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第17話 妖精達の悪意なき所業

「お帰りなさいませ」


老妖精アルトが、外に作った接待席で出迎えてくれた。


「アニないない」


目を覚まして翼がいない事に気が付いたリーフが飛び付いてきた。


「いなくなってごめんな。リーフが寝てたから」


「ないない」


「えっ、寝ててもいなくなったらダメ?そうだな。ごめん、ごめん」


「世界樹の子の言葉が、よくお分かりになりますね」


エマはリーフとのやり取りを聞いていて、翼に感心したようだ。


「一緒に過ごすようになって、いつの間にかね」


翼はクッションに腰を下ろして、いつものようにリーフを膝の上に乗せた。


「早速ですが、もしかしたら巣箱の周辺に蜜を集める為の花畑がなくなってしまいましたよね。それが原因ではないかと思ったのですが?」


胡座をかいて座っている翼の膝の高さに、クッションを敷いて座っている長老のアルトに話し掛けた。


「確かに最近、蜂が花畑を見付けられずに探し回って、そのまま巣箱を捨てる蜂もいるようです」


長老のアルトは、首を真上に向けて翼に話し始めた。


「そこで巣箱の周辺の木を切り倒して元通りの花畑にすれば、蜂が蜜を集めて来るのではないでしょうか」


「なるほど。蜜を集める為の花畑が減少していたせいなのですな。妖精は元々自然に手を加えない為、失くなった花畑についても考えが及びませなんだ」


翼の中で妖精のイメージは、自然と生きる木や花を命懸けで守る種族なのかと思っていた。


けれど実際にはアルトの話しから、妖精が独特の感性を持っている事が窺えた。


「使途様、解決方法を教えて頂いておきながら厚かましいのですが、木を切り倒すのをお手伝い頂けませぬか」


「まあ、あなた方にあの大木は切れませんよね」


木を切り倒す話しを持ち掛けた時から、翼以外に木を切り倒す適任者はいないだろうと考えていた。


「ふう、出来るだけお手伝いしますよ」


「おおっ、誠にありがとうございます」


長老のアルトが頭を下げて礼を言った。


「やれやれ」


ユキは翼が厄介事を引き受けたなと、ため息をついた。


「やれ、やれ」


リーフお前まで!


そもそも意味分かって言ってないたろ。


「では俺は街に戻って大木を切り倒す為の斧を購入してきます」


翼は善は急げと、立ち上がった。


「あの位の木であれば、我にも倒せるぞ」


「えっ」


あの大木を倒せる?どうやって?


