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ポンジチリョウって?

「……氷室といっても、そんなに大きくなくてもいいんじゃないかと思ってたんですけどね……」私はアイスクリーム専門店の様子を絵に描いてみる。


「確かに渡す場所は、その位で良いかもしれませんが……内側は足りなくなると思いますよ?」


 交代要員や新たな研究者が訪れる度に、各地から特産品も一緒に運び込まれてきた。


 さらに異世界料理を学びたいと料理人も訪れ始め、試作スペースを思っていたより広く取るしかないようだった。


 すでに馬房だけでなく牛舎や養鶏舎と、その世話人の為の住居や設備も造られだした。


「私としても最終的には地産地消で、その国で採れたものを使って自分達で作る事を目標にしたいんですけどね……」


 エルフ族だけでなく獣人商会の方々に兵達も真剣に聞いてくれている……食事を兼ねた定例会議だ。




「……ただ一番の懸念は、ここでしか採れない物を独占してしまったり収穫量を増やすために強制労働や搾取、自然環境破壊とか私の世界でも繰り返されてきた事で……最悪、戦争の引き金にもなり得るという事なんですが…」


「……実は、それについてはうちの国でも考えてたんだよ………此処でしか採れないスパイスが多いからな……」

レノさんが顎を擦りながらチラッとエルフの方を見る。


「…ロブスト皇太子からの提案なのですが……」


 一斉に隊長さんに注目が集まった。




「……此方をポン殿の自治領という事にしてはどうかと………」


 隊長さんが一呼吸置いて皆を見回していく……私の顔の前で止まると、じっと見つめてきた。


 でも私は聞き慣れない言葉に首を傾げていた「………ポンジチリョウって?」


 シリウスがそっと私の袖を引っ張ると小声で聞いてきた。


「ねぇ……ここ…ポンちゃんにくれるって事?」


「……まさか国をくれるって理由な……い………ジチリョウって()()()か⁉」


 私は思わず立ち上がっていた……




「もちろん研究開発や管理運営は今までどおりエルフ族、獣人族、人族で行うのでポン殿の御負担は変わらないかと……」


「……えっ? ………意味が分からないんですけど……」


「なるほど! それなら、うちも安心して強力出来る」レノさんが満面の笑みを浮かべた。


「…あっ、でもですね……」


「確かにそうですね! 我々も研究に専念出来ますし……正直、運営などはわかりませんからね〜ポン殿が言う適材適所ですな!」ベリタスさんも破顔した。


「……いえいえ! ……何で? 私には無理ですよ?」


「名目上のトップであって今までどおりですから!」


「そうですよ今までどおりです! 安心していてください」


「待って!」


 私の狼狽をよそに皆は一様に納得したらしい。それどころか、私に反論の隙を与えないかのように速やかに会議を終えると解散していった。


「……何でこうなるの?」


 私は、あっという間に誰も居なくなったテーブルを呆然と見回した。


「まあ、平和的解決だよね~」

シリウスとボー兄さんに両側から頷かれてしまった………私の、のんびり異世界ライフは?






 エルフ族から植物学の専門家と共にクーシーも四匹やって来たのでケットシー休憩室で歓迎会を始めた。


 ケットシーだけでなく牛サイズのクーシーが、ヴェアを含めて五匹も居るのだ。


 傍目には私が一緒に座っているとは気が付かないかもしれない。てか、見渡す限りモフモフですよ………ハーッ幸せ〜


 ヴェア兄さんの時のように沢山の料理を出すと四匹は瞬く間に、たいらげていく。


「ウッメェ〜!」


「想像以上だよ!」


「こりゃ〜たまらん!」


「夢にまで見た異世界料理だよ~!」




 やっと、お腹が落ち着くと思いおもいに骨型ガムを噛りだした。


 ケットシーにもミルク味の小さな骨型ガムを出している。食後の習慣になりつつあるのだ。


「ここだけの話しですが、実は此処をポン殿の自治領にと提案したのはケットシーの長老さんなんですよ」


 黒白のボーダーコリーのような見た目でリーダーのノクスさんがそっと教えてくれた。


「……長老猫さんが?」




「異世界もそうだと言ってましたが、此方も同じですよ…人族もエルフ族も獣人族も力の差だけで中身は大差無いんです……ケットシーも俺らクーシーも彼らから目は離しません! その点は安心していてください」


