私、首吊りは嫌いなの。
ちょっとダークではありますが、最後はちゃんとハッピーエンドです!
是非、最後までお楽しみください( ´ ▽ ` )/
死ぬのって、この先何が起きるか分からない未知だから、怖い。
そして、私は絶対に何があっても、怖さを感じて苦しみながら死にたくない。
だから、婚約者破棄と処刑を言い渡されると分かっていた今日の夜会で、ありもしない罪を被せて断罪しようとした元婚約者のライアン王太子殿下に、こう言ってやった。
「私を処刑する手立ては『首吊り』しかありませんわよね?でも私は苦しみたくないから、10日以内に『あるもの』を作れたら、婚約破棄も処刑も応じますわ」
※※※
夜会で断罪を言い渡されてから一夜あけ、私は対して綺麗でもない地下牢に閉じ込められていた。
ご丁寧に足首におもりがついている状態だけれど、両腕が自由だったから、無理なく食事を摂る事が出来た。
そんな中、私の牢屋の前にとある人物がやってきた。
それは、この国の第二王子であるアルノー殿下だった。
「…シュリー…。なんで牢に入っているんだい…?君は冤罪の身だろう?王族と同等の権力を持つベルトラン公爵家のご令嬢である君なら、昨日のあの場で言い返す事も出来た筈だよ?」
「あら。ご丁寧にありがとうございます、殿下。でも、今は冤罪を証明する証拠が全くないのです。しかも、あの場で堂々と罪を言い渡されたゆえ、そこで抗ってみたところで、罪が重くなるばかり。嘘の供述は御法度なのですよ?」
「で、でも!それだったら兄さんもそうじゃないか!あ、あんなっ…!夜会で胸を強調したようなドレスを着た、髪の長い娼婦のような令嬢の話を鵜呑みにして、何の罪もなく王妃教育をし続けた君を疑うだなんて…!兄さんはとってもバカだ!!」
「ええ。そうですわね。あんな王太子、王には相応しくないですわよね。ふふっ」
「…え?」
自分の言った言葉を、まさか私が肯定するとも思わず、アルノー殿下は目を丸くする。
私は簡易的なベッドの上に座りながら、こう話し続けた。
「確かに、私はライアン王太子殿下を好きだった時期もありましたわ。ですが、国立学園に通っても中の中の成績しか取らず、複数の女子生徒と遊び回っていた王太子殿下に、嫌気が差しましたの。以前お父様に『婚約解消をしたい』と訴えても受け入れてくれませんでしたし、国王陛下と王妃様は隣国にいるため、今の発言権は王太子殿下にありますわ。だから『王命』を受けて処刑を待っているのです」
「…そ、そんな…。どうして…?なんで…?」
私が処刑されるのがよっぽど嫌なのか、アルノー殿下は牢屋の前で目を潤ませている。
確かに昔はアルノー殿下に『一目惚れです!結婚して下さい!』とは言われたけれど、その直後に『王命』で王太子殿下と婚約する事になってしまい、しかも『王命』は覆せないときた。
だから、あえて私はあの夜会で、王太子殿下にこう進言したのだ。
『一瞬で首を刎ねる事が出来るギロチンを作って欲しい』と。
※※※
<アルノーside>
僕の世界一最愛の人・シュリーが処刑される。しかも謂れのない罪を着せられたまま。
もし僕が王太子になれてたら、シュリーの婚約者だったら、絶対に彼女を手放さなかったのに…。
こういう結果になったのが悔しくて悔しくて、僕は牢屋でシュリーに会ったあと、兄さんの部屋へと駆け足で向かった。
兄さんは案の定、複数の女性をベッドに侍らせていた。
「おー、アルノー。どうしたどうした?俺が綺麗な女を側に置いているのが、羨ましいか?」
「羨ましくありません!どうしてシュリーを処刑するんですか!?シュリーは何も悪くないのに!」
「おーおー、その事か。まぁ、別にどんな罪を着せても構わなかったんだが、俺にはあの地味で対して胸もない、けど地頭だけはいいあの女が嫌いだったんだ。だから、処刑を言い渡した。あの女が死んでいく様を見ると、きっと清々するだろうなと思ってな」
「なっ!?」
たった一つの感情だけで、嘘の罪を着せて処刑をするとは、なんて暴君なんだ!
