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さとり  作者: 紫木さくま
6/18

図書室騒動

 放課後とはいっても、まだ日が明るいうちの学校はどこかざわついている。外から聞こえる部活生の声や、廊下から響いてくる多数の声は樹の集中を妨げた。

樹は効率よく脳を働かせるために、新聞部の部室ではなく、静かな図書室を好んで使っていた。一番奥の外が見える窓辺の席、そこが樹のお気に入りの席だ。樹はその特等席で、集めた資料の最終確認していた。今日が咲鳥に本を返す約束の日だった。

 必要な情報は集まっている。調べていた三人の生徒の家族に、もう一度はなしを聞くのには苦労したが、亡くなった生徒の友人だった生徒たちの協力を借り、なんとか欲しい情報を入手することができた。

やはり、増岡令奈だけでなく、残りの二人の生徒もあの本を使用した可能性が高かった。

 増岡令奈には二つはなれた弟がいた。その弟は、中学校のいじめが原因で自殺し、増岡令奈はそうとう加害者の男子生徒を恨んでいたようだ。それからしばらくして、その加害者の男子生徒が公園の湖で水死しているのが見つかった。おそらく、増岡令奈が相手を呪い殺したのだろうと考えられる。

 残りの二人の生徒に関しても、増岡令奈同様に、本人たちと悔恨のある人間が事故死していた。都合のいい偶然でなければ、二人の生徒も呪いを行ったと考えていいだろう。

 樹は手帳から二枚の写真を取り出す。そこには、女子生徒と男子生徒の顔が映っている。咲鳥に見せるために用意した二人の生徒の写真だ。もし咲鳥が二人の霊を見ることができるなら、確かめる材料になるだろうと思ったのだ。

 樹はその生徒たちの写真を見ながら、先ほど会ってきた真里との会話を思い出す。



『先輩はこの本について、何か知っていますか?』

『本? なにそれ?』

樹が本を見せると、真里は不思議そうに首を振った。

『いやいや、ないない。わたし本とか読まないし』

『そうですか……』



真里が嘘をついていないか、樹は隙なく真里を観察した。試しに、悩みはないか、人間関係は良好かどうか聞いてみたが、特にこれといって真里が悩んだ様子や嘘をついている様子は見られなかった。

真里の周辺も問題はない。ひとまず、真里に誰かを殺したいという願望はなく、呪いについても無知であることは分かった。真里は本とは関係していないようなので、増岡令奈のような死に方をすることはないだろう。

「黒田」

 肩を叩かれ、とっさに樹は写真を手帳にはさんで閉じる。急な訪問に驚いたのは一瞬で、すぐに冷静に対応をした。

「はい」

 見上げると、それは新聞部部長の沢城奏人さわしろ かなとだった。

「沢城先輩、どうかしましたか」

「勉強中にごめんな。黒田に確認したいことがあるんだけど、少し来てもらっていいかな」

「わかりました」

 簡単に机の上を片付けて、最低限の荷物を持った樹は、沢城奏都のうしろについていった。






 咲鳥と朝陽は、第三校舎前で樹の到着を待っていた。先輩に呼ばれたため遅れると連絡がきていたので、遠くで響く部活生の声を聞きながら、たわいもない話をして時間をつぶしていた。

