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閑話 シリウス

 僕、シリウス。

 どうやら異世界に行って帰って来た初のケットシーみたい。ちょっとかっこいいでしょ。

 ポンちゃんがケットシーの郷で倒れて、一番近くの宿に運び込んだんだ。

 ここは国境とかで、かろうじてケットシーの郷のあるフォートリュスの中にあるから宿の人もなれているんだって。

 ルーチェは僕を探しに行った時に人族に捕まりかけてヒドイめにあいかけてから、人族が苦手になってしまったらしい。少し落ち着かないみたい。ごめんね、ルーチェ。


 その時はミルト兄さんが助けてくれたんだって。

 ミルト兄さんもかっこいいでしょ。今でも、その時の傷跡が残っている。

 兄さんはぜんぜん気にしてないみたいだけど、今だにルーチェは凄く申し訳なさそうにしているのがわかる。

 もとはといえば僕なんだけどね~


 ルーチェには悪いけど、ポンちゃんは人だからケットシーみたいに木の上や、うろの中では休ませられないんだよね。

 今はルーチェと兄さんは宿のまわりをていさつに行ってる。ポンちゃんのことは気にいっているみたいで安心したよ。



 ポンちゃんは休みの日はよく寝るから起きなくても心配してなかったんだ。


 二日目になっても起きなくて。その時……エッと〜お仕事で旅行に行かなければならなくて僕はペットホテルに預けられたんだ。

 翌日に迎えに来てくれたポンちゃんは僕と同じくらいヘロヘロだった。心配で眠れなかったって。

 僕もポンちゃんもまる一日寝ちゃったんだよね~

 ポンちゃん「夕方の六時前に寝たのに起きたら四時って何で?」って、しばらくびっくりしてたよ。


 だから起きないのは、いきなりここに来ちゃったし寝てなかったし、しかたないって思ってたんだ。

 僕も人の里? 宿の中や村も見たかったしポンちゃんの着替えとか探してて、わりといそがしかった。

 長老が人のお金を持っていて助かったんだ〜

 フォートリュスの王様のお仕事もするから持ってるんだって。さすが長老だよね。


 でも二日目がおわるころ、急に不安になったの………人ってこんなに寝れたっけ? お腹すくよね?


 僕はポンちゃんの胸に耳をあてたけど、いつものように大きくゆっくりと心臓の音がしてた。

 僕はホッとして口や耳の後ろを嗅いだけど、いつものいい匂いだった。

 思い出して手をおでこにあててみた。人はこうやって熱がないか診るんだよね? たぶん、いつもどうりだ。

 僕はそっとポンちゃんの頬を押してみたけど、ぜんぜん起きなかった。

「ねぇ、お腹減ったよ~起きて〜ねぇってば〜」

 いつもなら「目があかないんだけど」って言いながら、目をシパシパしながら起きてくれるのに動かなかった。

 僕はポンちゃんの手を嗅いでから噛んでみた。少し歯形がついたのに起きないんだ。


 僕はじめて怖くなった。

 耳も噛んだし髪の毛も引っぱったけど、やっぱり起きないんだ。

 これだけはしないでって言われてたけど、お腹の上に乗って胸の下あたりに手を乗せて体重をかけてみた。いつもなら「グフッ」って飛び起きるのに……何で起きないの?


 僕がポンちゃんの身体を起こそうとしている時に、長老とルーチェとミルト兄さんが部屋に入ってきた。ポンちゃんの上に乗っている僕にびっくりしてた。



「ポンちゃんが何しても起きないんだ! どうしたらいいの?」

 長老は僕を横に座らせるとポンちゃんの頭から足まで、しっかり見てくれた。


「………召喚された時、確かに側に誰もおらなんだのだな?」

「うん、オークの群れには会ったけど探していたようには見えなかったし……オークって召喚できるの?」

「いや……そんな話は聞いた事がないの……」

「……本来なら召喚者の前に出るはずなんじゃ……それが居なかったとなると……何かが起こったんじゃな………」

「ケットシーを召喚するとは思えん……本来はポン殿だけ召喚されたのだろう……う~む……」

「何でかは分からぬが、シリウスが一緒に来た事でケットシーの郷の近くに出れたのかもしれんな………」

「何で起きないんだろう?」

「みたところ、ただ寝ているようじゃ……召喚された者の身体には負担も多かろう………時間はかかっても落ち着けば目ざめるじゃろう……あまり心配するでない」


 長老の言葉で、僕はやっと落ち着いたんだ。知らない間に逆だってた毛が、ゆっくりともどっていった。

 思い出した! そういえば僕もずっと寝てたってポンちゃんが言ってたよ。そうだよ。ぜったい起きたら、お腹へった~って言うんだ!


