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第16話 妖精の棲みか

 ゴチっ


「いい加減にせんか」


老妖精アルトは、手に持つ杖でギヴの頭を軽く小突いた。


「何で、何でおいらを叩くんだっ」


ギヴは叩かれた頭に手を置いて、理由が分からずアルトに噛み付いた。


「お前は気絶していて知らぬだろうがこの方々は世界樹の子に、我等が使途様と神獣様だ」


「え~」


ギヴはアルトの話しが信じられずに、周りの妖精達を見回した。


「間違いない。頭の葉を見てみろ」


ギヴがリーフに視線を移した。


「っ┅┅お許し下さい」


ギヴはその場でガバッと土下座をして、リーフに向かって謝り倒した。


「リーフに槍を刺した事を許すつもりはない。でも謝罪は受け入れるので、頭をあげてくれ」


リーフに傷はなかったけれど、それとこれとは別の問題だ。


リーフの体に槍が刺さったのを目にした時、翼は自分の体が刺される方がマシだと思った。


リーフに万が一の事があったらと、翼の方が走馬燈を見そうな勢いだった。


だから、これからどんなに謝罪をされたとしても許す気にはなれないだろう。


「┅┅」


ギヴはやっと自分が犯した罪に気が付いたのかもしれないが、それはリーフを槍で刺したからではない。


リーフが世界樹の子で、翼が使途でユキを神獣と思っているからこそ反省しているだけなのだ。


翼には、それも許しがたかった。


「ギヴよ、使途様が気絶しているお前を薬で治して下さったのだ」


「申し訳ありません」


「もう謝罪は止めてくれ」


「うむ」


ユキも早く用事を済ませようと、翼に鼻を擦り付けた。


「そろそろ話しを聞きしたいのだけれど、ここで話しますか?」


「失礼致しました。どうぞ、こちらからお進み下され」


「あたしも行くわさ」


他の妖精は翼達を遠巻きにしてざわついていたが、翼達は老妖精アルトに着いていった。


そこは深い森の中で、辺り一面緑に囲まれていて迷ったら抜け出せないなと思った。


老妖精アルトの後に着いていくとトンネルを抜けたように、いきなり目の前が開けて妖精の棲みかが現れた。


滝の流れる崖を利用して、いくつもの建物が建てられていた。


ベランダや屋根を見るだけでも、凝った装飾を施していて建築技術の高さが窺えた。


崖の下は滝から流れ落ちた泉が広がり、周辺に色とりどりの屋根を持つ家々が並んでいた。


そして妖精の棲みかの特徴なのか、所々に水晶を遣っていて太陽が反射して眩しい。


「皆様は我らの家には入りきりませんので、外で歓待させて頂きますじゃ。これ」


アルトが手を叩くと、下働きの妖精達が絨毯やクッションを大量に敷き詰め始めた。


なるほど一つのクッションじゃ翼達では足りないので、たくさん集めてくれているのか。


「食事の準備もするのじゃ、大量にな」


「うむ」


ユキはいつの間にかクッションに座って寛いでいた。


食事と言う言葉に反応して、ユキは腹が減ってきたようだ。


リーフと言えば先ほどは翼の腕から飛び出して行ったのに、今は翼から離れようとしなかった。


「はむしやあの」


「あはははっ、どうしたのかな?さっきの事で、ビックリしてしまったのかな」


翼は面白くもないのに笑って、リーフの言葉を有耶無耶に片付けようとした。


今は歓待されているとは言え、先程まで槍を向けられていた敵陣でお前なんか嫌と言ってしまうリーフの言葉に汗が止まらなくなった為だ。


「お許し下さい」


長老も御付きの者も跪いて、おでこを地面に擦り付けた。


「頭を上げて下さい。リーフも先程の事でビックリして失礼な事を言ってしまうかもしれないが、許してやって下さい」


「はむしやあの」


「リーフ、少し黙っててくれ」


「プウッ」


リーフはふて腐れてプウップウッ頬を膨らませていたかと思ったら、ユキに乗っかり寝てしまった。


「うむ」


リーフの事はユキに任せれば大丈夫そうだ。


