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第14話 穴に消えたユキ

「だからさ、アルルはこの木苺がある場所を案内してくれただけなんだって」


翼はアルルを擁護しつつ、木から落ちてきた木苺を拾い集めていた。


「こんな小さい実を集めてどうするのだ?」


ユキにもリーフにも、アルルの話しはスルーされてしまった。


「う、うん。ユキもリーフも一粒食べてみろ」


翼も拾い集めた木苺の中から、一際大きな木苺を指で挟んで口に放り込んだ。


「う~ん、甘酸っぱい。どうだ?美味しいだろ?」


木苺の美味しさが分かったかと言って、ユキとリーフがいる方に振り向いた。


「止めろ~、もう食べるな、一粒って言っただろっ」


一粒食べて木苺の美味しさが分かったユキとリーフが、物凄い勢いで木苺を口に運んでいた。


「木苺のお酒にジュースやデザート、作ってやらないぞ」


ピタッ


ユキとリーフの木苺を食べる手が止まり、口に残った物だけをモグモグ食べ始めた。


「まったく料理を食べるだけならまだしも、料理前の食材まで食い尽くそうとするなんて」


世の中のお母さん達が毎日の食事を作るのに疲れるのって、こんな気持ちなのかな。


苦労とは少し違うか。


料理を作るのは苦にならないし、ユキとリーフが喜んでくれるのは嬉しい。


「じゃあ早速、ユキの狩ってきてくれたレッドグリズリーで食事を作りますかね」


「うむ」


「やたの」


2人とも口元が緩んで嬉しそうだ。それを見ている翼も自然と笑顔になった。


「収納全オープン」


翼が唱えると、冷蔵庫▪収納ボックス▪焚き火▪果実酒を作る樽が現れた。


焚き火に、あらかじめ火をつけておく。


解体したレッドグリズリーの肉をさらにステーキサイズにカットして、ジャガイモとニンジンを茹でる。


耐熱皿に生姜とニンニクを入れて、ウスターソースを加えたソースを作っておく。


焼けた鉄板にステーキ肉を並べて、一気に焦げ目を付けたら、引っくり返してゆっくり火を通す。


ニンジンはカットして砂糖とバターで甘く仕上げて、ジャガイモは皮を剥くだけ。


「さあ、出来たぞ。霜降りステーキにスパイシーなソースを掛けて、ワインが進むぞ」


ユキには大きな葉っぱの皿を出して、大きなステーキと野菜を山盛りにして出してやる。


ガツガツガツ


「この複雑でピリピリするようなソースが、甘い脂の霜降りステーキによく合うな。旨い、旨い」


翼とリーフには普通サイズの平皿を出して、大きなステーキ一枚と野菜を飾り付けた。


「さあ、リーフも召し上がれ」


ガツガツガツ


「おいしの」


食べ方までユキに似なくていいのになと思いつつ美味しそうに食べてくれるから、まあいいかと思う翼であった。


「アルルの分をここに置いておくからな。ステーキは温かいうちが美味しいぞ」


翼は葉っぱで作ったコップにワインをいれて、葉っぱで作ったステーキ皿の横に置いた。


「忘れてなかったのね」


突然、何もない空間からパッと妖精が姿を現したかと思うと、小さなステーキの前にしゃがみこんだ。


「ふん」


ユキは文句も言わず、アルルの来訪を見逃してくれたようだ。


「ふん」


リーフは┅┅多分、ユキの真似をしただけだと思う。


「アルル、今日はありがとな。木苺が収穫出来て良かったよ」


「あたしは、レッドグリズリーがいるって知らなかったのよ」


アルルは、ユキに責められたのが納得いかないようだ。


「分かってるよ。また一緒に食事でもしよう」


「今度は蜂蜜酒を土産に┅┅ダメだわ。何故か蜂達が蜜を集めて来てくれなくなったから」


アルルは妖精が得意な蜂蜜酒を土産に翼達に会いに来たかったが、蜂蜜が手に入らないとしょんぼりしていた。


「ザクロを買った時に蜂蜜を貰ったんだけど、アルルが持って帰るといいよ」


「え?」


パアッと花が咲くように明るい表情になったアルルを見て、蜂蜜を食べてしまわなくて良かったと思った。


翼はマジックリュックから蜂蜜の瓶を出して、アルルの前に置いた。


「重そうだけど、持って帰れるか?」


「ふんぬっ」


アルルは自分の背丈程もあり、両手では回りきらない蜂蜜の入った瓶を持ち上げようとしている。


「持って帰るのは無理そうだな」


