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雷電隊って……

 暫く走っていると、またヴェアの唸り声が聞こえた。


『待て! ………凄い血の匂いだ』 


『……たしかに…』シリウスと長老猫さんも立ち止まると辺りをうかがった。


 私達は用心しながら、ゆっくりと先へ進んで行った。

 もう私の嗅覚でも分かる程に、辺りは血の匂いで充満している。


 草藪の間から前方の草地をそっと覗いてみる。




「ウワッ!」


「ウゲッ!」


「なんと!」


「なんじゃ、こりゃ〜!」


 目の前の血溜まりの真ん中にオークが山積みされていたのだ。


 私達は念話も忘れ思わず声を出してしまった。


『……迂回しましょうか?』犯人に聞こえただろうか? 今更だが念話で聞いてみる。




「……その声は………ポン殿ですか?」


 こんな事する知り合いは居ないと思うんだけど……オークの山の後ろから、剣を杖のようにして血塗れの人影がゆらゆらと立ち上がって、此方に手をあげてきた。


 さらに槍にすがるように立ち上がる全身が真っ赤な人………まさかの知り合いだった。


「ボスコさん? あっラソンさんでしたか……」


 横から、もう一人が血を滴らせながら立ち上がってきたのにビクッとする。ホラーは得意じゃないんだけどな〜状態異常耐性がなかったら心臓がバクバクいってただろう。


「……コルスさんも…………」


「ああ………びっくりした~何があったの? 隊長さんは?」


「自分達、三人だけです……飛ばされると直ぐにオークの群れに出会いまして……」


「えっ⁉ たった三人でこんなに倒したの? 怪我は?」


「……いや~いい土産になると思いまして。三人共、かすり傷くらいです」


『ああ~』シリウスの呆れた声が念話で聞こえる。


『やっちゃったね……』私も念話でこぼす。とりあえず片付けないと………




「そ、そうですか……皆も喜ぶと思います……とにかく怪我がなくて良かったです……」恐るべし雷電隊! これが狂戦士(バーサーカー)状態なのかな? いやいや、すでに充分に恐いけど……まだ余力がありそうだしなぁ……




 話しには聞いていたんだけど……当初“猛々しい事、雷の如し”みたいな意味で雷電隊と呼ばれているんだとばかり思っていたのだ。


 でもよくよく聞いていると斬撃に雷や電気を通せるのが基本スペックで、後は各々が隠し技とか色々と持っているそうだ。


 まさに、そういう意味で少数精鋭部隊なんだそうで、その力はエルフや魔族にも引けをとらないとか……正直、話しを盛っているとばかり思っていたんだけど。


 フォートリュスの王様も、そんな凄い兵を就けてくれるなんて今更ながらに感謝している。




「何匹か取り逃がしたのが惜しかったです……」


 何言っているか分かりませんね……後で隊長さんに釘を指しておこう。あっと言う間にオークが絶滅危惧種になってしまうわ。


 すでに血抜きもしているそうな………恐る恐るシリウスの顔を覗き込む。


『厨房班の皆様、何かゴメン! 頑張って一緒に仕込みしようねって、伝えておいてね~』ボー兄さんに念話でお願いしておく。


『………ちょうど食堂にカナル君が居てね……今、厨房班に怒られてる…………ああ~うん。なんか氷室を増やすって……』


 やっぱりか………ボスコさん達、帰ってからが大変かも。今は戦意喪失してほしくないので後程という事で。




 このままにしておくと血の匂いに魔獣が集まってしまうとかで、一体づつ水魔法で洗って私とシリウスのアイテムボックスに入れていく。雷電隊の三人も洗って風魔法で乾かしてと、大急ぎで片付けていく。


 数えながら入れていくと全部で二十七体だ……厨房班が腱鞘炎にならないといいんだけど。オークも、もっと早く逃げる判断をして欲しかったな~


 血の染み込んだ地面をシリウスが土魔法で深く鋤き込んでいく。


 思いの外、時間を取られてしまった。気を取り直して皆で走りだす。


 この日より、オークの間で人族は絶対に舐めてはいけないと言われるようになったそうだ。遅いよ、ほんと。




『……そういえば……隊長さん、模擬戦とかだと三対一とか片手とかでやってたよね? ハンデだとか言って……』


『俺がエルフの戦士並だと言っただろうが? 人族にも、あんなのが居るとはな……』ヴェア兄さんが唸った。


『何気に、めちゃ強だよね~アッ⁉』


『て、いう事は………ボスコさん達よりヤバい?』


『アチャ~ちょっと恐くなってきた~』


 私達が、いきなりため息をついたのにボスコさん達が怪訝そうな顔をしたけど見ないふりしましたよ。うん、恐いわ~




 幾つか藪や木立ちを抜けると大きな平原に出たのだが、全員ぽかんと口を開けたまま慌てて立ち止まる。

 

 目の前には無数のドラゴンが倒れていた。


 思わず見回すが、どうやら気絶しているだけなのか、怪我とか血とかは見当たらない。


 大きなドラゴンでも最大で、古竜お爺ちゃんの本来の姿の半分もない。大半はせいぜい貨物トラック位かな?