 長老が凄くものしりで驚いた。

 子猫の頃は長老に会う事なんて、めったになかったんだ。どちらかというと恐いくらいかなぁ? でも今は、凄く安心できるし長老がいてくれてほんとうに良かった〜



 僕みんなには崖から落ちたら異世界に行ってたって話した。

 

 でも、ほんとうはちがうんだ。なんか……すいこまれてくみたいな。

 

 ちょっと遠くまで遊びに行った時なんだけど。

 空中に縦に切れめができて、そこから見たことない光がジワジワって広がっていたんだよね。

 僕よく見ようと近付いたの。そしたらまるで光が僕を飲みこもうとしているみたいに伸びて来たんだ。まるで生きものみたいに僕にひっつこうとしたんだよ。


 僕、捕まらないように必死で木に爪をかけてがんばったんだ。でも僕の爪の力に幹が砕けてしまってさ〜あっという間に、シュポンってすいこまれちゃった。

 どのくらい気を失っていたのかわかんないけど、気がついたらポンちゃんの家だった。

 たぶんだけど、じげんのひずみとかきれつ? とかじゃないかなぁ。映画やアニメだと、そんなかんじだった。

 ほんとうの事うまく言えそうもないし、たぶん怒られると思うんだよね。だから、しばらくないしょね。


 帰って来た時は、ききいっぱつだったの。

 ポンちゃんのもとに真っ直ぐ走って行ったんだけど、道路の下からライトを照らしたみたいに光があふれだしててさ〜僕いそいでポンちゃんに飛びついたんだ。

 前からは車のライトがまぶしくて下からは光がドンドン強くなっていって、気がついたら森の中だった。


 今ならわかるけど、あれが魔法陣だったんだね。

 ぜったいポンちゃんも一緒だって、僕にはわかってたからさ。それに、なんでか帰って来たのもわかったんだ。

 あんなにしんどかったのがウソみたいに楽になって、どこまでも走っていける気がしたのは子猫いらいだと思う。うん、あの瞬間の事は忘れないよ。



「……シリウスがしっかりしてなくちゃ。ポンちゃんが困るんだからね」

 さすがルーチェだ。どんなに離れていても分かっているね。

「見回りの時にシリウスが好きだったツチェの実があったから取って来たわよ。ほんとなんで肉も魚も生で食べられないのよ? 前は食べてたじゃない……」

「あんな事を言っているけど、わざわざ探して採って来たんだよ。食べ物の好みが変わったって心配してさ」

 ミルト兄さんがそっと教えてくれたよ。僕、転移してから生の肉も魚も苦手になっていたんだ。

「うん! ありがとうルーチェ……」


 ルーチェって口は悪いけど本当に優しいんだよ。僕テレビで初めてツンデレの娘を見た時に「アッ⁉ ルーチェだよ~」思ったら、会いたくて泣いちゃったよ。


 不思議なんだけど、転移してから涙は出なくなったの。

 すごく寂しかったり悲しくて泣きたいのに涙が出ないと苦しくて。

 僕は、もしかしたらケットシーだと思っていたのは夢だったのかなぁ? 本当は猫なのかもって思ったりしてね……怖くて不安になっちゃった事もあったんだ。


 でも、そのたびにポンちゃんが何でかギュッてしてくれるんだ。

 そうすると、なんだかバラバラになりかけてたのが戻るみたいな? 僕は僕なんだって思えるんだよ。

 ポンちゃんって本当に不思議でしょ? いつだって一番欲しいものをくれるんだ。

 いっぱい泣いたらお腹が減って、ご飯食べたら動けるんだって。エッと〜ポンちゃんが、涙は心のシャワーだって言ってたよ。

 涙は、戻って来たらまた出るからビックリしたよ~

 本当に転移って不思議だよね。


 僕は心配するのやめて、ごはん食べて起きるの待ってるよ。だから、なるたけ早く起きてね、ポンちゃん。

 話したい事や見せたいものがいっぱいあるんだ。すっごく楽しみ。




投稿するようになって一年という事で、転移した頃のお話しです。

まだまだ、シリウスとポンの旅は続きます。どうぞ、これからもお付き合い頂けたら嬉しいです。

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