見た事もない妖精達の料理が運ばれてきて、ユキが勝手に食べ始めている。


妖精達の食事は、胡桃やドングリ、ナッツを砕いて団子にした物や野菜と果物等の自然食が中心だった。


「使途様、ワシ達はずっとあなた様をお待ち申し上げておりました」


アルトは、感極まったように目に涙を浮かべていた。


「落ち着いて下さい。俺は自分が使途かどうかも分からないし、何故ここに呼ばれたのかも検討が付きません」


翼はユキやリーフが妖精を毛嫌いしている理由は、これだけじゃないと思うけど。


一方的に話して、一方的に攻撃して、一方的に頼み事をしてくる。


実はアルルにも、少し話しが通じないところがあると思っていたが、一族がこれでは仕方がない。


「そうなのですか?使途様と聞いて、蜂蜜をお持ち頂けたのも納得出来たのですが」


「頼み事があるなら、さっさと話せ」


食事をしながらも、話しを聞いていたらしいユキが一発かましてくれた。


「は、はい。失礼しました。実は妖精にとって蜂蜜酒は欠かせない物なのですが、蜂が花から蜜を集めなくなってしまったのです」


「┅┅え?それで?」


いつまで経っても話しの進まないアルトに先を話せと翼が促した。


まさか今の話しで、全てを察しろとでも言うのか?


「蜂が再び蜜を集めるように、解決頂きたいのです」


「あの俺は蜂の養蜂家でもないし、何故そんな事を俺に頼むのか理解に苦しむのだけど」


翼は本当に理解出来なかった。


ユキやリーフがお腹を空かしているだろうと察して、翼が黙って料理を作ってやるのとは違う。


初めて会う相手に、しかも蜂についての知識も興味もない相手に何を望んでいるのだろうか?


「妖精族を助けて頂けるのは、使途様しかおらぬのです。どうかお願い致します」


「お願いします」


いつの間にか集まってきていた妖精達が、羽を畳んで地面に下りて頭を下げている。


「はあああ」


もう金輪際、妖精には関わらないぞ。翼は心の中で自分に誓っていた。


「条件があります」


「何でもおっしゃって下され」


「リンゴやミカン、桃、葡萄、ザクロ、木苺以外の珍しい果物を探して旅をしているんだ。解決したら、珍しい果物を分けてもらえますか?」


「おおっ、果物でしたら倉庫にあるのでご希望の物があるかご確認下され」


「それは問題を解決してから見せてもらえますか」


「ありがとうございます」


妖精達は一斉に、翼に感謝の言葉を口にした。


「待ってくれ。まだ何も解決してないし、蜂に詳しい者や蜂蜜の担当をしている者がいたら話しを聞かせてもらえますか」


妖精達は誰が蜂と蜂蜜に詳しいのか、ざわざわと話し始めた。


「あの私が巣箱に蜂蜜が溜まったら長老に報告する事になっています。それから皆で、協力して蜂蜜を取りに行きます」


今まで会った中で、一番妖精っぽい見た目の子が出てきた。


青い髪をポニーテールにして、瞳と羽が水色の可愛らしい少女だ。


「蜂蜜はどこに溜められるのか、教えてもらえるかな」


「はい、こちらです」


少女の名前はエマ。ただし年齢は翼の年齢×10倍程なので、少女ではないらしい。


巣箱は妖精の棲みかの外にあって、昔人間が忘れていった物らしい。


昔の人間の中には精霊の力が宿る者がいて妖精の棲みかの周辺にも来ていたが、いつからか誰も辿り着けなくなったらしい。


「ここです。以前は周り中が花畑だったんですが、今は大きな木に覆われてしまって」


確かに木の根元の穴を出た周辺と同じで、大きな木が辺り一面中に成長して日を陰らせていた。


「ここの木は、倒す訳にはいかないのかな?」


「木を倒すのですか?」


青髪の妖精エマは、大きな目をさらに大きくして驚きを表現した。


「わ、私には決められません。長老に確認してみないと」


「じゃあ、一度戻ろうか」


翼とエマは妖精の棲みかに戻ってきた。



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