 先刻、見かけた翼竜だけではなく、中には恐竜みたいなタイプやトカゲっぽいのも居る。色も黒や緑に白に青に赤に黃と、すっごくカラフルだった。さながらドラゴン博覧会みたい。


『お爺ちゃん〜聞こえる?』


『ポンや〜どうした?』


『ドラゴンがいっぱい倒れてるんだけど……お爺ちゃんが?』


『面倒じゃから〜起こすでないぞ?』


『おやつ一緒に食べましょう……待っててね? 直ぐに追いつくから』


『おやつとな! では待っておるぞ~』


 私はボスコさん達に唇に指を当てて見せると、気絶しているドラゴン達の間を駆け抜けて行った。充分に距離を置くとボスコさん達に振り返る。


「どうやら、お爺ちゃんがやっちゃったみたいですね……合流するように言ったので」


「……ああ~なるほど~古竜様が本気で覇気を出されたのですね」


「面倒くさかったみたいで……」思わず全員が、ため息をついた。やっぱり、お爺ちゃんだけにするのは心配だわ。




 皆で古竜お爺ちゃんに向かって、走って行くと横の草藪が揺れビクッとする。ニクスさんの方も驚いた表情で現れて、お互いにホッとする。


「……あれ、アピスちゃんは?」思わず周りを見回すが見当たらない。


 ニクスさんが眉間にシワを寄せながら、そっと懐を少し開けると目をつぶったアピスちゃんがいた。


「怪我したんですか⁉」


「いや……泣き疲れて寝てしまったようで……」


「えっ⁉」


 覗き込んだら、小さな手でニクスさんの服を握りしめたまま眠っているようだった。長いまつ毛には、まだ涙が一雫ついていた。




 そして離ればなれに飛ばされてしまった話を聞くにつけ……隣りでコルスさんが唸ったり舌打ちしたりするので、横目でチラ見する。先にこれだけ怒る人が居ると、怒るに怒れないんだけど……


 コルスさんはアピスちゃんのファンクラブ会員だ。会長は納得の雷電隊、副隊長のカナルさん。


「今から、その雄共を消して来ます!」


「ええっ⁉」まさかの強火だった! カナルさん程でないと思っていたのに……


「後でアピスちゃんが知ったら悲しむような事はしないでくださいね?」とりあえず釘を指しておこう。こればっかだな雷電隊……ニクスさんが睨んでもまったく気にしない鉄のメンタルだし。




 それにしても、フェリクスはいらん事ばかりして。なんと言ってもファンクラブの面々が………きっと今頃とんでもない事になっているよ? ただでは済まないだろうなぁ。今からゾ〜っとしちゃうのは私だけだろうか?


『……めんどうになりそうだね~てか、もうなってるか〜』シリウスが念話でつぶやいた。やっぱり?


 私もシリウスに対しては、たいがい過保護だし甘い自覚はある。心配で眠れぬ夜を何度も過ごしただろうニクスさんの思いは、我が事のように分かる。ニクスさんの方も言わなくても理解してくれているなと感じるしね。




 普段のアピスちゃんは『一匹でも平気だもん!』て強がっているけど、実際はニクスパパ大好きっ子なのだ。


 もしかしたら、まだ成体になりきっていないんじゃとは思っているんだけど……


 早くボー兄さんを乗せて飛べるようになりたい大鴉のカー君と毎日出掛けているのも、アピスちゃん自身がもっと強くなりたいとお願いしたからだ。




 体力をつけるために飛行訓練を始めたが翔ぶ楽しさに目覚め、さらに鍛錬をするようになったそうだ。


 筋力だけでなく、何より風をよむのは経験値が大きいらしい。


 古竜お爺ちゃんにも二匹はアドバイスを聞いたけど、古の武道家のように『ただ感じるのじゃ』と言われて、余計にわからなくなったそうだ。


 子供対仙人クラスの差があるからかな……飛ぶ個体では一番、歳が近いという事で協力し合ってトレーニングしている。


 早く大人になって、ニクスさんを安心させたいと思っているのを知っているし毎日、頑張ってたんだものね。


 もう今から心配が尽きないんですけど……とにかく心配の芽を一つでも減らすためにも、お爺ちゃんの元へと急いだ。






 シリウスが何気にニクスの懐を覗き込むたびに、アピスの寝顔がモニターに大映しされるのだが………当然のように、モニター前は項垂れ涙を流す者、憤り唸っている者、謎の呪文を唱える者と既にカオスとなっていた。


 

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