僕はこのクソな王太子殿下に怒りが収まらず、下唇を強く噛む。
それを見た兄さんは、ははっと笑ってから、口角をニヤリとあげてこう告げた。
「ああ。そういや言ってなかったが、処刑はいつも通り、絞首刑で行こうと思っている。あの縄で死に様を見るのは、さぞ楽しいだろうなと思って」
「!!」
こいつ、わざと言ってやがる!
もういっそ、このまま兄さんを怒りに任せて殴って、僕も処刑されてしまえばいいやと思ったが、さっきシュリーが言っていた事で我に帰る。
そして、僕は軽く咳払いをしたあと、冷静な声で兄さんにこう忠告した。
「…まぁ別にこれは一応『王命』なので、兄さんがどの処刑を決行しても構いませんが、『絞首刑』を実行して後悔するのは、兄さんの方だと思いますが?」
「…なに?」
「やっぱり僕は、シュリーと同じ提案をしたいと思っています。なにせ、ギロチンであれば頭と胴体が切り離されるので、速攻で死に至らしめる事が出来ます。つまらないとは思いますけれど、万が一絞首刑で生き残ってしまえば、不況を買うのは兄さんです。『殺せなかったじゃないか!』って国民から言われてしまうのですよ?」
「な、なにっ!?で、では早めにギロチンを作らないとだな!こうしてはいられない!俺は今すぐ執務室に向かう!この女たちは、抱くなりなんなり好きにしろ!」
「いや、絶対抱きませんって!…はぁ…」
つくづく、このクソ兄は頭が悪くて、扱いやすいなと思う。
…けれど、これでベッドの上にいる女性たちを好きに出来る。
僕は懐からナイフと長い縄を取り出して、その縄を切り、ある『王命』を言い渡して、彼女たちを捕縛したのだった。
※※※
夜会で処刑を言い渡されてから、丁度十日が経った。
髪を短剣で短く切った私は、足首についたおもりを外され、縄で両手を後ろに拘束されたまま、看守と共に外へと出る。
ちなみに、向かった先は王城の前にある広大な広場。その壇上には、ギロチンが静かに置かれており、私はニヤリと笑った。
きっと、アルノー殿下がしっかりとライアン王太子殿下に言い聞かせた事で、ギロチンを用意するよう声がけをしたのだろう。
そして、私の目線の先には、王太子殿下が王族御用達の椅子にふんぞり返って座り、邪悪な笑みを浮かべている。
もちろん彼の隣には、私に謂れのない罪を被せた妖艶なご令嬢も、王族御用達の椅子に座って扇を広げて、悪い笑みを浮かべている。
この2人が後の国王陛下と王妃になると考えると、きっとより悪い事をしでかす気がして、国民の先が思いやられそうだ。
私はその場で大きくため息をついてから、広場に集まってくれた民衆の前に姿を現した。
「ただいまより、シュリー・ベルトラン公爵令嬢の処刑を執り行う!シュリー・ベルトランは、ライアン王太子殿下の最愛なる寵姫であるカロリーヌ・デュボワ侯爵令嬢を、殺害しようとした罪に問われている!一国民を害そうとする行為は非常に重罪。よってこれより、シュリー・ベルトランを斬首の刑へ」
「ちょっと待って下さる?」
さっきまで声高らかに処刑内容を民衆に伝えていた執行人に、私は冷静な声で静止を言い聞かせた。
「申し訳ありません、執行人さん。もうすぐ、こちらに国王陛下と王妃様がいらっしゃいます。彼らが到着次第、もう一度罪状を読み上げて頂けますか?」
「え?あ、はい。た、確かに国王夫妻がいない所で処刑をした場合、万が一貴女が冤罪だった場合に、取り返しのつかない事になりますね…。はい」
「ふふっ。よろしくお願いしますね、執行人さん」
満面の笑みで執行人に謝意の言葉をかけると、彼は一瞬驚いたかと思うと、顔を赤く染めてペコリとお辞儀をした。
