胃袋をつかんでしまいましたか
目が覚めると一緒に居てくれてた、シリウスと馬車の窓から外を覗くと隊長さんが血相を変えて走り寄って来た。
「………助かった!!! ポン殿〜」見ると顔が真っ青だった。黒髪だからか、よけいに血の気が無いのが際立つ。
何事かと思えば、私が寝ている間ずっとニクスさんとピクシードラゴンのアピスちゃんが古竜様と、なにやら真剣に話し込んでいるそうで。
「もしや……」もう、それ以上は声にもならない様子に思わず緊張する。
ルーチェちゃんとミルトは長老猫に報告に行ったそうで、王城にも古竜様、出現の伝令を出したばかりだそうだ。
シリウスと顔を見合わすと急いで古竜様の元に向かった。
「……その煮込みハンバーグとやらが、それは素晴らしくて! 肉が口に入れた途端ホロホロと崩れ、甘さと酸味でいくらでも食べられる上に、今まで野菜をあれ程上手いと思った事がありませぬ…」ニクスさんが拳を握って力説している。
「分かる〜! おまけにシリウス様に聞いたところでは他にも、カリカリに焼いたベーコンや油で揚げたニンニクやアボガドなる野菜を乗せた物とかもあるそうですよ!」アピスちゃんも両頬に手をあてて、身をよじらせている。
「なんと、まだ他にも!まことに異世界の料理は素晴らしい」
「それは是非とも食べねば!」古竜様がドンっと地面を叩くと地割れが起こった………
あ〜これ、傍目にはヤバイよね……私だけ隊長さんの元に戻ると「ただの異世界料理、談義でした…安心してくださいね」隊長さんの顔に血色が戻って来て一瞬、身体がよろける。
きっと生きた心地もしないで待ってたんだろうな………私は一度、寝たら何しても起きないしね……
また古竜様の元へ行くと「今夜はチキン南蛮を作ってもらうんだ~」シリウス君それ決定事項ですか、そうですか。
「おお! それはまた、どのような食べ物で?」
「それは夕食のお楽しみって事で……」私は地割れを見つめた。
「ウムッ! やはり同行せなばなるまいて!」古竜様が、もう一つ地割れを開けた。
「さっきから何やってるんですか! こんなに幾つも地割れを作って、危ないでしょうが!」
古竜様、初めて気がついたのか前足の辺りを見回すと、さっと片手をふると地割れが元に戻った。
古竜様も魔法が出来るんだ~(棒読み)さすが一万年、生きてるだけの事はある。
「同行って…何言ってるんですか!? ちょっと動いただけで地面が揺れるは、地割れは起こすは無理ですよ!…………ハッ!もしかして地震も古竜様が?」
「…どうやらポン殿とシリウス殿が転移された時の魔力の爆発のような力で、お目を覚まされたようで……」ニクスさん古竜様を擁護してる場合じゃないですよ。
私は片眉を上げると古竜様を睨む。
「イヤ〜思いのほか長く寝て居たようでな、すっかり寝床の洞窟がふさっがっていての〜」
「ほうっ…それで動く度に地震を起こしてたと?」私は、さらに片眉を跳ね上げた。
「私達は王城に向かっているんですが、ニクスさんやアピスちゃんならまだしも、そのような大きな身体では人の街になど、入れるわけには行きませんよ!」なんて恐ろしい事を言い出すんだ古竜様め! それも異世界料理が目当てだなんて、隊長さんが聞いたら今度こそ卒倒するわ!
「ムッ? 身体の大きさが問題なのか? 小さければ同行しても差し支えないと?」あれ?…ヤバイ? 断る理由が………
古竜様の身体が光りながらかすみ、次の瞬間、団地位のサイズだったのが馬位まで小さくなっていた。
古竜様ドヤ顔で地面を叩いてみせる、うん地割れは起きなかったね……
「どうじゃ? これなら良かろう?」おまけで足踏みまでされている……あああ……………
「それに、わしは腹が減ると少々気が短くなる事があってな……うっかり人里を潰す事もあるかもしれんが、な?」
それは脅しですか?お腹を満たせと?
ア〜ッ隊長さんに何て言えば…カクカクと顔を隊長さんの方へ向けるが、目が合った途端そらされた。
さすが武将、感が良いのですね~って、いかん! 逃がすわけにはいきませんよ~隊長さんが右に行くか左に行くかと迷っている間に捕まえる、こういう時だけ動きが早いと定評があったですよ。
「もうお察しかもしれませんが、古竜様も同行する事に……」隊長さん天を仰いだ、私も何とか止めようとしたんですよ?
先に王城に知らせてからという事で、ここで暫し野営する事になった。
人間の苦悩をよそに、「今日のキスルンルンはマグロとサーモンのミックス味ね〜」なんてシリウスが手招きしている。
人間の御飯が好きだけど、キスルンルンは別腹だそうです……
錬金術師が私だけで良かった……想像しただけで怖いわ。どういうわけか古竜様もキスルンルンがお気に召してしまった、恐るべしキスルンルン。
古竜様、なごり惜しそうに器を舐めている、何だか可愛い。




