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ヴェアの到着

 ヴェアは夜を徹して駆けて行く………怒鳴り散らされて、ボーがどんな顔をするか考えただけで笑いが込み上げて来る。


 走り続けながら、いっそ泣いて見せようか……いや、それでは沽券にかかわる、やはり説教の方が……等など考えは目まぐるしく変わり本犬は気が付いていないが走りながらも、その度に表情もコロコロ変っていく、もしその表情を見る事があったらトラウマものだったろう。


 もとより体力には自信がある………時折、水を飲むために立ち止まる位でひたすら走り続ける。


 食いしん坊のヴェアらしくない事だが、今は狩りの時間さえ惜しく感じるのだ。




 そうして、ケットシーの郷を出て五日が過ぎる頃には魔法国に入っていた。


 これは、とてつもなく早い事だった……ケットシーでさえ最速でも七日から八日は掛かる。もっともケットシーの長老猫の魔法ならば二日で着くのだが………




 ヴェアは徐ろに速度を落とすと、辺りの匂いを嗅いだ……思ったより大勢、居るようだった。


 ヴェアはボーの匂いを辿って魔法国の街を歩いて行くが、先に進む程に驚いてしまう……人間や獣人だけでなく顔見知りのエルフやケットシーまで居たのだ。




 エルフやケットシー達もヴェアに気付くと声をかけてくる。


「……やあ! ヴェア〜さすが脚が早いね〜」


「もう着いたの? ヴェアでも後、二日は掛かると思っていたのに」


 ヴェアは頭が混乱してくるようだった……いったい、どうなっているのか……ここに来る事は誰も知らないはずだ。




「ヴェア〜! やっと着いたんだね~」目の前から、あろう事かボーがやって来たが本猫は慌てる様子もない。


 ヴェアは腹立たしさと、何処かボーらしいとも思いながら呆れながらも心底、安心したのだった。


 ボーの後からケットシー達がやって来たが、その中に混じって古竜が居るのに気付くと思わず立ち止まり改めて周りを見回す。


「……ヴェアさんですね? 僕、シリウスです……色々ご迷惑を、おかけしたみたいで」長毛のケットシーが声をかけて来た。


「お前が迷子になっていた小僧か⁉」




「長旅で疲れただろう? ポンちゃんが、ごはんを用意してくれてるからおいで」


 ごはんと聞いて途端に腹が鳴った……最早、細かい事は後回しだ。


 ボーに付いて行くと広場に面した建物の前に着く。


 外に幾つも置かれたヴェアに、ちょうど良い高さの机の上に所狭しと料理が乗っている……どうやら小さな人間の子が出している、あれが異世界勇者か………




 さすがのヴェアも古竜の前では傍若無人な振舞いは憚られたが、そんな事にお構いなく目の前に山盛りの肉が入った大きな器が差し出されては、もう我慢出来なかった。


「幾らでも、お出ししますので思う存分、召し上がってくださいね~」


 ヴェアは返事どころでは無かった……今まで食べた事のないものばかりだ。


「皆も一緒に食べよう」ボーに促されてケットシー達も低い机に着いて食事を始めた。


「……シナモンロール?」


「クイニーアマンかな……」


「ロールケーキも!」


 ポンとシリウスはヴェアの砂色に白斑のグルグル巻きのシッポを見ていると、何故だか無性に食べたくなってきて、追加で出していく。




 エルフ達や兵達も加わり広場にまで幾つも机や椅子が置かれていき、料理が出されると更に賑やかになった。


 ヴェアは食べた端から料理が追加されていくのに驚いたが食べ続ける、何といっても水だけで走り詰めだったのだ……




 それでも、ヴェアは犬生で初めて腹一杯になった。


「……えっ? 遠慮しないでくださいね、沢山召し上がる方だって聞いてますよ〜」


「……遠慮なぞしとらんわ! もう、食えん」


「またまた〜お爺ちゃんと同じ位、食べれると思ったのに」


「古竜様と一緒の訳あるか〜!」




「さすがのヴェアも、腹が一杯になったのか⁉」エルフ達に大笑いされようと、もう食べれない……それどころか腹が重くて動く事も出来ず、そのままヴェアは眠りに就いた。




 ヴェアが向かっていると長老猫から知らせが入ると、ボーとシリウスに相談してケットシー休憩室の横にウッドデッキを変性した。


 カー君の水浴び場は裏手に移動させると二階の屋根を一部、取払い止まり木を増やし一階と行き来できるようにした。


 ウッドデッキの上にはパーゴラを着けて蔦タイプの植物を這わせて日除けにし、クッションとマットも敷いておく。




 休憩室は今ではケットシーだけでなく古竜に鳥に、リス、そしてクーシーも共同で使用する事になり増築に増築を重ね建物としては、ずいぶん個性的な見た目になってしまった。


 それでもエルフも人も獣人も、なんやかんやと言いながら覗きに来る憩いの場所になった。




 翌日、ヴェアはフカフカのマットの上で目を覚ました………こんな経験は初めてだった。


「……おはよう、ヴェア〜ポンちゃんが、ごはんを用意しておいてくれたけど……中で食べる? それとも外がいい?」ヴェアが起きると、ボーがさっそくやって来て、あれこれ世話を焼いてくれる。


「……中」ヴェアは、くすぐったく感じながらもぶっきらぼうに答え、ボーの後に付いて休憩室に入ると驚いた。




「……よく出来てるな」


「みんな、ポンちゃんがやってくれたんだよ〜寝心地どうだった?」


「……まあ、良かったよ」実は物凄く良かったのだが、ボーには言わない……まだ許した訳じゃない。


 それにしても、ここは居心地がいい……出された食事は昨日と同じように美味しくて、腹が一杯になった。




「……それ、何だ?」ボーもポシェットを身に着けていたのだが、よく見るとケットシー達全員、身に着けているのだ。


「ポンちゃんが出してくれた、おやつ入れだよ……そうそう忘れるところだった」


 ボーはヴェアに食後に出してやるように言われていたと、アイテムボックスから何やら取り出すとヴェアの前に置いた。


 それは大きな骨の形をした物で、何とも美味そうな匂いがしている……ヴェアは腹這いになると、さっそく噛り始めた。





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