フォートリュスのリトス姫
リトス姫は長子で十四歳になる。
父王を慮って隣国には来たが………やはり内心は不安に押し潰されそうになる時がある。
周りに気づかれる事は無かったが、一人になると溜息ばかりが出てしまう。
最近は、やっと一人で庭園に出る事を許されるようになった。
アシエール国に来てからは、攻撃は最大の防御とばかり“無知で自分の容姿にしか関心のない我儘な姫”というふりをし続けたおかげで無害だと思わせられたようだ。
気の張る城内を出て庭園を散策するのを、どれほど待ち望んでいた事かしれない。
整然と刈り込まれた生け垣が高くそびえた辺りに来て、やっと肩の力が抜けた。
青い空を流れる雲に、羽ばたいていく鳥達に、思わずフォートリュス国をしのぶ…………家族は変わらず元気に過ごせてるだろうか?
やっと空から目を戻すと、前方の小径に青年が立っていた。
あれは確か、アシエール国の第一王子にして皇太子のロブスト王子では………
いつもの様子と違うと思われただろうか? リトス姫は、すぐに己を叱咤すると高慢な態度をよそおったが、ロブスト王子は黙ったまま、ゆっくりと近づいて来た。
まだ十七歳にならないというのに、自分よりもかなり背が高く、がっしりとした体格に栗色の巻毛を無造作に束ねた、なかなかの美男子で父王とはあまり似ていない、優しげな目をしている。
ロブスト王子は姫の前で立ち止まったが、口を開こうともせず推し量るように姫を見つめるばかりだった。
「まあ! 会釈もなさらないのですか? 人質同然のフォートリュスの姫には、そのような礼儀も必要ないという事ですの?」ここは強気で押し切るしかない。
「……ずっと違和感を感じていたのです……お気づきですか?…姫の近くには、いつも小鳥やリスが居ます、今も…」そう言って頭上の木立ちに手を振ると小鳥達が、まるで返事をするように一斉にさえずる。
「野性の生き物は、普通は近づくものではありませぬ……」
「賢王と名高いフェデルタ三世王の御息女とは思えぬ立ち居振る舞いも………ずっと今まで、まわりを偽っていらしたのですね……」
リトス姫は自分の油断に拳を握りしめ何とか言い逃れようとする。
「何を仰っているのかわかりませんわ! 無礼には無礼でかえさせて頂きますわ、失礼!」
王子の横をすり抜けようとしたが、いきなり王子がひざまずき己の胸に手をやり、リトス姫を見上げてくる。
「この事は誰にも洩らしは致しませぬ!……やはり貴女は私が思い描いていた通りの方でした……」
リトス姫は急に気恥ずかしくなった……どうしたらよいのか…………
「どうぞ、御立ちください! 誰かに見られたら…」
王子は微笑むとゆっくりと立ち上がり、そっと姫の手を取った。
「見られても良いのです……私が一方的にお慕いしていると申しますから」
「えっ? そのようなふりなど、なさらなくてもよいのです!」
「ふりでは、ありません! まことの事です」真剣な王子の瞳に戸惑いながらも、リトス姫は思わず頬が熱くなってしまうのだった。
小鳥達が近くの梢から、さえずりだし、リスが木の幹を駆け上がっていくのにも二人は気が付かないまま見つめあっていた。
夜明け前に、なんとか館に到着した。石造りの三階建ての建物で、凹型の先の方が森に面しているそうだ。
敷地内に入ると古竜お爺ちゃんも姿を現したが、やけに静かに私の横を歩いている。
古竜お爺ちゃんが心配になって「お爺ちゃん、ずっと黙っているけど、疲れちゃった?」
「……面白くなる一方だの〜主達に会ってから退屈する事が無いわい!」もう目がキラキラですね、良かった…のか?
館の中に入ると二階の部屋に案内され、ひとまず休む事になった。そこは広い部屋で天蓋付きの大きなベッドがあり私は、そのまま倒れ込んだ。