翼が呟くと、アルルの顔から血の気が引いて真っ青になる。


「そこまで?う~ん。アルルの家は、この森にあるのか?」


「そ▪う▪よ」


まるで蜂蜜の瓶を持ち上げる為に力を溜めた掛け声のような返事をして、お相撲さんが相手の力士を持ち上げようとしているみたいだ。


「アルル、君が持って帰るのは無理そうだから、良かったら俺が家まで運んでやるよ」


「本当に┅┅でも」


アルルは百面相のように、パアッと顔を輝かせたと思うと次の瞬間には暗い表情を浮かべた。


「妖精は人間を嫌っておる。そなたが妖精族を訪ねて良い事はないだろう」


近くで翼とアルルのやり取りを聞いていたユキが、妖精族の棲みかには行くなと警告しているようだ。


「そうなのか」


「うむ」


「だったら他の妖精に会わなくて済む所まで行って、引き返してこよう」


「持ってきてくれるの?」


着いてきてくれるのかじゃなくて、蜂蜜を持ってきてくれるか聞くんだな。


「蜂蜜をやるって約束したのに、持って帰れないんじゃ意味ないだろ。でも途中からは、自分達で運ぶ事になるぞ」


「うん」


「はあああっ」


アルルのはにかんだ笑顔を見て、ユキは反対するのを諦めた代わりに大きなため息を付いた。


「はああ、はああ」


リーフがユキの真似をして、何度もため息を付いた。


「リーフは何をしてるのかな?」


「わかんない」


「そっか」


子供はとにかく身近な大人の真似をして、大きくなるからな。俺も気を付けよう。


「じゃあ、この蜂蜜はひとまずリュックに入れといて出発しますか」


「うむ」


ユキが4本脚で立ち上がる。


「しぱつ」


翼が忘れ物がないか確認して出発の号令を掛けると、リーフもちゃんと言えてはいないが真似をしてからピョーンと飛び跳ねた。


「こっちよ」


アルルは背中の羽をパタパタさせながら、目線よりも少し高い位置で飛んで道案内をした。


「この木の穴を通っていくの」


しばらく森の中を歩いてから、アルルがおかしな事を言い始めた。


「ええっと、この木の根元の穴をとおり抜けろと?」


「そうよ」


アルルは腰に手を置いて胸を張り、何故か自慢気に答えた。


「ユキはおろか、俺でも無理だと思うぞ」


それはリーフでもやっと入れるかどうかと言う位の大きさで、木の根が自然に作り上げた小さな洞穴のようだ。


「これは妖精国に繋がる道を知っている者だけが入れる穴だから、騙されたと思って入ってみなさいよ」


アルルは翼の肩にパンチをくらわせて、穴に入れと急かした。


「ユキさんや」


「うむ」


「俺達が全員穴に入ってしまって、ユキさんだけ残ると困るのでお先にどうぞ」


「はいるの」


リーフが翼の手の中からすり抜けて、木の根元に出来た穴に入ろうとしている。


「ダメだ、リーフ待ってくれ」


「めなの?」


「うん、戻ってきて」


「あい」


リーフが、ピョーンと一足飛びに翼の腕の中に戻ってきた。


「うむ。分かった」


リーフを先に行かせる事も残す事も出来ないので、一番に行くのはユキしかいないと言う苦渋の決断だった。


ユキもそれを理解してくれたのだ。


「何をやってるんだか」


アルルは順番で揉めている翼達に呆れて、さっさと穴の中に入ってしまった。


「お前が一人で行ってどうする」


「使えない羽虫め」


ユキがとうとうアルルへの鬱憤を口にした。


「はむしめ」


リーフは多分、俺達がアルルを歓迎していないのを感じ取っているのではないかと思う。


う~ん、ある意味協調性が高いと言えなくもない。


でも俺達の好き嫌いで、リーフの付き合う相手を決めてしまっていいのだろうか?


いや、リーフが嫌いな相手と無理矢理仲良くさせるのも違う気がする。


「入るぞ」


翼が違う事でぐるぐる考えを巡らせていると、いつの間にかユキが穴に鼻先を入れていた。


「あっ、うん。気を付けて」


ユキがさらに鼻先を穴の奥に入れると、まるで吸い込まれるように穴の中へと消えてしまった。


「ユキ、大丈夫か」


翼が呼んでも、穴からユキからの返事が返ってこない。


「ユキちゃんないない」


リーフが驚いて、翼の顔を振り返って見ている。





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