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トニトルスからの念話

『……んっ? どうした、トニ………』


「……緊急転移だと? 物は?」


「……林?」




 ウッドデッキに居る古竜お爺ちゃんとネブラさんに他にリクエストは無いか確認していたら、ダールさんが顔色を変えているのが見えた。


 念話の返事を声にも出して、念話の出来ない皆にも聞こえるように返しだした。


 念話は出来る者が限られる上に、話している当事者の近くに居ないと聞こえないものらしい。


 召喚者の私やシリウスが、やたら他の人の念話まで拾ってしまう方が稀なのだそうだ。


 慌ててダールさんの元に戻った。




「………分かった! 用意が出来次第で……ああ………」


「詳しくは後だが、ポンが会ったアラクネを魔族国から急ぎで保護したいそうだ怪我をしているらしい……よいか?」


「アラクネさんが怪我だなんて、何が起きたんでしょう?………とにかく、よろしくお願いします」


 ダールさんが隊長さんに話すと、直ぐにルクスペイさんが作ってくれた湖の見える場所に移動した。ダールさんを中心にして、土魔法の出来る者で大きくえぐっていく。


 あっという間に土が掘り上げられて小山が出来上がった。




 ダールさんが一人、掘られた穴に飛び降りると中心まで走って行った。


『よし! 準備出来たぞ』


『……一、二、三、ドーン!』


 トニトルスさんの意外とおちゃめな念話が聞こえた。次の瞬間、上空に魔法陣が浮かび上がりドドンと地響きと共に土がモウモウと舞い上がった。


 目の前の穴があった場所には林が出現していた。改めて転移魔法って凄いわ! 


 あれ……ダールさんは? まさか埋まった?