そして、「国王夫妻が来てから再度処刑を執り行う」と高らかに言った執行人に、民衆は「確かにそうだよなぁ…」や「最終決定は国王陛下だし」等の声を発して頷く。
それに対して、王太子殿下とカロリーヌさんは、射殺さんとばかりの鋭い目つきで私を睨んでいた。
ちなみに、アルノー殿下はこの広場にはまだいない。何故なら…
「王太子殿下及びカロリーヌ嬢、そして我が国の民衆たちよ!国王陛下及びに王妃様がこの国に戻られた!盛大な拍手を持って迎えよ!」
そう。彼は国王夫妻を帰国させるために、隣国へと向かっていたから。
ちなみに、さっきの言葉を発したのはアルノー殿下。どうやら戻られたようだ。
民衆の拍手に迎えられた国王陛下と王妃様は、王太子殿下とカロリーヌさんがいる貴賓席に向かったかと思えば、椅子には座らずに、その場で立ったまま広場の方を向いている。
そして、アルノー殿下は私の近くにやってきて、小さく頷いた。
「さて、皆の衆。よくぞここに集まってくれた!今日は記念すべき素晴らしい日だ!しっかりと、処刑の様子を胸に刻みつけてくれ」
「うおおおおおおお!国王陛下万歳!」
「王妃様万歳!」
威厳のある国王陛下のお言葉に促されて、民衆たちは大きな歓声を上げる。
王太子殿下もカロリーヌさんも、その言葉に感銘を受けたようで、一際大きい拍手を送っていた。
しばらくして、民衆の声と拍手がゆっくりと鳴り止む。そのタイミングを見計らって、国王陛下は大きな声で執行人にこう伝えた。
「では、執行人ボルナレフよ。手に持っている罪状を再度読み上げよ!ただし、処刑の合図は私が出す」
「はっ!畏まりました!では、もう一度罪状を読み上げます。シュリー・ベルトランは、ライアン王太子殿下の最愛なる寵姫であるカロリーヌ・デュボワ侯爵令嬢を、殺害しようとした罪に問われている!一国民を害そうとする行為は非常に重罪です!」
「…ふむ。ライアンよ。この罪状は正しいもので合っているか?」
そう言って、国王陛下は顎ひげを触りながら、のんびりと王太子殿下にそう問いかける。
王太子殿下は大きく頷いてから「はい、間違いありません!」と強く肯定した。
すると、国王陛下は「さすがだな」と言わんばかりの嬉しそうな笑みを、彼に向けた。
「ふむ。さすが我が息子じゃ。お前を王太子にして正解だった」
「ほ、本当ですか!?では、すぐにでもシュリーを処刑しましょう!」
「ああ。処刑は予定通りに執り行う。だが、処刑するのは…」
嬉しそうに処刑を決行しようと進言する王太子を尻目に、国王陛下は懐から大きな剣を引き抜く。
そして、その剣の切先は、王太子の隣に座っていたカロリーヌさんへと向けられたのだった。
「カロリーヌ・デュボワ、いや、カロリーヌ・サライ!すでに滅亡した暗殺国家『サライ』の生き残りとして、デュボワ侯爵家もとい我が息子・ライアンに取り入り、国家転覆を目論んだとして、貴様を即刻処刑する!」
まさか、処刑されるのが私ではなくカロリーヌさんであり、しかも『サライ』と呼ばれる暗殺国家の名前が国王陛下の口から聞かされた事により、周囲がどよめき始めた。
それもそうである。『サライ』は昔、この国の辺境の地で療養していた先代の国王陛下を、辺境に住む民ごと惨殺した集団国家なのだ。
彼らを惨殺した者は、今は処刑されてもう居ないうえ、『サライ』は既にこの国の隣に位置するとても強い軍事帝国の手で滅ぼされている。
その『サライ』の生き残りが、まさかカロリーヌさんだとは思わず、私はその場で口をあんぐりと開ける。
アルノー殿下はうんうん頷いたあと、私の手を拘束した縄を外し、私自身をそのまま横抱きにしてから、執行人にこう話しかけた。
