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ミミねーさんの部屋

 尋問室、しかし誰も、そうは呼ばない……通称『ミミねーさんの部屋』という。


 ミミが少しでも過ごし易いようにとポンやエルフ達が日々、創意工夫している。


 入って正面の窓は出窓となり、その上にはミミのために鮮やかな青いサテン生地にブロンズの猫脚のカウチソファが置かれ金のタッセルの付いた紺色のダマスク織のカーテンが左右に垂らされ、共柄のレースのカーテンまで掛けられている。


 壁は深緑を基調にした落ち着いたロココ風の柄で、尋問室用のテーブルの天板は大理石、椅子も控えのソファやスツールも、それに合せて若草色のロココ風だ……何処に立っても長毛の三毛猫のミミが映える造りだ。


 元は食堂と似たような部屋だったのだが、ポンとメーアがミミに相応しい物をと言って、こうなった……何処から見ても立派な貴婦人の応接間のようだった。


 もとより一緒に働く兵達もエルフにも否は無い。


 尋問室に来る度に水鉢や鉢植えの花が増え、今日は噴水まで置かれていた。




 捕虜である魔道士は内心苛立っていたが逆らう事は出来ない……それは初日の尋問で身に滲みていた。


 彼は当初ミミを舐めてかかっていたが暴言を吐くに至り、いきなり目の前にフワリと座ると、あの大きな切れ長の瞳でじっと見つめられた……何もかも全てを話したくなってくる……


 それでも反骨心から嘘や暴言を吐き続けたが、その度に電撃を喰らい……そして「で?」と何事も無かったように見つめ、聞き返してくるのだ。


 捕虜の中には自白だけでなく己の半生まで洗い浚い全てを話し、赦しをこう者まで出てくる始末だった……電撃よりも恐ろしいのは他ならぬ、この眼差しそのものだった。


 更に忌々しいのは皆一様に何の憂いも無く晴々とした穏やかな表情に変っていく。


 だが、この魔道士は『所詮、強者であるエルフやケットシーに脆弱な人間の辛さなど解るわけがない』という思いが根深く燻ぶったままだった。




 この日、当番兵達も尋問を受けている魔道士も立会のエルフさえも緊張していた。


 朝からミミねーさんの機嫌が、すこぶる悪いのだ。


 ゆったりとカウチソファに寄りかかり一見いつもと変わりないようだが、シッポがソファの縁を叩き続けている。



『話しには聞いてはいた……でも尋問に立ち合っていて、ダンスの練習を覗きに行く事も出来なかった……それが、あんなにも楽しい事だったなんて!』


 思わず魔道士を睨みつける「……いつまで私の手を煩わせる気だい?」


 魔道士だけでなく兵達も首をすくめる……実に、まずい。


「……少し休憩にしましょうか?」エルフが優しく声をかける。


「いいや! さっさと終わらせてしまいたいね」兵達は目配せしあうと一人が、そっと部屋を出て行くとシリウスを探しに走って行った。




 話しを聞き尋問室に向かいながらシリウスは頭をひねった……ポンちゃんが起きるまでには、まだ数時間はかかっちゃうよね……甘味もキスルンルン飴も今は無理か~


「知っている事は全て話したんだ……処刑でも何でも、さっさとやってくれ!」扉の外にまで声が聞こえてくる。


 ミミねーさんは一番、大変な事に付き合っているのかも……毎日、尋問に付き合っていて疲れてるんだろうな……



「……ミミねーさん少し、い~い?」シリウスは扉をノックすると、そっと開けて顔を覗かせた……ノックしたのは人間の習慣を守るように、ポンに言われているからだ。何といっても人は繊細な生き物だから守ってあげないと……


