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長老猫の到着

 魔族と一括りに言っているが種族の数は多く、吸血鬼にウェアウルフにゴブリンにリザードマン等など名を上げていけばきりがない。さらにハーフもおり、見た目も性質も多岐に渡っている。


 ウェアウルフと分かっても、治療方法までは分からなかった。


 捕虜達にも確認したが昔と違い、ここ数十年は魔族領との接触事態が無かったそうだ。資料も無いか有っても何処にあるか分からないという事だった。


 旧魔法国の資料室は整理されているとは言い難く、探すのも難航しているそうだ。




 遅めの食事をしながらの会議で報告された、魔族については何も進展がなかった。


「仮にも隣国なのに何も知らないなんて……」


「魔道士というのは魔法研究の事しか頭に無い者がほとんどですからね」


「……こういう時の為にも、きちんとした資料室を造りましょう? もう落着いてからとか言ってられないと思うんですよ」


 ベリタスさんと隊長さんが視線を交わしあうと、ため息を付いた……仕方ない事とはいえ、仕事は増える一方だったのだ。

 本当に申し訳ないと思ってます……不本意ながら、どんどんブラックになってますよね。


「……確かに隣国の事ですから……知らないでは済みませんね………」


「いや……考えて見れば此処に、しっかりした資料室なり図書室なりあれば後顧の憂いが無いとも言えますな……」ベリタスさんは遠い目をすると、何処か自分を納得させるように頷いていた。




 普段は狭苦しいと言って食堂に入りたがらない、お爺ちゃんにも同席してもらった。


「お爺ちゃんは魔族を知ってたの?」


「うむ、腐れ縁じゃな~」


「く、腐れ縁ですか……」


「まだ国とは呼ばれてなかった時からじゃの〜わしも若かったで、よく喧嘩したものじゃ」


「……お、お待ちください……古竜様が若かりし頃と言う事は……まさか、その喧嘩相手と言うのは……ま、魔王ですか⁉」


「そう、あやつじゃ〜奴の事じゃから、まだ寝ておるの~」




「…えっ? ……寝ている?」


「……まさか……寝ているという事は今、魔族領に居ないという事ですか?」


「……では障壁を作ったのは誰なんでしょう? てっきり魔王だとばかり思っていたのですが……」


「……まさか魔王不在で、無法地帯なんて事は無いですよね?」


 その瞬間、皆何ともいえない悪寒に襲われ食堂内が静まり返った。




「あやつが寝てしもうたから、わしも寝たんじゃ〜わしだけじゃ退屈じゃからの〜」


「…古竜様と同じ頃に寝たという事は…………少なくとも千年は不在⁉」


「……それこそ……無法地帯じゃなかったら逆に驚きますよ……」


「とんでもない事になりましたね……」


 皆一斉に喋りだしたが、もう誰も怖気づく事は無かった。



 そこからは資料室の整理に人員を回せるだけ回し、各国にも報せを入れ見廻りの強化をし、後は長老猫さんとエルフの研究者達の到着を待つばかりだった。


 長老猫さんに出来る事を確認したのだが直接診ないと分からないというので、泥と血を拭き取り、綿で水を口に含ませるだけに留めた。





 長老猫はラークとデューの交代のケットシー達を伴い、フォートリュス国からの増援隊と共に出発し、ようやくアシエール国に到着したのだ。

 ラーク達もポンに会いたいと言うので一緒に自治領に向かったのだった。


 古竜が怪我をした魔族を見つけて連れ帰ったと聞くやいなや、兵達を置いて急ぎ向かった………ケットシーだけなら此処からなら半日で着ける。


 折良くエルフの魔族研究者達もポンの自治領に入った頃だった。前後してラークとデューと共に長老猫とエルフの研究者達が到着すると医務室に直行した。




 休む間もなく治療にあたってくれたので隊長達は一旦、部屋の外に出ると邪魔にならないよう、医務室前の部屋の扉を開けたままにして中で待つ事にした。


 付き添っていたメーアとレオンは、資料室整理の進捗を見に行った。




 三十分程すると扉が開いたが、薬草の薫煙で中まではよく見えなかった。


「……捕れたての生肉と血は有りますか?」慌ただしくエルフの研究者が顔だけ出してきた。


「…オークならば!」


「よし! 直ぐに頼みます!」


 そのまま隊長が食堂に走って行くと直ぐに一抱えの生肉を盆に乗せて持ち、血の入った鍋を持ったカナルが後に続いた。


 手渡すと、すぐに扉は閉じられてしまい様子を聞く事も出来なかった。




 ポンとシリウスが来ると、黙って医務室の前の部屋にコーヒーやオレンジジュース、サンドイッチの盛合せにミートパイ、女将さんのスープにチョコレートガナッシュケーキと洋梨のタルトに、キスルンルン飴を置いて出て行った。




 暫くしてラークとデューがフラフラしながら外に出て来ると、しゃがみ込みかけたが目の前の部屋の料理の匂いに、這うように中に入ると食べ始めた。


「魔族の様子は?」


「……もう大丈夫だって~やっと寝たよぉ……」


 長老猫とエルフも出て来ると椅子に崩れるように座り込んだ。


「峠は越えたと思います……もう大丈夫でしょう……」


「みな、よく頑張ったの〜」ラークにスープを渡されながら長老猫が頷いた。


 隊長もエルフにスープを渡すと座った。エルフの魔族研究者のイーレは、落ち着いた物腰の学者らしい風貌だが、優し気な紫色の瞳に長い銀髪を後ろで緩く束ねていた。




「お疲れ様でした……それで怪我の状態は?」


「…それが………髪に、これが付いていました……」


 イーレが油紙に包んだ物を渡してきたので、開くと隊長とベリタスは覗き込んだ。


「それは……アラクネの糸じゃ……」


「アラクネというと……大蜘蛛の魔物ですか……」


「アラクネがウェアウルフを襲う事は有るんですか?」


「…今まで聞いた事はないの……」


「文献でも見た事が無いんですよ……」


「……いったい魔族領で何が起こっているんだ………」


「あの子が目を覚ますのを待つよりないの〜」


「……あの子?」


「まだ幼いウェアウルフじゃ……怪我よりも魔力が渇れかけていたのが心配なんじゃが……今は待つしかないの〜」




 後を衛生兵に頼み、隊長とベリタスは後続の隊や研究者達の受け入れ準備の具合を見に行った。


 長老猫達はケットシー休憩室に向かった。

 交代で医務室に付いているよう頼むと、ポンが起きるまでラークとデューと仮眠を取る事にしたのだった。







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