猫又じゃなくて、ケットシー?
シリウスは私の頬に手を添えると困ったように首をかしげた。
「気持ちは凄くわかるよ……僕も最初、自分に起こった事が理解出来なかったし怖かったよ…でも君が居てくれたから運命を受け入れるって言うか、この生活も悪くないかなって思えたんだよ…今は凄く感謝しているしね」そう言って私の頬を撫でてくれる。
私は少しシリウスの手の毛が、くすぐったくて笑った。
私は、そっとシリウスの手を握りしめた。
夢とは思えないリアルな感触、まだ半信半疑だけど……何とか頭を働かせようようとする「…さっきから、どうして言葉がわかるの?」
シリウスは少しビックリすると「アア〜! そうか、ずっと話が通じてたから忘れてたよ」
シリウスは私の目を覗き込んだ。
「ケットシーって魔法が使えるってのは人間界でも知られていたけど、言葉が通じるのは契約を結んだからなんだ」
「契約?」
「うん僕を助けてくれて、連れ帰ってくれて看病してくれたじゃない? その時に無意識のうちに契約成立してたみたい」シリウスは懐かしそうな顔をしている。
「僕が最初に聞いた君の言葉は、頑張ってだよ…」シリウスは微笑んだ。
「それから、いかないで」
「ずっと一緒に居て」
「置いてかないで」ウワッ〜確かに、言ってたわ……改めて言われると恥ずかしいんだけど、あの時か~、ンッ?
「て、事は気のせいじゃなくて、シリウスは私の言ってる事が分かってたの? ずっと? 最初から?」
私も色々と思い出していく、単に頭の良い猫なんだなって位に思ってたんだけど………
「あれ? じゃあ、たまに聞きわけの悪い時があったのは、ワザとって事? 特にキスルンルン(猫大好き、おやつの代名詞、思わず飼い主にキスしたくなるって)とか留守番の事とか?」
シリウスは、まるでチベタン砂狐みたいな顔になった。
私は思わず吹き出すと頭を振った。
「何であれ、それで元気になれたんなら良いよ…私の思い込みとかじゃなくて、ちゃんと通じてたんだよね?」シリウスも笑顔になる。
「それでケットシーって…具体的にどんな事が出来るの? 魔法で、御飯とか出せたりする?」
シリウスは、じっと自分の手を見つめる……と、ため息を吐く。
「何か、ご飯は無理っぽい…ゴメン」困ったようにヒゲをプルプルさせる。
「じゃあ、何でも入ってるポケットみたいのは?」
またチベタン砂狐みたいな顔してる、めちゃ可愛いいな……言わないけどね。
「僕、ケットシー型ロボットじゃないし」
「フフ……じゃあ、ここが何処だかは分かるのね?」
「僕の生まれた郷の、近くだと思う」シリウスは、こころなしか胸をはる。
「そっか……本当に故郷に帰れたって事なんだ?すごい! 良かったね〜」
シリウスは嬉しそうにゴロゴロ喉を鳴らした。
頭は混乱しきっているけど気持ちは落ち着いてきた。
私が少し落ち着いてきたのがわかると、シリウスはニッコリ微笑んだ。
「良かったら僕の家族に会いに行こう…ずっと紹介出来たら良いのにって思ってたから」
「家族? そうか、シリウスにも今の私と同じような事が起こったって事だよね…ずっと何で雨の中に倒れてたんだろうって思ってたから、一つ疑問が解けたよ」私は頷きながら立ち上がった。
「私も会ってみたい」シリウスは私に手を添えると、シッポで右側を指し示した。
「こっちだよ~」
二歩、三歩と歩いてから私は慌てて、シリウスの肩を押さえる。
「待って!……さっきみたいに飛び跳ねても大丈夫なの? 胸は苦しくない?」
シリウスはびっくりして、両手の肉球をアゴに当て瞳孔が丸くなって、少し毛が逆立っているみたい。
「ごめん! 言い忘れてた」
「ケットシーにとって魔力は空気や水みたいに生きるのに必要不可欠な物なんだけど、人間の世界には魔力がほとんど無かったんだ」
「そのせいで、息をするのも実際しんどかったんだぁ、ずっと身体が弱くて心配かけてたけど、ここは魔力に溢れてるから、すっごく元気!」
「もうね~何でも出来そう! ウフフ、そのうち空も飛んじゃったりして」そう言うとシリウスは、ジッとしていられないって感じでスキップしだした。
こんなに元気なシリウスを初めて見れた……色々な思いが溢れ出してくる。
私はヘナヘナと座り込むと、手で顔を覆った。
「良かった……病気じゃなかったんだ…」
退院してからも、ずっと病気がちで最近では心臓も弱ってきてて、心配でしかたなかったのに本当に良かった……私はホッとして、涙をこらえられなかった。
「うわーっ泣かないでよ! 僕も泣いちゃうよ~」
それまでの緊張もあって、なかなか泣き止めなかったけど……何かスッキリした。さっきまでが嘘みたいに、視界がハッキリして落ち着いた。