「昔は体を鍛える為に、大木に体当たりしたものだ。我がぶつかると木が倒れてしまうので、一族の者に止められてからやっていないが」


大木に体当たりして体を鍛えるって、キマイラってどんだけ頑丈な種族なんだ。


「じゃあ、倒せるか試してくれるか?」


「うむ」


ユキが立ち上がると、風圧で御付きの妖精が後ろに一回転して転んでしまった。


エマは一回転とまではいかないが、尻餅をついて突然の風圧にビックリしている。


「大丈夫?」


翼はエマと、ついでに御付きの妖精に声を掛けた。


「は、はい。ビックリしただけです。さすが神獣様です」


何がさすがなのか分からないけど、怪我がないならヨシとするか。


「じゃあ俺達は大木が倒せるか確認に行ってきますが、倒木に巻き込まれると困るので、皆さんはここに残って下さい」


「足手まといになるだけでしょうから、ここでお帰りをお待ちしております」


「リーフも」


自分も残れ言われると分かったのか2本の腕を目一杯伸ばして、リーフも連れていってと翼を見上げている。


「直ぐに帰ってくるから少しだけ、ここで俺達を待っててくれ」


「やあの」


ピッタリくっつくリーフを引き剥がして、敷き詰められたクッションの上にそっと置いた。


「直ぐ戻ってくるからね」


「プゥ」


リーフは頬をプゥ、プゥ膨らませて拗ねてしまったが、翼にしがみつくのは諦めてくれたようだ。


「では行きますか」


翼とユキは妖精の棲みかから出て、花畑があった大木の群生地にやって来た。


「ここらの木なんだけど、どうかな?」


翼はユキに倒せそうか尋ねた。


「うむ、いい木だ」


ドシンっ


一言話したと思ったら、次の瞬間には大木が根元から抜けて倒れていた。


「うわっ、こんなに簡単に倒しちゃうのかよ」


翼は改めて、ユキの身体能力の高さに度肝を抜かれていた。


ドシン

ドシン

ドシン

ドシンっ


ユキは息をつく暇もない程、あっという間に見渡す限りの木を倒していった。


「あれ?この倒れた木はどうすればいいんだ?ユキ」


翼はアイデアを出したものの、倒した木の処分までは考えていなかった。


「うむ。そなたのリュックに入れていって、ギルドで売ればよかろう」


「なるほど」


翼はユキに言われた通り、リュックの口を開けて倒木に近付けた。


すると倒木がリュックの中に吸い込まれるように消えていった。


「よし、これで最後だな」


翼は最後の1本をリュックに詰めると、両手を腰に当てて後ろに伸ばして凝りを解した。


「おおっ、広い空き地が出来たな。これなら花畑にも良さそうだ。周りにリンゴやミカン、木苺の木を植えるのもいいな」


◇◆◇


 倒木を終えた翼とユキは、リーフの待つ妖精の棲みかに急いで戻る事にした。


「リーフ、拗ねちゃってたから美味しい物でも作ってやりたいな」


妖精達と出会ったのも何かの縁だし、一度くらい美味しい料理をご馳走してやってもいいか。


ユキとリーフが嫌がるかも知れないが┅┅。


「びえ~ん、たいの、やめて」


リーフの泣き声を聞いて、翼とユキは急いで緑に覆われた妖精の棲みかの入り口を通り抜けた。


「っ」


急いで駆け付けた翼は、信じられない光景を目にする事になる。


なんと、妖精達がリーフの頭にはえた葉っぱを無理矢理引っこ抜いていたのである。


しかもリーフが泣くのも構わずに、抜いては新たな葉っぱがはえるのを待っていた。


その証拠に、何枚もの葉っぱが地面に置かれていた。


「どう言うつもりだっ」


「羽虫どもっ」


翼とユキが、ほぼ同時に怒鳴り付けた。


ユキの怒りの砲口でリーフの側にいた妖精達が引っくり返った。


「ああっ、俺達の葉っぱが」


妖精達は、散らばった葉っぱを広い集め始めた。


「返せ」


翼は妖精達から葉っぱを全て奪いリーフの元に行った。


リーフは横に広がる雫型を保てずに、崩れ掛かっていた。


「ステータスオープン」


【名前 ツバサ

【HP 390/500

【MP 261/275

【スキル テイマー 中級クリーン 念話

【従魔 ベビーリーフスライム キマイラの王

【職業 中級料理人


「あれ?クリーンと料理人が中級になっている」


「うむ、それでリーフはどうなのだ?」


「そうだった。自分のステータスから確認する癖が付いてて┅┅」



【名前 リーフ

【HP 15/320

【MP 179/245

【スキル 回復

【種族 ベビーリーフスライム



「リーフのHPが1/20以下になってるぞっ!まさか葉っぱを抜かれたからか?」


翼はユキを振り返って見た。


「うむ、世界樹の子の葉っぱは、その者の生命力の源なのだ。葉っぱを大量に抜かれれば死ぬ事になる」


「つまり、こいつらはリーフを殺そうとしたんだな」


リーフは力尽きたのか泣く事も出来ずに、翼の腕の中でグッタリしていた。


「違いますじゃ、殺す気などありませぬ」


老妖精アルトが、騒ぎを聞き付けたのか姿を表した。


そもそもリーフが泣いていたのに、気が付かない筈がない。


つまり、アルトもリーフの葉っぱを採るのに関わっていると思って間違いないだろう。


「リーフの姿を見て、よくそんな事が言えるな」


「世界樹の子の葉っぱは我らの寿命を伸ばしてくれるのじゃ、殺したりする筈がありませぬ」


「つまり死なない程度に葉っぱを採って、元気になったらまた採ってを繰り返してきた訳か」


リーフが初対面のアルルを羽虫と呼んで嫌っていた訳が、やっと理解出来た。


何度、こんな目に遭ってきたのだろう。


「使途様、我々も本意ではないのですじゃ」


「黙れ、アイデアだけじゃなくて倒木もしてやったんだ。報酬は珍しい果物では足りない」


翼の表情には妖精達に対する憎しみさえ感じられて、体は怒りで震えていた。


「勿論ですぞ。どうぞ倉庫で好きな物をお持ち下され」


老妖精アルトは、穏やかだった翼の豹変ぶりに我が目を疑った。



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