「エルフ達は俺らが護っていると思ってますが……俺達が()()()護っているのは、この大地そのものなんですがね…好きに言わせておいてます」ノクスさんは低く笑った。


「それはケットシーも同じだよね」ボー兄さん達も笑っている。




「…やっぱり……そうなりますか……」私はため息をついた。


 魔法国の領土をアシエール国に戻したのでは火種が残ってしまう。


 さらにアシエール国の責任追求もされてしまうのを躱すためには、利害の無い者の手に渡すしかない……それが今回は私だったという事だ。


 ロブスト皇太子の提案という形で、アシエール国は事実上の権利放棄をしたという事になる。




「あと……もう一つ大きな理由なんですが…………ポン殿ですね」


「私?」


「なにより異世界勇者の()()()にさせないためです」


「……人気者は辛いですね~ハッハッハッ〜」


 空笑いしても気持ちは晴れないんですけどね……気をつけようとは思っていましたよ、さすがにね。




「…ポンちゃん……」


 私の前にシリウスが屈み込むようにして立つと、そっと両手で私の頬を包み込むと目を覗き込んだ。


「大丈夫………僕が……僕達が一緒にいるよ」シリウスは私の額に自分の額をコツンッとあてた…………私は思わずシリウスの胸に飛び込むと顔を埋めた。


「…ありがとう……」先程まで感じていた不安が嘘のように消えていく……


 私は、ゆっくりと身を起こすと皆の顔を見回した。


「まったく何を心配してるんだい! 私達が付いてるんだから」


「そうだよ~ずっと一緒にいるよ!」


「わしも、ずっとおるでの〜」


「それに他の者達もポンちゃんだから、すぐ納得したんだしね……いっぱい協力してもらおう!」


「うん! 皆ありがとう……これからも宜しくね」私は鼻を擦って微笑んだ。




「ケットシーとクーシーは、これからも交代で此方に来ますが……皆、行きたがって順番を決めるのが大変でしたよ! 何せヴェアが満足するだけの食事が出るっていうんですから」


「……ヴェアはポン殿の専任護衛でって事になりました……ボーも居るし、言っても戻らないでしょうしね…」そう言われてもヴェア兄さんは気にする素振りも無い。


「僕も長老からポンちゃんとシリウスに付いてるようにって……これからも、ずっと一緒だからね~」ボー兄さんは笑うと私の膝を叩いて頷いてきた。


「ボー兄さんとヴェア兄さんも居てくれるのは心強いです……良かった」




「これも内緒ですが今、長老猫の指導の元に全てのケットシーとクーシーは念話の練習をしてます……長老さんのように使いこなすまでには、もう少し時間がかかりますが」


「…私も練習しょうかな……」今みたいにエルフ達や隊長さん達に聞かせ辛い話しも、この先出て来そうだしね……




「……じゃあ獣人の国にも見廻りしているの?」


「あっちはケルピーやセイレーンなんかが常駐しているですが……たいてい人型になって紛れ込んでますね~よく屋台で買い食いしてますよ(笑)皆、早く勇者様に会いたいって言ってましたよ~」


 どうやら完璧な変身でなくても獣人族には気が付かれないか変だと感じても『ま、いいか~そんな奴も居るだろう』と流してしまうのが獣人族なんだとか。


 私が会った獣人族は、まだ二桁位だしね……ますます獣人国に行ってみたくなった。




「もしかして…ケットシーやクーシーも人型になれるの?」


「…人型にはなれますが、エルフや人の国では目立ってしまってダメですね」


「やっても獣人国くらいだよね~」


「獣人国に行ったら絶対に人型を披露してくださいね! すっごく楽しみ〜」


 楽しみが増えたし、此処を早く軌道に乗せて獣人国に行かねば。






 サボテンや大根など糖度の有る植物からシロップが造れると話した事で各国で研究が本格的に始まり、此処でも魔族領近くに生えているサボテンに似た植物をエルフ達と獣人商会合同で採取して来てくれた。




 食堂の近くに食材研究のための設備と温度管理の出来る栽培ドーム(オシャレな温室風の予定)もエルフの研究者達によって造られ始めた。


 エルフ作になると得てして機能性だけになりそうな施設も、美術館か庭園のような趣きがあって毎日の作業が楽しくなりそうだ。




 最近ではオルドさん達も研究等に忙しくて、悩まされる事も減ってきた。


 今日も気持ち良く起きると、いつものように皆で「何を食べようか?」と話しながら食堂ヘ向かう。


 広場に入ると人集りが出来て、何やら空を指差していた……私達も空を見上げて立ちすくんだ。


 魔族領の上空に今まで無かった、薄い紫色がかったオーロラが広がっていたのだ。







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