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雨の中の事故

 急に雨が激しく降りだし、夏の終わりとはいえ肌寒い夜。


 慌てて傘を斜めにさすと仕事帰りの家路を急ぐ。


 土砂降りに何度も足をとられそうになり、つい足元ばかり見てしまう。


 と、角から物凄いスピードで車が突っ込んで来た…




 車に驚き、傘を取り落とすと目の端に………


 土砂降りの中、慌てて走り寄ろうとする、よく知っている猫の顔だった。


 何で外に居るの⁉ なんて頭をよぎったけど……そのまま意識が無くなった。


 最後に目に入ったのは、ヘッドライトの眩しい灯りと、ここに居るはずのない愛猫シリウスの顔だった。




 思えばシリウスを拾ったのも雨の夜だった。


 交通事故にでも、あったのだろうか道端で雨に打たれながら横たわっていた。


 胸が大きく上下しているのが見え、私は思わず抱きかかえると獣医に走った。


 後先なんて考えていられない、ただ助けたいって一心だった。


 幸いな事に脳震盪と、かすり傷だけで大きな怪我もなく翌日には退院出来て、アパートに連れ帰った。



 それから、ずっと一緒に居る。


 当時の部屋はペット禁止物件だったけど、迷わずペットの飼えるアパートに引越した。


 同僚達には呆れられたけど、迷いはなかった。


 病院で意識が戻った、シリウスと目が合った瞬間まるで、ずっと止まっていた私の時間が動き出したようだった。


 就職も決まり喜んでくれていた両親を相次いで亡くしてからは、空虚な日々を送っていた。

 卒業して社会人になるのを楽しみにしていた両親のためと自分に言い聞かせながら、何とか会社勤めをこなすだけの毎日だったのに、小さな一匹の猫が私に色や匂い……何より、ぬくもりを取り戻してくれた。





 眩しい光に、すぐに目を開けられない……


 目を瞬かせながら何とか起き上がろうとして、頭痛に思わず呻き声が出る。


 手で光を遮りながら少しずつ薄目を開けて、記憶を辿っていく。


 車のヘッドライト………「シリウス!」途端に飛びおきて目眩がする。


 こめかみを押さえながら何とか座るが全身、筋肉痛だ。


 夜だったはずなのに周りは、すっかり明るくなっている。



 どれ位、意識を無くしていたのだろう? 目が慣れてきて、少しずつ辺りの様子も見えだした。


 確かに、私は公園横の歩道を歩いていたはずなのに…辺りは一面、まるで森の中のようだった。


 私は何度か深呼吸すると、周りを見回してシリウスを探したが見当たらなかった。


 見間違いだったかとホッとした、それは、そうだよ……完全室内飼いだし、私は一人暮らしで一匹で外に出れるわけがない。


 それより早く帰らなきゃ、お腹減らしているだろうなー



 私は手足を動かしてみて痛みはあるけど骨折はしていない事に安堵して、ゆっくりと立ち上がった。


 周りを見回しながら身体のあちこちに付いた土や葉っぱを、はたき落とし、いつも斜め掛けにしている鞄を手で確認した。


 公園内に、こんなに高い木々があったかな? それに道路から公園内に飛ばされて筋肉痛だけで済むもの?


 頭の中は疑問だらけで、どちらに進めば良いかも分からない。



 途方に暮れていると、かすかに地響きのような音と振動がしてきた。


 思わず近くの大木に身を寄せるが音は、ますます大きくなっていき、動物の鳴声のようにも悲鳴のようにも聞こえる。


 移動動物園とか? なんて思ったが今では耳を塞ぎたくなる位、大きくなったかと思うと、いきなり木々の間から豚のような顔の巨体が現れた。


 思わず木の後ろに隠れたが自分の目が信じられなかった、映画やゲームで見た事ある。


 まさか……本物のオークじゃないよね?



 一頭、また一頭と木を、なぎ倒さんばかりに現れた。


 なにやら鳴声をあげているのだが、酷い臭いにムカムカしてくる。


 逃げなきゃ、と思っても足が動かない。


 オークは私に気がつくが早いか飛びかかろうとして、私は思わずギュッと目を閉じ頭を抱え込んんだ。



 その瞬間、頭にガンガン響いていたオーク達の鳴声が消えるー


 鳥が鳴きながら羽ばたく音がして……辺りは静かになった。


 私は怖くて目も開けられず震えながら身を強張らせていると、いきなりモフモに飛びつかれた。耳もとで溜息が聞こえた気がした。


「間にあって良かった~探したんだよ!」



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