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ケットシーの郷

 私達は二匹の後をついて行ったが、シリウスは軽々とついて行くけど、私は今までハイキングさえした事もないし、何度も木の根や苔で見えない石に足をとられる。


 シリウスは何度も振り返って、気遣ってくれるけど、見るたびに目の輝きが増して元気になっていくみたい。


 本当に帰れて良かったなと思いながらも、どうにも私の気持ちは落ち込んでいく。ケットシーって事は………



 ルーチェとミルトが斜面を登りだし、私は足下に集中しながらも気がきでなかった。


 顔を上げるとシリウスが立ち止まっていて、急いで横にたどり着くと、思わずシリウスの肩に掴まった。



 そこは小高い丘の上で、一本の大きな木が立っていた。



 四方に大きな枝を伸ばし、青々とした葉が風にそよいでいる。



「僕達ケットシーは基本的には自由なんだけど、話し合いが必要な時は、あそこに集まるんだよ」シリウスは懐かしそうに、ため息をついた。


 よく見ると、あちらからも此方からも猫達が集まって来る。


 木に近づくにつれ猫達だけじゃなく、鳥達に兎やリスに狐や狸、狼や熊まで居る!



「ケットシーだけじゃないの?」


「どうやら、それぞれの群れの代表達みたい……ケットシーは森の守護者みたいなものだし、異世界転移も口伝で伝わっているだけで伝説だと思われていたんだ」シリウスも少し緊張して囁き返してくる。



 私達が立ちどまると、二匹の熊が前にやって来て「ガウ〜ガガウ〜」と鳴いた。


 私は驚いて後退りかけるとシリウスに手を掴まれて引戻された。


「大丈夫!『おかえりなさい、これからよろしく』って言ってるんだよ」


 それからも狼に狐と、この場に居る全ての生き物達が私達の前に来て挨拶してくれて、その都度シリウスが通訳してくれたけど、皆が歓迎してくれているみたい……思わず胸が熱くなる。




 顔合わせが終わるのを待っていたらしい二匹の猫が飛び出して来ると、シリウスに抱きつき、一匹は嬉しそうに背中を撫でているし、もう一匹は泣きながらシリウスの顔をくいいるように見つめている。


 シリウスの両親なのだろう………シリウスの全身からも喜びが溢れ出しているようで、三匹の喉を鳴らしたり、シッポをふったりしている様子に、もらい泣きしてしてしまう。


 シリウス…シッポの振りすぎで身体が浮き上がるかも、二本分もあるし。




 そうこうしているうちに、一匹の年老いた感じの真白い大きな猫が近づいて来たが近くで見ると鮮やかなオッドアイ(金色と靑)の眼差しが迫力のある感じだった。


 シリウスは片手で泣きじゃくる母猫の背中を撫でて、やって来た猫に頭を下げた。



「よく戻って来た、話を聞かせてくれるかの?」シリウスは一つ深呼吸をすると、今までの事を話しだした。


 皆、話すのも忘れて聞きいっていたが交通事故から、もう一度戻って来たという所で、一斉に話しだした。


 蜂の巣を突いたみたいって、こういう事なのね、また気持ちが落ち込んでいく…


 長老のような猫がヒゲを震わせながら、ため息をついた。


「数百年に一度あるか無いかの事で、わしも曾祖母に聞いただけの話じゃ!まして、往復したというのは聞いた事もない……」




 長老猫はおもむろにシッポの先を輝かせると、シリウスに向けてリズミカルにゆらし始めた。


「……これは何と強い魔力じゃ!シッポが二本になったのも、どうりじゃ」


 長老猫はピタリと、シッポを止めると今度は私に向かってシッポを揺らす。


 シリウスの時以上に小刻みに揺らしていたシッポが逆立っていく。


「どうやら伝説は真の事じゃった!異世界から転移した勇者じゃ、これ程の魔力は初めてじゃ!」




「……どれ詳しく鑑定してみよう」長老猫は、どこか焦点があっていないような、ボンヤリした眼差しになった。


「フムッ四大元素を操る属性魔法に、精神魔法、空間魔法もだな、状態異常耐性にアイテムボックスもあるぞ!なんとも驚きじゃ……」


「さて娘さんだが……」大きく息を吐き出すと、またシッポの毛が逆立っている。


「錬金術に、状態異常耐性、アイテムボックス……他にも、まだよくは見えぬが…しかし魔力の底が見えん⁉……転移前にシリウスと契約したからか元々、魔力があったからなのか分からないが、まだ魔力が巡りだしたばかりだというのに……とにかく二人共、途方もなく強い!」



 長老猫は信じられないというように首を振り続けている。



「どうりで、何処を探しても見つからないわけだ」


「たいてい行きっぱなし、来っぱなしだって話なのに!」


「これこそ奇跡だよ!」とか、みな口々に興奮して話している。


 みな話していくうちに落ち着いてきたのか、今度はチラチラ私の方を見てくる。


「で、こちらの人間とは?」シリウスが、もう一度パートナーだと私を紹介した途端、また一斉に喋り出した。



 ケットシー達は、頷きながらも口々に話しだした。


「人間のパートナーも悪くはないが……」


「これだけの力のある猫なんだ嫁をもらわねば!」


「子は大切だよ~」


「次の王に相応しいな」とか言っているのが聞こえる。



 私は遂に、この瞬間がきたと思った、だって現代社会でペットを飼う責任とかあるでしょ? どうしよう、予想してたとはいえ………


 シリウスは、ずっと嬉しそうに、シッポを揺らしていたのに、話が聞こえた途端パタリとシッポが垂れ下がり、身体も心なしか小さくなったように見えた。


 まだ繋いだままの手が震えていて、何度も口を開いては閉じ、とうとう震えが全身に広がっていった。









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