、宿屋に申し訳ないからな」


「うむ」


「ピカピカ」


リーフは汚れが取れて、綺麗になった事が分かるらしく喜んでいた。


「あっ、お帰りなさい」


宿屋の女将さんが出迎えてくれた。


「どうも、遅くなりまして」


翼は軽く頭を下げて、そのまま部屋に向かおうとした。


「お母さんあのお兄ちゃん従魔を連れた冒険者なのに、全然汚れてないよ」


宿屋の娘さんらしき女の子が、女将さんの袖を引っ張って翼達の話しを耳打ちした。


「獲物が見付からなくて歩き回ったんだよ。だから遅くなったんだよ」


気の毒そうに話す親子に、冒険者は汚れも仕事のうちなのかと思い知らされた。


「こればかりは習性だから仕方ない」


日本で生まれ育った翼には、汚いまま長時間いるのも、部屋に上がるのも嫌だった。


「さあ、部屋に着いたぞ」


「うむ」


翼は扉を開けて、ユキとリーフを部屋の中に入れた。


ここはギルドに紹介された宿屋で、従魔を部屋に入れて一緒に泊まる事が出来るのだ。


「何だか疲れたから、少し横になるよ」


マジックリュックを椅子に下ろして、そのままベッドに直進した。


翼はベッドに倒れ込んで、いつの間にか寝てしまった。


翼は「リーフも」と言う声を夢の中で、聞いた気がした。



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