第94話 スゴ技、終わり
「前回のクイズの答えは『おはぎの丸焼き』だ! 作り方はいつか教える!」
俺は大雅に殴りかかる。
もちろん本気じゃない。
ちょっとだけ動きも遅くしている。
予想通り、大雅は俺の拳を止める。
「おい、康輝、本気で来いよ」
……あ、バレた?
でも一応とぼけておくか……。
「これが本気だぞ?」
「嘘言うなよ。お前はもっと速いはずだぜ? こういうときのために、俺がどれだけ鍛えたかと思ってんだよ」
「? お前、鍛えたのか?」
「ああ」
そっか、じゃあ手加減して戦うのは失礼だな。
俺も最近本気で喧嘩してないから、大雅といい勝負できるかな……?
そのとき、皆嘉が大雅に殴りかかる。
大雅はギリギリで皆嘉の拳を躱す。
俺は一旦大雅から離れる。
「いいな! やっぱこれだ! 二人で来いよ!」
「……いや、大雅。お前と皆嘉、二人で俺と戦ってくれ。久し振りに全力で戦いたい」
俺は深呼吸をして大雅に言った。
大雅は数秒俺を見つめたあと、ため息をつく。
「お前、今まで全力出したことないのか?」
「お前の前では出したことない」
「マジかよ……」
「……確かに面白そうだ。俺は賛成」
皆嘉がゆっくりと大雅に近づき、大雅に背中を見せ、俺に顔を向ける。
「よっし! 康輝、そう言ったからにはすぐ負けるなよ!」
大雅が俺に殴りかかる。
今までのスピードより速い。
俺の喧嘩のやり方。
動きは最低限、目的は相手を疲れさせること、相手をできるだけ苦しませること、すぐに喧嘩が終わらないようにすること。
つまり、殴るときは少し力を抜く。
俺は大雅の拳を防ぐ。
その瞬間に、皆嘉が別の方向から俺に殴りかかる。
大雅は俺の腹を蹴ろうとする。
……これだと、大雅の脛に俺の腹が当たるな……。
じゃあ大雅は放置。
皆嘉は吹っ飛ばすか。
大雅の脚が俺に当たった瞬間、大雅は『ウッ!』って言う。
腹に力を入れるだけでこんなに強くなるんだ……。
俺は大雅を無視し、皆嘉の拳を掴む。
そして、皆嘉を押す。
皆嘉はめっちゃ吹っ飛んだ。
「ありがとうございました!」
受付の人が言う。
……え……もう終わり……?
ここからが楽しいのに……。
「かなりのスゴ技でしたね! では賞金です!」
受付の人が俺に封筒を渡す。
これってスゴ技か……?
封筒の中には一万円札が入っていた。
こんなにたくさん……。
「お兄ちゃん、すごかったね!」
ステージから降りると、水麗が俺に駆け寄る。
すごかったか……?
「お主等、やはり戦闘狂だな……」
確かに大雅は戦闘狂だけど、今の俺は戦闘狂じゃないぞ……?
「おめでとう! ……そうだ! 今度うちのラーメン屋の前で今のやってよ!」
絶対に嫌だ。
ってか、次何しよう……。
「三人の喧嘩か……これでポップコーンとコーラがあれば最高なんだが……。ではクイズだ! 『みんなが冬乃のラーメン屋に行ったとき、冬乃のお父さんは冬乃を褒めていた。冬乃はご褒美に何円がいいと言った?』。細かすぎて覚えておらん!」