『ダールさん⁉ どこ〜?』


『…ポン……そんなに大声でなくても大丈夫だ……』


 ダールさんは林の中にある、大きな木の上から飛び降りてきた。


「まったく……トニは…俺を目掛けて転移させるのはいいが、こうもギリギリだとな……怒らせるとこれだから……」


 しばらくブツブツ言っていたが、この方が念話にはならなくて聞かれていないそうだ。覚えておこうっと。


 ダールさんを座標代わりにしたって事らしいけど、タイミングを間違えたら埋まっていたんじゃ……絶対にトニトルスさんを怒らせてはいけないと、改めて思ったのだった。




 この林の中にアラクネさんが居るらしいのだが、梢が転移の振動に揺れ動いていて居場所が分からない。




「……うわ〜地面ごとの転移は初めてだったけど………ちょっとクラクラする?」


 なぜか林からボー兄さんがフラフラと出て来た。肩には項垂れたカー君が、爪を立てるように掴まっている。


 ボー兄さんは崩折れるように座り込むと、カー君を優しく撫でた。私達に気付くとニカッと微笑んだ。


「アラクネ君の付添いと思ったんけど……これは、キツかったよ………」


 そう言うとカー君と共にパタンッと仰向けに寝そべってしまった。カー君はボー兄さんに掴まったまま、カタカタとくちばしを動かした。


「……カ、カヵ? (なんでだろ、いきはへいきだったのに?)」


「楽で早くて、イイねって思ったのにね~」


「「ボー兄さん! カー君!」」


 私達は慌てて駆け寄ると、ダールさんが診てくれた。どちらも脚を上げたまま、頭さえ動かせずにいる。




「……どっちも大丈夫だ」


「……ちょっと、休んだら大丈夫だから……それよりアラクネ君は奥の方に居るから、ね」


 隊長さんとニクスさんがアラクネさんを探しに、林の中に入って行った。


「カ〜? カカ…カカヵ(ちょっと…じゃないよ? でも……なれないかな、らくだし)」


 アピスちゃんは小さな手で少し呆れながらも、カー君の頭を撫でてやっている。


 私はボー兄さんの頭を起こして膝に乗せると、シリウスが水を飲ませてくれた。


「行きは平気だったのに、何でだろう?」


「……んっ? 転移陣の範囲の影響か……それとも立て続けがダメなのか……」


『そこは検証の必要がありますね……種族の違いもみたいですよね』


 ダールさんもトニトルスさんも研究者タイプらしい。すっかり念話ながらも、色々と仮説をたてている。


 長座布団のようなマットとクッションを幾つも出すと、ダールさんにボー兄さんを運んでもらった。


 ケットシーは私より頭一つ分位、背は低いが筋肉質で体重は私より重い。私では抱いて運ぶ事が出来ないのだ。今では、シリウスも重たくて持ち上げられない。




「……リっちゃんは、帰ってきた?」


 ボー兄さんはクッションにもたれると目だけ向けてきた。まだ体は動かないみたい。


 ボー兄さんが魔族国に向かう時、リスのリっちゃんはシリウスに“遊びに行ってくるね”と伝言を頼み居なかったのだ。でも本当のところは、同行したくなくてヴェア兄さんのたてがみの中に隠れていたそうだ。


「……さっき見た時は医務室で、アラタの枕もとで一緒に寝てましたよ」




 ベッドの横にはヴェア兄さんが寝ていて、リっちゃんはアラタの頬に小さい手を添えて寝ているのが可愛いかった。リスの身で転移するのは怖かったみたい。


 当初はカー君も怖がっているとばかり思ったのだが、以外なまでに好奇心おおせいで怖くても試さずにはいられないらしい。さすが魔獣というか、ボー兄さんに育てられただけはある。


「……そっか〜無事ならいいんだ……」


「カカ、カカヵ〜(かしこいやつだ……きにせずに、おしえてほしかった……)」


 ボー兄さんの横でカー君が残念そうに、くちばしをカタカタと震わせていた。今回は里帰りを兼ねていたからね、リっちゃんなりに気を使ったのかも。




 草藪から、何故か隊長さんとニクスさんが気絶したリザードマンを抱えて出て来た。何となく古竜お爺ちゃんに会いに来た三名かなと思うんだけど。見分けがつくわけじゃないんだけどね。


 シリウスが鼻をクンクンさせると、ニパッと笑った。


「やっぱり、会った事あると思ったんだ〜前に、お爺ちゃんに会いに来たよね」


「でも、どうして此処に?」


『トニ、アラクネ以外は排除しなかったのか?』


『緊急だったので肉食獣だけ、はじいたんですが……誰が居ました?』


『ブローの眷属になったリザードマン達だ……だが、何故か気絶しているぞ?』


『……やはり転移のせいですかね? 個体の魔力量なのか、それとも……とにかく後で研究者を向かわせますね』


『ポン……確かエルフの魔族研究者が残っていたよな?』


『ヴェア兄さん〜イーレさんを連れて来て欲しいの。前に会ったリザードマン達が気絶してたんだよ』


『……イーレ殿なら安心ですね。後で詳しく、お聞きします』


 イーレさんが到着するまでに診察や付添いが出来るように、大型のテントやテーブルや椅子を出して準備する。




 隊長さんとニクスさんが今度は違う茂みに入って行った。


『それで何があったんですか?』


『城はほとんど揺れませんでしたが、幾つかの集落の一部に被害が出たという事で見回りに出たのです。私が近付くと数匹のアラクネが逃げて行きました。あのアラクネは脚が千切れかける程の怪我をしていましたが意識はあり、ポン殿に会いたいと言っていました。アラクネとしては変わり者のため、排除しようとしていたのでしょう。種としては間違っているともいえないですからね』


『狩りより作品を作るのを優先させただけで?』


『肉食獣の性から見れば、種族全体を危険にさせると判断されたのでしょう』


『保護していただいて、ありがとうございました』


『ポン殿の知古ですからね……それよりもケットシーとクーシー達には助けられましたよ。魔族を恐れることなく、偵察に赴いてくれましてね……これからも常駐して欲しいところです』