「さて、執行人ボルナレフよ。その罪状は、この時を以てして無効となった。そもそも、その罪状が書かれた書状には、父上の署名は記されていないだろう。だから、シュリーの死刑執行も最初から無効だった。この意味、分かるか?」
「ひいぃっ!」
底知れない怒りを表したアルノー殿下の顔に、執行人は恐怖のあまり、その場で尻もちをつく。
まぁ、『そこまでしなくてもいいのに』とは思うが、彼は他にカロリーヌさんを処刑する役割があるはずだ。
私はアルノー殿下の胸に顔を寄せて、上目遣いでこう言った。
「アルノー殿下。そこまで怒らなくてもいいんじゃないですか?結果的に、私は処刑されなかったんですもの。それでいいじゃないですか」
「シュリー…でも…」
困ったように眉根を下げるアルノー殿下がどこか可愛くて、私は首を伸ばして、彼の頬に口付けをする。
その瞬間、アルノー殿下の顔が耳まで真っ赤に染まった。
「しゅ!?シュシュシュ、シュリー!?!?」
「ふふっ。面白い顔ですね、殿下。…さて、そろそろ処刑の時間ですわ」
そう言って、私達は広場にある壇上から降りて、ギロチンの方を向く。
そして私たちと入れ替わるように、衛兵に捕まったカロリーヌさんが、猿ぐつわをはめられた状態で国王陛下と共に壇上に上がった。
「ボルナレフよ。尻もちをついて、ボーッとしている場合ではないぞ?立ち上がって、こちらの罪状を読み上げるがよい。なぁに、この小娘がやろうとしてきた事は裏が取れている。その罪状が書かれた書状には、私の署名も書いてあるからな」
「は、はいぃ!こ、国王陛下の仰せのままにっ!」
厳しい声色を出した国王陛下に恐怖を感じた執行人は、すぐさま立ち上がって、国王陛下から渡された書状を受け取る。
そして、執行人は何回か大きな深呼吸をしたあと、今まで以上に声を張り上げた。
「カロリーヌ・サライは、暗殺国家『サライ』の第6王女で『サライ』の末裔だという事が明らかになった!彼女の真の目的は、この国の王妃となり、隣国である軍事帝国・マヌルスと互角に戦える精鋭部隊『銀獅子』を手中に納めて、マヌルスに復讐する事である!ちなみに、書状に入っていたこちらの書類は、デュボワ侯爵家のカロリーヌの部屋にあったものである!」
執行人が大きな動作をしながら、書状に同封されていた数枚の書類を民衆の前に見せると、広場がより騒然となる。
確かに、書類の方には『マヌルス帝国復讐計画』とカロリーヌさんの名前が示されていた。
正直に言って、カロリーヌさんの気持ちはよく分かる。祖国を滅ぼされてしまったら、復讐したくなるものだ。
けれど、まだカロリーヌさんは『銀獅子』の事を詳しく知らないのだろう。
私は一旦、アルノー殿下にお願いして、一緒にギロチン台の側へと向かう。
そして、長い髪を陛下の剣で短く切られた状態で、ギロチンの台に乗せられたカロリーヌさんに、私はこう言った。
「カロリーヌさん。こんな事になって、申し訳ありません。確かに『銀獅子』は、貴女のお眼鏡に適う素晴らしい部隊です。けれど、たった十人の精鋭部隊だけで、彼らと同等の力を持つ一万の兵がいる軍事帝国に勝てるでしょうか?あと、もし私を本当に処刑してしまえば、きっと『銀獅子』は貴女に牙を向けるでしょう。何せ、あの部隊の隊長は私の兄ですから」
「…ヴー…ウヴー…!」
どうやら、カロリーヌさんは猿ぐつわを噛んだ状態で、血眼になりながら、必死に声を出そうとしている様子。
やっぱり、死ぬと分かっているからこそ、死にたくないと抵抗しているんだろう。
けれどもここで、私が彼女の猿ぐつわを取ってしまえば、思いっきり手を噛まれるのも予想できる。
だから、私はアルノー殿下にしがみついたまま、カロリーヌさんに最後の言葉をかけた。
