従魔契約だと⁉
頭がぼんやりする………
いつものようにシリウスの身体を撫で、何とか目を開けようとするが諦らめる。
「…なんか変な夢見た……」欠伸をして寝返りをうつと、シリウスに引っ付く。
「夢?」
「うん…異世界に行ってね……あれ?」
私はしょぼつく目で何とかシリウスを見上げると、シリウスは起き上がって私を見下ろす。
「それ夢じゃないし」私は飛び起きるとまわりを見回した。
足元にはミルトと、その胸に顔を埋めて、ルーチェが眠っていたが、ミルトは片目を開けるとウインクしてきた。なんかイケニャンなんだけど…
そこは見た事のない部屋で、ちょっと古民家風の木造の部屋だった。
私はそのまま天井を見つめた、あんな所にシミが……イヤイヤ、逃避してる場合じゃないわ。
シリウスは私の頬をムニッと押すと、頭をテシテシ叩く。
「もう3日も寝てたんだよ! 考えるのは後、まずご飯が先だから」
「3日って……まさか〜」シリウスは呆れたような、でもホッともしてるみたいな、複雑そうな目付きだ。
「冗談かと思ったわ……ゴメン、心配したよね」
「ここは人間の村だから安心してね」
急に小声で「オークを飛ばしちゃった所」
それから勢いよく立ち上がると「起きれそうだね、ご飯持って来てもらうね」
じきに食事が運ばれて来た。
宿の女将さんは優しそうな感じだけど、見るからに西洋人の顔立ちで、服は中世ヨーロッパの農家さん風だ。
食事は野菜スープに硬めの黒パンにチーズと、いたってシンプルなものだったが、あっと言う間に食べてしまった………
おかわりって言ってもいいのかな?私のソワソワした様子に、すぐ注文しに行ってくれる。
さすがシリウス、わかっていらっしゃる。私の食事が終わると、シリウスが真面目に話しだした。
「少しは休めた? 一番近い人間の村がここしかなくてね」
「シリウスが居ても大丈夫なの?」
なんでも隣国はたえず戦争をしていて、ここは隣国からの避難民のために、この国の王が作った村だそうだ。
この国は元々ケットシーとは共存していて、人間だけでは大変な魔獣とかが出た時など、人間の軍より応援要請が出る、そのかわり、人間は手仕事を提供すると、それなりに上手くやってるそうだ。
シリウスは両手に持っていたコップをテーブルに置いた。
「あれから長老とも色々、話したんだけど……本来は召喚術を掛けた者の所に出現するものらしいんだけどね…ケットシーは勿論やらない、そうすると誰が召喚したのか…今の段階では見当もつかないんだよね」
私はゲームや映画なんかのシーンを思い浮かべた……たしか、そんなだったかな?
「この国の名はフォートリュスって言って、何百年もケットシーとは共存してきた歴史があって、現国王と長老も親しいらしい、それでこの国が召喚したとは思えないって話しでさ」
と、その時テーブルの上のコップがカタカタ揺れだして、あわてて手でおさえる。
「地震?」シリウスはさらに表情をくもらせる。
「僕達が召喚されてから地震が続いてるそうなんだ……それで、この国の王が会いたいって、でも今は隣国が戦争を仕掛けてきそうで、城を空けれないから来て欲しいって迎えの兵があと3日位したら来るよ」
「なんか話がどんどん大きくなっていくね……」
「そうなんだよね~でも僕達の魔力とか誤魔化しようがないらしいしね」
「なんか頭の痛くなる話だよね……ア〜ッコーヒー飲みたい………ここにある?」
シリウスは首を振りながら「起きたら言うと思ったよ、でも無いんだよね」
もう終わった、カフェイン抜きでは生きられない。
私はテーブルに突っ伏したまま目だけを動かした。私はルーチェを起こさないように目で、シリウスに問う。
シリウスは愛しそうにルーチェを見つめる。
「ぜったい離れないってきかないんだよ、ミルト兄さんは巻き添えだね、申し訳ないよ……」
きっとシリウスが行方不明になってから、ぐっすり眠った事がなかったのだろう……私達が、お喋りしていてもピクリともしない。
後でじっくり聞いたところでは、シリウスが行方不明になってから不安定になってしまって、ミルトが付きっきりになっていたとか。
でも、ある日なかなかシリウスが見つからない事に焦って、ルーチェがムチャして隣国に一匹でシリウスを探しに行ってしまい、あげくに捕まりかけてしまった時にミルトが助け出してくれたそうで、右目の下のキズはその時のものだって。それ以来、ミルトが視界から消えただけでパニックするようになってしまったとか…
ミルトはトイレにもついて来るしね~って、ため息をついてたよ。それも大変だよね……おきのどくです……
なんかね、そりゃ実の兄に続いて幼なじみのミルトまで怪我とかなんて、分かるわ〜
私も、そんなの考えたくないよ。二度とルーチェに、そんな思いさせない!ここに誓う!
「やんちゃだけど情が深そうで、可愛いよね」
「僕達、兄妹二匹だけだから辛かったと思う……あんまり変わってなかったけどね、フフ」
「でも毛の質とか、ぜんぜん違うね?」
「僕達二匹共、生まれつきの特殊個体だからね〜」
「特殊個体って?」
「元々ケットシーは使える属性を一つ持って産まれてきて、あとは自分の好みとか使いたい魔法を身につけてくんだけど僕達、二つ持ちだったんだよね」
「う〜んッ、たとえば人間の服で例えるなら僕は三つ揃えのスーツにロングコートも着てる感じで、産まれてすぐに水と氷魔法が使えたって…ルーはサマーワンピース一枚だけ着てるみたいな感じかな?あの娘シングルコートなんだよ、だからかわからないけど火と風魔法が得意でね〜『母さんのお腹に居る時に一枚獲ったんでしょ!』ってこぼしてたよ…なんでかケットシーにしては寒がりだし」なんという例え……
でも確かにシリウスの体毛は凄い、毎日のブラッシングが大変だったわ~
「やっぱり私も魔力とか……ついてくの?」
「すでに長老達と話せてたじゃない、言語補整それも魔力のおかげだね」
「長老の仮説なんだけどね……魔力の少ない所では、本来僕は助からなかったはずだったって、従魔契約が出来たというのも君には使えなくても元は魔力が備わっていたんじゃないかって…僕と従魔契約した事でエネルギー交換されて、それが相乗効果となっていたんじゃないかって…君の身体が大量の魔力に対応できるように整ったら…さらに強い魔力を生み出せるようになるのでは、とか言ってたよ……」
「ただ…僕が思うに……僕には元々魔力の受皿が有ったけど君には、ほとんど無かったわけで、整うっていうのが例えば魔力の流れを整える位なのか、細胞レベルで作り変わるって事なのかでは大きく意味が違うよね………」
私達は、しばらく見つめあった。ムッッチャ怖いんですけど~!
「そういえば、シリウスの名前って?」
「それはね~君が僕の名前を考えてくれてる時に、シリウス! 僕の名前はシリウス! って念じてたの、そしたら通じたんだよね~あの時は感動したよ~」
「うわ〜、それも従魔契約のおかげなのかな?」