「神和って、犬派と猫派どっち?」

「……猫派かな」

 猫も犬も、どちらも同じくらい好ましく思っている。しかし、なんとなく咲鳥は猫を選んでいた。

「マジか、おれ犬派なんだよね。てっきり神和も犬派かと思ってたのに」

「犬も好きだけどね。なんで犬派だと思ったの?」

「神和の兄ちゃん、でっかい犬みたいじゃん。忠犬ハチ公みたいな」

「あぁ」

 思い当たる節はある。以前、樹にも似たようなことを言われたことがあった。

 咲鳥と朝陽は雲をながめる。今日の空模様は変化が目まぐるしかった。雲の流れが早いと、時間の流れも速い気がしてくる。

「つうか、神和と神和の兄ちゃんって似てないよな。兄ちゃん、ちょーイケメンじゃん」

「兄さんはお母さんに似ているからね」

「ということは、お母さんも美人ってわけか」

「そうだね。お母さんは私の目から見ても美人だよ」

「だれ似?」

「うーん、強いて言うなら、宇佐見先輩かな」

 朝陽は声を弾ませる。

「うわっ、それヤバすぎ。たしかに神和の兄ちゃん、宇佐見先輩みたいに花形の美形って感じだったもんな」

 母の姿を思い浮かべ、咲鳥は自分が猫派だと答えた理由を一人でぼんやりと納得した。母は猫に似ている。眺めている雲の形も、どことなく猫に似ていた。移り変わりが早いところもそっくりだ。

 湿った風が頬を撫でる。梅雨の訪れと、開花まえの夏の香りが運ばれてきたような気がした。

あと一か月もしないうちに夏が来る。そういえば、増岡令奈の夢の中の第三校舎は、真夏の夕暮れだった。

「あのさ、おれ、ずっと考えていたことがあるんだよ」

 朝陽は、たわいもない話をするように話し出した。

「なに?」

「あの本のことな」

 咲鳥は朝陽に視線を移す。朝陽は変わらず雲を見ていた。

「第三校舎の、あの有象無象の本の中で、岡田令美って生徒はよくあの本を見つけられたよな」

「増岡令奈さんね」

「増岡令奈って生徒は、よくあの本を見つけられたよな」

「……それって、どういうこと?」

 朝陽は雲から視線をおろし、咲鳥に向き直る。

「殺したい相手がいたとして、相手を呪ってやろうと考えるとする。きっと、その方法を増岡令奈が探したんだろうことは分かるんだよ。だけど、たまたま第三校舎に入って、たまたまあの教室を見つけて、たまたま本を手に取ったのか? 増岡令奈が人を呪える本を探していたにしても、何かおかしいと思わないか?」

 そう言われると、たしかに違和感が残る。増岡令奈がわざわざ第三校舎まで行く必要はなかったのではないだろうか。本を探すのに適切な場所は他にもあっただろう。

それに、第三校舎にたまたま踏み入ったとして、そこであの本を見つけられたというのは、できすぎているようにも感じた。

「第三校舎に書庫があるなんて聞いたこともないし、なんで増岡令奈はそのことを知っていたんだ? 不気味な校舎に一人で入って、建付けの悪い階段を上って、本の山から目当ての本を探し出す。まるで、あるとわかっていたみたいだろ」

「もしかしたら、本当に増岡令奈さんは、第三校舎にあの本があると分かっていたのかもね。呪いの本の噂があったのかもしれない」

 この学校なら、それくらいの噂はありそうなものだ。増岡令奈は呪いの本の噂を聞きつけ、第三校舎へ入ったのではないだろうか。夢の中の増岡令奈は、人を呪う方法が書いてある不特定の本を探していたというより、あの「呪いの本」を探している様子だった。

 朝陽は首を振り、咲鳥の予想を否定した。

「そんな噂、なかったんだよ。俺なりに他の連中に聞いたり、黒田に確認してみたけど、「呪いの本」に関する噂は一つもなかった」

「え?」

 咲鳥は動揺する。朝陽が断定するように言うので、それを否定することもできなかった。

「でも、たしかに増岡令奈さんはあの呪いの本を探していたと思う」

 あの「呪いの本」を増岡令奈が探していたとして、何の根拠もなく第三校舎へ行くのはやはり不可解だ。本を探しに第三校舎へ向かったとしたら、その情報を誰かから聞いたと考えるのが自然に思えた。

