第302話 笑わせ大会 〜2〜
「前回のクイズの答えは『前崎衆人』だ!」
「よし、せーので左足な」
紐を結び終えた大雅が言う。
これはどれだけ急ぐかじゃない。
どれだけ落ち着いて丁寧にできるかだ。
そして、どれだけ早く審査員を笑わせることができるか。
「左足か?」
「ああ、左足だ」
「どっちから見て?」
「上から見て左だ」
いや、そういう意味じゃないんだよ。
俺の左足と大雅の右足を結んでるんだから、俺が左足を前に出したら大雅が右足を出さなきゃいけない。
逆に大雅が先に左足を出したら、俺は紐を結んでない右足を出さなきゃいけない。
『誰の左足を出すか』を訊きたかった。
「行くぞ!」
「ちょっ、待って――」
止めようとしたけど、もう遅かった。
大雅が先に足を出してた。
その足は右足。
左足じゃねぇのかよ。
俺の左足のことを言ってたのか。
「康輝! なんで左足出さねぇんだ!」
「いや、お前から見て左足じゃないの!?」
「俺の優しさで、お前から見て左足って言ったんだよ」
「お前にそんな優しさねぇだろ!」
「確かにそうだ!」
それは認めんな。
「ってか、他のやつと差がつけられてるぞ? 喧嘩して止めるか?」
「それはやめろ。俺たちがケガするならまだしも、他のやつがケガしたら笑えない」
「……そっか、俺たちがケガしてもいいけど、他人は巻き込んじゃダメか……」
お、珍しく物わかりがいい。
俺たちは負けてもいいから、普通の方法で行くか。
「……康輝、頑張れよ」
頑張ってるよ。
ってか、急になに?
そう思ってたら、大雅が右足を急に出す。
そのせいで、俺は派手に後ろに転ぶ。
「いった……! 最初は『せーの』で合わせろよ!」
「もうそんな暇ねぇよ。我慢しろ」
いや、俺が転ぶともっと時間ロスするだろ。
また立ち上がらなきゃいけないじゃん。
そう思ってたら、大雅は急に走り出した。
もちろん、俺は引きずられてる。
「ちょっ、痛い! 地面と擦れてる!」
「これが摩擦力だな。確かFで表せたよな」
「勉強できねぇくせに勉強ネタをここで入れるな!」
俺を引きずってるから、大雅はあんまり速く走ってないけど、本当に痛い。
ケガしてないかな?
……あ、さっき大雅が言ってた意味がわかった!
『俺たちならケガしてもいいのか……』みたいなこと言ってた理由!
俺が『俺たちならケガしても大丈夫』って言ったからこんなことしたのか!
もっと考えてから発言するべきだった!
「……二人三脚ってこれありか? ツッコミどころ満載なんだが。ではクイズだ! 『前崎先生の本名は前崎観人だが、その読み方は?』。……前崎先生はもう飽きた」




