第301話 笑わせ大会 〜1〜
「前回のクイズの答えは『◯』だ!
次はいよいよ俺の出番だ。
種目は『笑わせ大会』。
これは大雅も皆嘉も白斗も出る。
二人三脚のリレーバージョンで、25メートル進んだらそこにいる審査員の前でなにか面白いことをする。
5人いる審査員のうち、3人が笑えばまた25メートル進む。
そしたらそこにいる次の走者に、脚を結んでた紐を渡して、次の走者がその紐で脚を結んでまたスタートする。
超簡単に言うと、二人三脚のリレーバージョンで、途中で笑わせればいいだけ。
『だけ』って言ったけど、多分めちゃくちゃ難しい。
俺は大雅とペアを組むことになった。
こいつに人が笑わせられるのかな?
ピストルの音と同時に、3つの団が一斉にスタートした。
俺たちの一つ前が皆嘉と白斗のペアだ。
50メートル先のところで待ってる。
あの二人が二人三脚でここまで来て、俺たちがその紐を受け取る。
「――康輝、俺さ」
突然大雅が喋りだす。
みんなが叫びながら応援してるから、聞き取りづらい。
「俺さ、できるかな?」
……なにを?
大事なところ言おうよ。
ま、どうせくだらないことだと思うけど。
「そういえばお前にすら、まだ話してなかったな」
大雅が俺の顔を見る。
そのときに目が合った。
いつもの大雅とは違う。
もちろん顔は同じだけど、なにかが違う。
「俺、喧嘩することしか、自分の逃げ道がなかったんだ」
「……は?」
「だからあんなに必要以上に喧嘩してた。本当、バカみたいだな。それでみんなに迷惑かけて」
なに言ってるんだよ……。
こんな大雅、見たことない。
「怖いよな、俺。なにがしたいんだろうな」
「……大雅……」
「特に去年だな、迷惑かけて悪かった」
「……お前に謝罪なんか似合わないぞ? どうした?」
「もうやめるわ、このキャラ。飽きたし、疲れた」
「…………」
「このこと、美月に言うなよ」
大雅は最後にそう言って、そこから黙り込んじゃった。
大雅に昔なにがあったかはわからないけど、こいつも色々と大変だったんだな、きっと。
やっぱ大雅はもともとあんなキャラじゃなかったんだ。
あんなに喧嘩喧嘩うるさいわけがないよな、普通。
こいつも冬乃と同じで、きっと無理して自分をつくってたんだ。
冬乃は自分から俺に相談してくれたし、俺もそのことにはなんとなく気づいてた。
だけど大雅は違った。
こいつは相談もしなかったし、俺もそのことには気づかなかった。
ただの『喧嘩バカ』だと思ってた。
本当に、俺ってバカだな。
大雅も苦しかったはずなのに、気づいてあげられなかった――
「――おい、康輝」
大雅の声で意識が戻った。
大雅は紐を持って、しゃがんでいた。
「俺たちの番だぞ。行くぞ」
「あ、ああ」
俺は片脚を出す。
すると、大雅は自分の脚を俺の脚を結び始めた。
とりあえず体育祭が終わったら、謝っとくか。
「なんだ、似合わないこと言ってるな、大雅。ってか、急に重い話題になるな。……ってわけで、クイズだ! 『前崎先生の本名は?』。……久しぶりに出たな、前崎先生の本名」