「考えられることが、一つあるんじゃないか」

 こちらに問いかけてくる朝陽には、すでに答えが用意されているようだった。

咲鳥は数度、瞬きをする。

「朝陽くんはつまり、誰かが増岡令奈さんに入れ知恵をしたって言いたいの?」

 朝陽は、普段の冗談めいた雰囲気とはかけ離れた表情でうなずいた。

「黒田の言っていた残りの二人の生徒もあの本と関係があるとすれば、そんな偶然が三度おこったと考えるよりも、誰かが三人をあの本へ誘導したと考える方が自然だろ」

「…………」

 カバンを握る手に力が入る。信じられないというよりも、信じたくなかった。そんなことをする人間が身近にいるかもしれないという可能性を否定したかった。

 咲鳥は夢の断片を辿る。『ここにあるはずだ』夢の中の増岡令奈は確かにそう呟いていたのだ。増岡令奈は本があの場所にあることを知っていた。これが何を意味するのか、考えないようにしていた一つの可能性が日の目を見た。

「なんでそんなことを……理由がわからない」

「もう一つ、気になることがある」

 困惑する咲鳥をよそに、朝陽は続ける。

「神和が第三校舎で見たという複数人の足跡、あれがずっと気がかりだったんだ。あの書庫に導いたのは増岡令奈だけじゃなかった」

 咲鳥を書庫まで導いた足跡は増岡令奈のも含めて数人分あった。それは咲鳥も見ているし、たしかなことだ。

「あの本を手にしたことのある霊が、来ていたのかもしれない」

「そうかもしれない。でも、なんで神和をあの書庫まで誘導したんだ? 成仏できていない幽霊ってのは皆そんなに親切なのか? 生前、本人と全くゆかりのない場所に幽がいるものなのか?」

「それは……」

 たいていの霊は、自分と関係のない場所には出ない。例外はあるが、朝陽の言うことは的を射ていた。

 あの足跡が増岡令奈と同じように書庫へ咲鳥たちを案内したのなら、あの呪いの本と関りがあると考えていいだろう。そして、足跡を残した霊たちは第三校舎にゆかりのある人物ということだ。

「増岡令奈は第三番目の犠牲者だったよな。神和が見たって言う足跡の中に、黒田が調べてきた残りの生徒の足跡もあったんじゃないか?」

 どくりと心臓が鳴る。不自然な死を遂げた三人の生徒が呪いの本と関わっていた。その裏付けをされているようだった。

「そうだとしたら?」

 咲鳥は答えを急かすように問いかけた。朝陽は一度、考え込む。言葉を整理しているらしい。

「これはあくまで仮定の話な。三人の生徒全員が、第三校舎であの書庫を見つけていたとするならば、という仮の話。

一人目が第三校舎へ行く、本を見つける、呪いを試す。二人目が第三校舎へ行く、本を見つける、呪いを試す。第三人目の増岡令奈が第三校舎へ行く、本を見つける、呪いを試す。なぁ、こんなの変だろ」

 こうして強調されると確かに変な感じがする。しかし、具体的に何が変なのかは分からなかった。

「ごめんなさい、違和感があるのはわかるの。でも、具体的にはどういうことか説明してもらってもいい」

 朝陽はゆっくりと咲鳥に言葉をかける。

「呪いを実行した生徒全員が相手を呪ったあと、律儀に本を戻しに来るって、そんなことあるか?」

「!」

 言われて初めて、その違和感に気づく。三人が第三校舎で本を見つけたとするならば、いつだって本はあの場所に置かれていたことになる。つまりは、三人の生徒が本を戻しに来たということだ。少なくとも、増岡令奈の前に本を所有した人物と、増岡令奈自身は本を戻したはずである。

「それは……怖くなったんじゃないのかな。呪いの本なんて手元に置いておきたくはないだろうし」

「それなら捨てればいい。燃やすなり、寺の住職に見せるなりできたはずだろ。咲鳥の話が本当なら、増岡令奈には変なモノの存在を感じていた。そうだろ?」

 咲鳥は増岡令奈の夢を思い出す。ただ困惑するだけだった咲鳥の意識とは別に、増岡令奈の意識も共有していた。増岡令奈は、あの黒い影の存在をあの時以前から感じていたに違いない。だからこそ、あれほど必死になって逃げたのだ。

