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自分の意志で動いているんです

 私達は城まで戻ると待ち合わせ場所に向かった。


 全員揃ったところで古竜お爺ちゃんに乗り、衛兵に気づかれる前に、ひとまず上空に上がり離れた場所へと移動した。



「あの検問所を抜けると魔法国への道に出ます」


「もう一度、継続魔法をかけれますか?」


「二度目は継続時間が短くなってしまいます……保って十分程かと…」


「私、ちょっと王様の顔を見て来たいの……すぐ戻るから皆は、お爺ちゃんと待ってて?」ニクスさんは、とめたけど私が聞かないから折れてくれた。


 シリウスは何も言わずについて来てくれた……



 私達は城の塔の上に降りると下を目指した。


 石造りの螺旋階段を静かに降りて行く……しばらく降りると、シリウスが先に歩き出した。


 シリウスは空間魔法が使えるだけでなく、空間の把握も出来るらしい。


 王様の居室がわかったみたい、さすがシリウスだね。



 私達は姿を消したまま、ちょうど侍従が出て来た扉の先に滑り込むようにして入った。


 広いが華美というより重苦しい調度で、ゴシック様式にも似ているか……


 壁には幾つも肖像画がかけられ玉座まで深紅の絨毯が敷きつめられて私の背丈程もある燭台が等間隔で置かれている。


 五段ほど上がると毛足の長い真白な毛皮が敷かれ黄金の飾りを付けた玉座があり、両脇にある更に大きな黄金の燭台によって、まるで王自らが輝いているように見えた……



 アシエール国の王は豪華な玉座に座り兵からの報告を受けていた。


 ストレートの長めの黒髪に茶色の瞳、あれ程厳めしい表情をしていなければ美中年と言えなくもない。冷たいというより……頑迷そうな印象だった。



「何とか魔法国の要求人数が揃い、さっそく送り出しました」


「かわりの魔導兵器は届いたか?」


「被験体の確認後との事です」


 私とシリウスは思わず手に力が入る、今………被験体って言ったよね?


「ただちに魔法国に催促しろ、これ以上は待てん! 前回分も、まだであろうが? いまいましい魔道士共めが……」もう、それ以上は黙っていられなかった。



 こんなに腹がたったのは初めてかもしれない、耳元でシリウスの唸り声が聞こえてきた。


 その瞬間ニクスさんの継続魔法が十分待たずに解除されてしまった。


 もしかしたら、私達の怒りで解除されてしまったのかもしれない……それ位、頭にきていた。



 姿を現すや、シリウスが兵達に手刀のように小さな雷を打って昏倒させていくと、私は王の前にズカズカと歩み寄った。


「被験体って、どういう事ですか?」王は一瞬で兵達が倒れていき突然、目の前に現れた私達に目を白黒させるばかりで声も出ないようだった。



「答えてください!何かの人体実験にされるって事ですか?」


「しょ…召喚者か?!……フォートリュスめ! 我が居城に寄越すとは、なんたる蛮行か!」


「はっ? フォートリュスは関係ないですよ! 私達は自分の意志で動いているんです」


「そのような戯言を信じると思うのか? 愚か者めらが!けがわらしい獣風情が!」あ〜ダメだ、これ……


 予想どおり過ぎる人だった……何を言っても虚しくなる相手だわ……おかげで少し心だけじゃなく、頭も冷えたわ。


 シリウスの瞳孔がスーッと細くなっていき室温が下がっていく…こんなに冷たい表情は見た事がない。




 そこへ、いきなりバルコニーからルーチェちゃんとミルトが飛び込んで来た‼



「ルーちゃん⁉……ミルト!………どうしてここへ?」


「やっと追いついた~! オルデン王子の様子がおかしかったから、ついていったんだよ……」


「そしたら別の村を襲った兵達に、わざと捕まって連れて行かれてしまったの!」


「僕達が後をつけて行ってる事に気がついて、そっと君達に知らせてほしいって頼まれたんだ……自分はこのまま送り先まで行くけど、いざとなったら素性を証せば酷い目にはあわないだろうし心配するなって……でも、やっぱり気になってさ、早く助けに行こうよ!」



 王は、それまでの高圧的な態度が消え、しどろもどろになる。


「何故オルデンが、そのような事を………いかん! 魔法国についたら、どうなるか……ど、どうすれば……」王の態度に絶望感がつのる、やっぱりどんな目に合うか知ってて送ってたんだ。



 王が玉座で頭を抱えこんでいるところへ、ロブスト皇太子が後ろに数人の兵達を従えて静かに部屋に入って来た。


「…父王様、居られますか?……何故、侍従が出ないのですか?………」


 私達に気づくと途端に立ちすくんだ。



「どうやら、こちらの王の命令で村人達を拉致して魔法国に送っていたようなのですが、オルデン王子も捕らえられ送られてしまったそうです……私達は、このまま救出に向かいますね」


「オルデンまでが⁉………なんということを……」


 王は虚ろな目をして、うわ言のように「どうすれば……」「何故そのような……」と言うばかりで、ロブスト皇太子が側にいる事にも気がついていないようだった。



 私は後を任せ、バルコニーに向かって駆け出して行き、そのまま外にダイブした。ルーチェちゃんとミルトも続いてダイブして来る。


 一歩、遅れてシリウスもダイブして来た。

 すぐに下からニクスさんを乗せた古竜お爺ちゃんがキャッチしてくれる。



「オ、オルデン!……ロブスト〜!」


「父王様、どうなされました? 私は、ここに居ります………父王様?…………誰か侍医を呼べ!」ロブスト皇太子の慌てふためく声は風音でポン達には聞こえなかった。




「……さっき魔法を使ったでしょう?」ダイブする前にシリウスの肉球が合わさる音が聞こえたのだ。


「うん……王様には知っててほしかったんだ………」どうやらシリウスが精神魔法で、テレビのニュースや番組で見た戦争や災害のシーンを見せているそうだ……



 私はルーチェちゃんとミルトの顔を見つめた。


「それにしても、よくオルデン王子の様子に気がついたね?」



 実はケットシー達は、それ程人間の識別は得意ではない。


 性別や声とか匂いなんかも余程、親しくならないと、わざわざ覚えないそうだ。



「あの人間は会う度にルーチェに『今日も可愛いですね』とか『きれいな毛並みですね』とか言うから覚えちゃったんだけど、今日は何も言わないで通り過ぎて行ってさ……変なのって思ったら…なんか匂いが違ってて、狩りで獲物が捕まる時の匂いに似ててさ……なんか、いやな感じがしてね」


「なんだか急に、すごく不安になったの……ついて行ってよかった……」



 私は思わずルーチェちゃんとミルトを抱き寄せた。


「ルーちゃんは人間が苦手だったのに……この国に来るのは嫌だったでしょう? ありがとうね!必ず助けだそうね」



 もしかしたらオルデン王子は、ミルトの目の下の傷ができた経緯を誰かに聞いて、少しでも人間への嫌な記憶を和らげられたらと声をかけていたのかもしれない。


 オルデン王子との別れ際の様子が思い出される……はたが感じている以上に、思い詰めていたのかもしれない。無茶するんだから……顔を見たら怒ってやるんだからね!



いつも、ありがとうございます。

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