第67話 もういいよ
「前回のクイズの答えは『○』だ!」
「俺さ、皆嘉がいじめられているところ、見たんだ」
俺が口から血を垂らしながら言う。
さっき水麗がこっそり俺にハンカチを渡してくれたが、使う気になれない。
「……だからなんだよ?」
さっきの男子生徒が言う。
「……じゃあもういいよ。『いじめやめろ』って言っても無意味だしな。ただこれだけ覚えてろ。『皆嘉のおかげでテメェらが笑ってられる』ってことをな」
隣りにいる美月は不思議そうな顔をしている。
「じゃあ、あとはテメェらで好きにしておけ」
俺は静かに教室を出た。
教室を出ると、すぐ横に皆嘉と先生がいた。
「? 康輝、話し終わったのか?」
「一応終わりました」
「そうか……」
「ありがとう……」
『ありがとう』って言われるほどのことなんかしてねぇよ……!
クソ……ムカつく……!
「……康輝、俺がお前を殴った理由だが……」
……今その話か……
確かに気にはなる。
「俺、親が殺されたんだ」
「「!」」
俺と先生は同時に驚く。
殺された……?
「俺が小さいとき、夜中に自分の部屋で寝ていたら銃声が聞こえたから起きたんだ。母さんたちが寝ている一階まで行ってみたら、知らねぇ男が銃を父さんに向けていた」
「…………」
「そのあと俺と母さんだけが逃げ切れた。母さんは再婚して、そのあとに交通事故で死んだ」
……皆嘉……お前も俺と同じなのか……
同じ人生を歩んでいるのか……
「その父さんを殺した男の名が『ハシモトコウキ』だった」
! わかった……なんで皆嘉が俺を殴ったのか……
「お前の名前を聞いて、そいつのこと思い出しちまったんだ。そしたら何も考えられなくなって、殴った。本当にごめん」
皆嘉が頭を下げる。
先生は黙ってその光景を見る。
『俺が何か言っていいものじゃない』って目をしている。
「顔を上げろ、皆嘉」
俺が言うと、皆嘉はゆっくりと顔を上げる。
「謝るのはこっちだ。本当に悪い」
「……なんでお前が謝る……?」
「理由はたくさんある。一つは俺がお前を殴ったこと。もう一つはお前がいじめられていることに気づけなかったこと。それと……」
「もういい」
皆嘉が微笑みながら言う。
俺が今までに見たことのない微笑みだった。
「だからさ、友達になってくれないかな……?」
皆嘉が手を出す。
俺も皆嘉のように笑い、皆嘉の手を握る。
「友達ってのはな、こういうことしなくても勝手になるもんだ。だからもうとっくに友達だっつうの」
俺の言葉に先生も微笑む。
皆嘉の目からは少し涙がこぼれていた。
「うん……いいシーン……。よし、クイズ! 『康輝は係決めで何係、または何委員になった?』。わかるか?」




