蝶に口吸い
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
最期の最期で悲恋な恋愛です。
恋愛だと思ってます。
服を着たまま、水の張ったバスタブに体を沈めて天を仰ぐ。やる事と言ったら天井の染みを数える事くらい。それ以外にやる事なんてありはしなかった。
「風邪を引いてしまうよ」
開け放たれたドアから一人の青年が入ってきた。彼は一つの忠告だけを済ませると、浴槽から垂れ落ちた髪を撫で付けてくる。
忠告する癖に、私の手を取ってこの世界から救い出してはくれない様だった。心配する振りして、中身は何も思ってない。同じ顔して、中身は真反対。偽善者め。
「今日、いいえ、昨日も一昨日も、沢山の揚羽を見掛けたわ。どの子も、その子も私の周りをヒラヒラ舞った後、花弁の中心に頭を突っ込んで蜜を啜ってた」
「珍しい事じゃない」
縁に頬杖を着いて、さもくだらなさそうに返してきた。話がつまらないという事を、顔を、行動を使って表してくる。退屈ならさっさと去れば良いのに、物好きにも延々と髪を撫で続ける。
「その中でも綺麗な青色をした子が私の前スレスレを横切って、何かを思い出した様に振り返って来た。それからそっと……んっ」
唇に人差し指を当てた。所謂『しー』という状態。そのまま彼の方を向くと、興味を惹かれた様に切れ長な目を見開く。態々体を起こしてしげしげと動向を観察する。
「私の唇に止まって、口吸いして去って行った」
そう。何かを思い付いた様に、振り返って来たのだ。それから六本の足を必死に絡ませて、唇に止まった。停止する事数秒。満足した様に羽ばたいて、サヨナラした。
何かの暗示なのかも知れない。何か起きる予兆なのかも知れない。良いも悪いも分からない。ただそれだけ。本当にそれだけ。
「吸われたんだ。魂を」
「さぁ。吸ったのは私の命じゃないかも知れないわ」
突如、浴室に着信音が鳴り響く。手短に断りを入れると端末を耳に当てた。短い相槌、形の良い眉に皺が寄る。どうやら凶報であるらしい。立ち上がって電源を落とすと、冷ややかな目のままに私を見下した。
「凶報だよ。私の兄が亡くなった。何でも事故の様だ」
「……そう……」
最期の最期で、蝶に姿を変えて私に口吸いしたのかも知れない。さようなら、貴方の兄。私の恋人。
蝶って、何でも極楽浄土に魂を運んでくれる生き物の様で。
その蝶をやたらに見掛ける、口吸いする、という現象を受けて、身近の誰かがお亡くなりになるのでは無いかと予測を立ててます。
そうして、それから離れる為に水風呂に入ってます。
衣類着ているところから、気は間違いなく動転してると。
その嫌な予感から逃れる事が出来ず、最期は亡くなってしまいました。
唯一の救いだったのは、形を変えたと思しき恋人が、口吸いをしてくれた事だけかと。