「カロリーヌさん。貴女は死ぬのが怖いとお思いでしょうが、それは脳が『怖い』と指令を送っているからなのですよ?しかも首吊りは中々死ねないので、ギロチンよりも苦しみが長く続くのです。だから、私は首吊りが嫌いなのです。でも、カロリーヌさんに苦しい思いをしながら死んで欲しくないので、このようなギロチンを用意しました。…もし貴女がこの国を乗っ取ろうとさえしなければ、私を処刑しようとしなければ、こんな結末にはならなかったのに…。残念です。では、カロリーヌさん…さようなら」
「ヴー!ヴ、ウヴー!!」
カロリーヌさんが何かを必死に叫ぼうとしている様子が見て取れたが、もう彼女に用はない。
アルノー殿下に一言声をかけ、私は彼と共にその広場を後にする。
途中で『ザンッ!』という、刃物が何かを斬る音が背後からしたが、私は全く振り向きもしなかった。
※※※
カロリーヌさんの処刑が終わってから数日後。国王陛下は王城の執務室に私とアルノー殿下を呼び出して、とある書類を見せてきた。
「これは、以前処刑されたカロリーヌ・サライが書いた計画書だ。この中には、シュリー嬢を公の場で処刑する他に、私と王妃、そしてライアンとアルノーを殺害して女王になる計画も含まれていた。けれど、我ら王族とシュリー嬢を容易に殺害するのは難しいと判断したのだろう。デュボワ侯爵家の人間と女遊びが激しいライアンに洗脳薬を飲ませて洗脳し、王族に上手く取り入ってから、シュリー嬢の殺害を実行したのだろう」
「…な、なんて女なんだ…!」
カロリーヌさんの考えた計画に、アルノー殿下は怒りが収まらず、身体をワナワナと震えさせている。
それを見た私は、彼の背中を優しくさすって「落ち着いて下さい、アルノー殿下」と声をかけた。
「そもそも、カロリーヌさんを処刑する話は一ヶ月前からあったじゃないですか。けれど、私は誰が処刑されるのか分かりませんでしたし、アルノー様も私がわざと囮になったのを知りませんでしたし」
「だって、シュリーが囮になるのを最初から知ってたら、絶対反発してたしね!しかも、シュリーが『サライ』の生き残りを最初から知ってたら、きっと秘密裏に君の兄上が動くと思って…」
「ふふ。ごめんなさい、アルノー様。私の兄は陛下の影も数年やっていたから、暗殺もお手のものなのです。でも、結局そうしなかったのは、陛下が『サライ』の生き残りがいるのを、国全体に広めたかったためだと思うのですが…。そうですよね、国王陛下?」
「うむ。シュリー嬢の言った通りだ。もしかしたら、まだ『サライ』の生き残りが何処かにいるかもしれない。けれど、このギロチンがあれば、『我が国に来たら、次はお前が処刑される番だ』という脅しにもなる。…だけどやっぱり、処刑はビクビクするのぅ…。人の命を簡単に奪ってしまう。本当は人殺しのない平和な世界が欲しいなぁ…」
陛下は執務室の机に突っ伏して、その下で両脚をブラブラさせながら、泣き言を言った。
普段は結構威厳のあるお方なのだが、オフになると途端に子供みたいになって、誰よりも心優しいおじさまになるのだ。
「父上、しっかりしてください!ここは執務室ですよ!まだ仕事が沢山残ってるんですから、気を引き締めて下さい!」
「いーやーだー!私にもちょこっと休ませてくれよぉ…。グスン…別にいいじゃないか、アルノー。ここには私を甘やかす妻もライアンもいないんだし、心配しなくてもすぐに復帰するもん!」
「はあぁ〜…全くこのお子ちゃま陛下はぁ〜…」
アルノー殿下は大きなため息をついて、自身の額に右の手のひらを置く。
私は陛下の話を聞いて、ふとライアン殿下の事を少し思い出した。
ライアン殿下は、カロリーヌさん処刑の件があってから、抜け殻のように真っ白になってしまった。