「精神的にもそうとう追い詰められたはずだ。そんな人間が何の対処もせずにいられるとは思えないんだよ。少なくとも、俺ならその状況で本を戻して終わり、とは考えない」

「そう、だよね……でも、それがどうしたの?」

 不安げに揺れる咲鳥の目を、朝陽は鋭く見据えた。

「神和、ほんとに分かんない? つまり、本を戻した誰かがいるってことだよ。しかも、それは増岡令奈を含む生徒たちじゃない」

 咲鳥は目を見開く。

「まさか………」

 朝陽のまなざしは肯定を示していた。

「入れ知恵をした奴が、意図的に本をあの場所に戻したんだよ」

恐ろしいことだと思った。ただ本を紹介しただけなら、最悪の事態が起こってしまったとは言え、本を紹介した本人に悪意があったとは言い切れない。

しかし、西鶴の生徒に声をかけて、わざわざ第三校舎まで本を取りに行かせたならば、犯人の思考は悪質なものだろう。人の悩みに付け込んで、ゲーム感覚で生徒を弄んだのは間違いないのだから。

「でも、どうして自分から本を渡さなかったの?」

「さあ、そこまでは分からない。わざわざ第三校舎に本を戻したのも、そいつなりの考えがあったからかもしれない。でも、正気じゃない奴の考えなんて、俺にはわからないし、知りたくもない」

どうしてこんなことをしたのか、それは常識の範囲にいる人間に適応できる言葉なのだろう。常人が人殺しの考えを理解できないように、咲鳥は増岡令奈をそそのかした犯人の心を読み取ることはできなかった。

 朝陽は大きなジェスチャーで、演劇をするかのように語り始める。

「犯人が生徒をそれとなくあの本に誘導する。誘導された生徒は本を見つけて呪いを試す。試してみたら本当に相手が死んでしまって、さらに自分にも不思議なことが起こり始める。生徒は不安だっただろうし、誰かに相談したくなっただろうな。でも、こんなことを話せる奴は一人しかいない。そそのかしてきた相手だ。何とかしてやるとか適当なことを言われて、その時に本は回収される。犯人によって元の場所に本は戻される。そそのかされた生徒は死んでしまうから、犯人さえ黙っていればもう一度カモはやって来る」

 俺の想像だけど、と朝陽がくくる。

「そんな……」

 咲鳥が消え入りそうな声でつぶやいた。朝陽の想像する犯人には計画性がある。それが得も知らず不気味で気持ちが悪かった。

「悪趣味だし、完全にイカれてる」

 咲鳥は、第三校舎で本を見つけた時の違和感を口にする。

「本は変わった置かれ方をしていた。どの本が呪いの本か見分けられるよう、わざとそう置かれていたのかもしれない……」

 本棚というワードを生徒に吹き込めば、生徒をそちらへ誘導することは簡単だろう。あとは、前の本をどけさせて、奥に横たわるあの本に気づかせるだけでいい。

 太陽に雲がかかる。野球部らしき遠くの声は、変わらず活発に響いていた。

唐突に咲鳥のカバンが震える。スマホのバイブにビクリと咲鳥は肩を跳ねさせる。画面を見てみると樹からだった。咲鳥はすぐに電話を取った。






奏都の用件が済んだ樹は、図書室に戻ってきていた。

咲鳥たちと合流する前に最後のチェックを行う。そして、資料に問題がないことを確かめると、資料をしまうためにカバンのチャックを開けた。

その時、ある事に気づく。

確かにしまっていたはずのあの本が見当たらないのだ。カバンをひっくり返しても、本は出てこなかった。冷や汗が額を伝う。

どこか別の場所に置いてしまったのだろうか。そう思って樹は一度、机の上から下まで本を探してみる。それでも本は見つからなかった。

クラスに置いてきたのかもしれないと、自分の教室に確認に戻ってみる。最後に本を見たのが図書室なのは覚えていたが、それでも自分が通ったあらゆる場所を確認せずにはいられなかった。もちろん教室に本はなかった。  