「……シリウス、どうしたんだい?」ミミねーさんの毛が少し逆立っている……


「次にやる曲を迷っててさ〜ねーさんの意見を聞いてみようと思って」


「あたしでわかるかね~」


「……とりあえず見てみて〜」シリウスは精神魔法でアップテンポな曲のライブ映像を見せながら、ミミねーさんの様子を伺う。


「……ウワ〜どっちも、いいじゃないか~!」


「「「……こ、これは?」」」兵もエルフも魔道士までも息を飲んだ。


「……あれ? 見えちゃった?」どうやら、ミミねーさんだけに見せたつもりが部屋に居た全員に見せたみたい……どうも、まだ精神魔法のコントロールが上手くいかないんだよね~


「……シリウス殿……あれが異世界ですか?」


「…あの光に音!……人が、あんなに沢山集まるとは……」


「異世界は人がいっぱいだからね~」


「…あれは……どのような魔法なのです? 物凄い力ですが…」


「異世界には魔法どころか魔力も殆ど無いんだよね~」


「…では……あれ程の光を何処から?」


「魔法が無いから機械が発達したみたいだよ、ここの食堂にも少し使われてたけど……あれは音楽のコンサートっていわれるものだけど、同時に世界中の人が見れるんだって〜」


「…き、機械ですと? 機械で、そのような事が出来るものなのですか?」


「何百年もかけて便利に暮らす為に研究されているんだって〜僕達からしたら、よっぽど不思議だけどね」



「……もう一度お願いします!」


「…ああ……踊りたくなるね~」


「やっぱり、ねーさんもやろうよ……少しくらい練習する時間あるよね?」シリウスはエルフ達に聞くと、エルフは首を振っている。


「……私も参加しますよ!」


 あれ?………まあ、いいか~隊長さんが報告を聞く頃には、ポンちゃんも起きてるよね?



 シリウスは部屋を出て行こうとして、思い直して捕虜の魔道士を見る。


「……さっき聞こえたんだけど………処刑は無いよ?」


 魔道士は怪訝そうにシリウスを見やった。


「僕達が突入した時、花吹雪が起ったでしょう? あれ古竜お爺ちゃんが吹き飛ばした屋根をポンちゃんが花弁に変えてたんだ……敵である君達にも怪我をさせないためだよ」魔道士は呆然とシリウスを見つめる。


「僕は君達がどうなっても気にしないけど、ポンちゃんが嫌がるからね……この国の事も長老とポンちゃんの手伝いをしているだけだし、長老はフォートリュスの王のためだね……古竜お爺ちゃんはポンちゃんのためだし……」


「……ミミねーさんも長老のためだよね?」ミミねーさんは面白そうにシリウスに頷く。


「……自分達で壊したんだから、自分達で片付けて治しなよ? 全然、関係のないポンちゃんが毎日、魔力切れにも気が付かない位、動いているのに何を言ってるのさ! 魔法が使えるんだから働きなよ」


「…あと古竜お爺ちゃんは『退屈だから寝て、腹が減ったから起きる』それだけだって言ってたよ……それでも、どうしても処刑して欲しいならポンちゃんの知らない所でやってね。お爺ちゃんなら『いつでも一口じゃ〜』って言ってたし」


 シリウスは言いたいだけ言うと、さっさと部屋を出て行った……ミミねーさんの笑い声が聞こえたけど、もう振り向かなかった。




 シリウスは辛うじてポンが目を覚ます前に部屋に戻って来れてホッとする。


 ルーチェとミルト兄さんは既に戻って来てポンちゃんの隣りで寝ている……そろそろ、お爺ちゃんも狩りから戻る頃だろうな。


 食材としての肉を出さなくても、いいようにするためで、お爺ちゃん自体はポンちゃんの出した物しか食べないんだよね……


 変身した魔道士を食べて懲りたらしい……クラーケンとか、ゲテモノは美味しい事が多いから思わず食べちゃったけど、カビ臭くて二度とごめんだと言っていた。


 一万年も生きていれば、この世界で食べた事が無い物なんて無いだろうし、懲りてくれて良かったと思うんだけどね~



 皆、ポンが寝ている間は思いおもいに過ごし、起きる頃には一緒に寝ているのだ。


 シリウスはポンの懐に潜り込むと目を瞑った……ミミねーさんの機嫌もなおったし、もう一眠りしようっと。







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