この状態では王太子に、ゆくゆくは次期国王になるのは難しいと判断され、今は王太子の地位を剥奪された状態で、王城の近くにある古い塔の中に幽閉されている。
ちなみに、私とアルノー殿下が牢屋で面会をしたあの日、アルノー殿下はライアン殿下が侍らせていた数人のご令嬢を『国王陛下の王命』で捕縛した。
どうやら彼女たちも、カロリーヌさんに洗脳薬を飲まされ、彼女から『ライアン殿下との間に子を成すように』と言われていたようだ。
なにせ、婚約者がいる身でありながら他の女性を孕ませてしまうと、重罪になってしまうのだから。
きっとそれを見計らって、カロリーヌさんはライアン殿下に罪を被せ、彼の処刑を目論んでいたのだろう。
本当に『サライ』の生き残りなだけあって、カロリーヌさんは悪女だったんだなと、つくづく思う。
「あ。そういやアルノー、王太子としての仕事は順調か?」
「…ん〜。まぁぼちぼちです、父上。王太子としての業務の半分は、兄さんに押し付けられていましたし。けれど、どうやら兄さんが今までやっていたのは、比較的楽な業務だったと気付いたので、多分一ヶ月もあれば全て習得できるかと」
「ほほう。確かにライアンは頭があまり良くはないが、楽な仕事と大変な仕事を分ける能力はあったか。はっははははは!」
国王陛下はアルノー殿下からの報告で、ライアン殿下の事を思い出して笑っている。
かくいうアルノー殿下も「確かにそうですね」と言いながら、口角を少しあげていた。
実は、ライアン殿下が王太子を降りたあと、第二王子であったアルノー殿下が次の王太子に選ばれたのだ。
もちろん彼の婚約者は私であり、処刑が行われた日の夜にアルノー殿下にプロポーズされて、このような形になったのである。
まぁそもそも昔から、私もアルノー殿下の事をライアン殿下以上にお慕いしていたので、即答でお受けしたのは言うまでもない。
とにかく、これで国王陛下との話し合いは終わっただろう。
私はアルノー殿下と一緒に陛下の執務室を出て、手を繋ぎながら広い廊下を歩いた。
「…はぁー…。本当にシュリーが生きててよかった!そして婚約も出来てよかった!きっとシュリーが死んだら、僕も後追い自殺する事になってたかもしれないから、死ななくてよかったよ!」
「んもぅ、大袈裟ですね、アルノー様。まぁ、処刑されてもされなくても、絞首刑にならなかっただけマシですから。こう見えて、手や縄で首元を圧迫されて、苦しみながら死ぬのが怖くて仕方ないのです。だから、ギロチンがあって良かったなって思います。仮に私が罪を被って処刑されても、苦しまずにスパッと死ぬ事が出来ますし、天国にもすぐに行けますし」
「はああぁぁぁぁ〜…!本当に君って子は!『僕と一緒におじいちゃんおばあちゃんになるまで長生きする』って事も考えてくれ!君はもうすぐ王妃になるんだから、絶対に悪いことしないで、そのまま一生僕の側にいてくれよ?」
「ふふっ。心得ました、アルノー様。国のため、貴方のため、そして私のために長生きしますね」
そうして、私はアルノー殿下の腕に自分の腕を絡めて、笑ったのだった。
その後、この国には処刑制度が一部残ったものの、次期国王の計らいで、公の場にその光景を晒す事は一切なかったという。
そして、隠された処刑場の中には、今もギロチンの処刑台が静かに置かれていたとかいなかったとか。
とにかく、この国での処刑は、ほぼ無縁のものになった。これからも処刑を受ける人が誰一人出ないよう、祈り続けるとしよう。
(完)
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
よろしければ、感想や「☆☆☆☆☆」の評価、いいね等つけて下されば幸いです!よろしくお願いします!(^^)