気のせいだと思いたくて、図書室の隅から隅まで見て回ってみる。やはり、本は見つからなかった。

「ヤバイ……」

ここでようやく、止まっていた心臓が動き出し、体中が焦りを感じ始める。樹はとにかく本を探した。

どこだ、どこだ、どこだ。まとめた資料が散らかるのも気に留めず、机の上や椅子の下やカバンの中を何度も何度も確認する。樹はその無意味な作業を十数分つづけた。間違って本棚にしまったのか。いや、そんなミスをするはずがない。では、どこにいってしまったのか。咲鳥の顔が頭にちらつくたび、泣きそうな思いになった。

「どこにもない……」

 つぶやいた言葉は絶望にも似た落胆を含んでいた。机に手をついて、そこから動ける気力すら残っていない。

「咲鳥に殺される……!」

 背中に嫌な汗がにじみ、樹は前髪を両手でかきあげる。そうして立ちつくしたまま、スマホを手に取るのにさらに数分を要した。

「…………」

 土下座をしよう。もうそれしかない。樹はあきらめて覚悟を決める。こうして手をこまねいている間も、咲鳥たちは自分を待っている。どのみち、ごまかせることではないと思った。ここが図書室だということも忘れて、樹は咲鳥へ電話をかけた。

 カウントダウンとなった着信音が、樹を暗寧へと導く。3コールで、着信音が切れた。樹は生唾を飲み込み、乾いた口をひらく。

「……咲鳥」






『……咲鳥』

 いつになく暗い樹の声に、咲鳥は既視感を覚える。これは、咲鳥に謝ろうとするときの樹の声だ。

『本当にすまない!』

 咲鳥が問う前に、樹は勢いよく謝った。

「本になにかあった?」

『…………はい』

 咲鳥が黙ると樹も黙った。もう腹は括っているらしいことが分かった。

「おい! 本がどうしたって⁉」

 スマホに顔を近づけ叫ぶ朝陽。「失くしてしまった」という樹の声が、咲鳥と朝陽の耳に届いた。

 朝陽は咲鳥のスマホを奪い取り、スピーカーにしてから話し出す。

「バッカお前! なんで失くしてんだよ!」

『本当に、なんの言い訳も立たない。席を外している間に、カバンの中から本が消えていたんだ』

「んなわけないだろ! どこで失くしたんだよ!」

『たぶん図書室だと思う。図書室で一度、本を確認しているから』

「今から俺らも探すよ! 誰かにパクられたとかじゃないんだろ?」

『バッグの中を探って盗むほど、魅力的な本じゃないだろ』

「殺したい相手がいなきゃな! そこで待ってろ、すぐに行くから」

 朝陽が通話を切ろうとしたので、咲鳥は画面に手を置いてそれをとめた。朝陽は驚いて咲鳥を見る。

「待って、まずは落ち着こう。樹くんはちゃんと探したの?」

『そりゃあ、もちろん! まだ探せていないところなんて本棚ぐらいだよ。でも、さすがに僕もあの本を本棚にしまうなんて馬鹿なことはしない』

 咲鳥は眉間を抑える。本を失くすことよりも、もっと最悪な想定が頭をよぎった。

「樹くんは本を失くしたわけじゃないと思う」

『…え?』

「樹くんに限って、そんなミスをするとは考えにくいと思う。そもそも、カバンから出したわけでも、移動させたわけでもない本がいきなり無くなるなんて、ありえないんじゃないかな。カバンの中を探ってまで本を盗む人物がいるとしたら……」

「犯人か!」

 咲鳥の言葉を遮って朝陽が叫んだ。咲鳥は目を伏せる。

「あんまり嬉しくない事態かもね」

 現状が読めていない樹は、ただ困惑した様子だった。

『犯人ってなんだ?』

 朝陽は慌てて言う。

「黒田! お前に話しておきたいことがあるんだよ、急いで第三校舎に来てほしい!」

『あ、ああ、とりあえずわかった。僕も言いたいことがあるし、情報共有しておこう』

 樹は電話を切る。そして、咲鳥と朝陽は樹との合流を急いだ。


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