 時期に隊長さんのマントを担架替わりにしてアラクネさんを運んで来てくれた。


 一目で体の真ん中当たりにある脚が、変な方向に折れ曲がっていた。体にも擦り傷やえぐれた跡が見える。千切れかけていた足は、トニトルスさんが応急処置をしてくれたそうだ。


 アラクネさんは、やはり気絶していた。痛みからなのか、それとも転移のせいなのか。ボー兄さんとカー君は意識があったのに何でだろう。


 何も出来ずに気をもんでいたが、時期にヴェア兄さんと一緒にイーレさんが駆けつけてくれた。


「イーレさん、ヴェア兄さん、ありがとうございます」


「アラタはネブラ様がみてくれているぞ……ボーが動けないなんて珍しいな、なんでだ?」


「ハハッ、僕もこんなの子猫の時いらいだよ〜」




「……アラクネは傷跡は残るでしょうが、命に別状はありません」


 イーレさんは千切れかけた足を正しい位置に直すと、魔術で固定してくれた。これで一安心だ。


「気を失っているのは……どちらも魔力酔いのように見えますが………ボー殿とカー君は意識はしっかりしているのは、思ったよりもケットシーの魔力が高いからか? しかし、大鴉もか……」




 気絶したリザードマンとアラクネさんを診終わると、イーレさんも研究者モードに入ってしまった。


 ボー兄さんとカー君が動けなくなる程に消耗したとはいえ、意識はハッキリしている。何とも研究者心を刺激されるらしい。


「………もしかして……ポン殿の変性した料理を食べていたからでは?」


 隊長さんが顎に手をやりながら考え込んでいる。


「なる程! 少し前からポン殿の料理を食べると、魔力が上がっていくのではないかと思っていたのです。我々は常食してますが……確かアラクネとリザードマンには一度だけでしたよね?」


 あ〜唐揚げとワッフルクレープか。ニクスさんまで目をキラキラさせながら勢い込んで話し出した。


『では……薬草園の転移の時に、ポン殿の料理を一度も食べた事のない者と雷電隊の方を一緒に送ってみても宜しいですか? それと魔王様特製ポーション(魔王の血入り)を常用している者も検証してみたいですね』


 うッ、それは吸血族の事だよね?


 既にトニトルスさんだけでなく、エルフや雷電隊とも合同で研究する話にどんどん進んでいく。


 テーブルの上にはルクスペイさんが作ってくれた湖から川までの地図が描かれ、薬草園を何処に出すかとか甘味畑はどうするかだとかで盛り上がっている。


 私が声をかけても誰も聞いてない。こんなに皆が研究好きとは思わなかったよ。




 直ぐにはアラクネさん達も目を覚ましそうにないし、皆の話が落ち着かないとどうしようもない。


 戻った時にアイテムボックスに色々と補充しておいて良かったわ。テーブルに、お茶やお菓子も出しておいた。


『ニクスは、ああなったらしばらく動かないわね』


 アピスちゃんはクッキーをつまみながら、ため息を付いている。


『ニクスさんって武闘派だと思ってました』


『よくわからないけど、ニクスの話だとブンブリョウドウ? でこそエルフなんだって』


 まだ起き上がれないボー兄さんに、キスルンルン飴を口に入れてやる。私達がすっかり寛ぎだしても話は終わりそうにない。何度か、お茶が入ったって声は掛けたんだけどね……


 このままでいくと自治領は研究所だらけになりそうだ。


 魔導国が散々やらかした後だけに手綱は必要だけど、種族の垣根を超えた友好研究機関にしていけたら良いかもしれないよね。






『アラタが目を覚ましそうじゃぞ』


 ヴェア兄さんの替わりにアラタに付いていてくれた、ネブラさんから念話が入った。


 一緒に戻りたいというボー兄さんをダールさんが抱き上げ、隊長さんがカー君を抱き上げて皆で医務室に走って行った。





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