第29話 呼び出し?
「前回のクイズの答えは『橋本康輝』だ。簡単だったか?」
「康輝、ちょっと話がある。廊下に出ろ」
先生にそう言われたのは終礼が終わったときだった。
先生の声はいつもより低かった。
……マジで退学の話か……?
俺が廊下に出ると、そこには美月がいた。
リュックを背負っておらず、俺を待っていたようだ。
「お前らに話がある」
先生は低い声で俺と美月に言う。
まぁ、もう覚悟はできている。……
「体育祭についてなんだが」
「「……は?」」
俺と美月は声をそろえて言う。
いや、だって『お前らは退学だ』みたいなことを言うのかと思ったのに……
結果は良いけど。
「? なんだ、二人声をそろえて」
「いや、なんでもないです」
「そっか、話の続きをする。体育祭は、いつかやる」
……え? 何、それ……
いつかやるって……そんなのわかってるよ……
「話は終わりだ、帰っていいぞ」
先生はそう言い、廊下を歩く。
「……美月、俺説教されると思ったんだけど……」
「我もだ……」
俺と美月は顔を合わせずに会話する。
美月の声は戻っている。
「……帰る?」
「そうするしかないみたいだな」
美月はリュックを背負う。
水麗と大雅は教室にいない。
もう帰ったみたいだ。
結局俺は美月と帰ることになった。
「ってか、お前って本当にすごいよな」
俺がふいに美月に訊いた。
「? 何がだ?」
「いや、ポケットナイフ持ってたり地声出さなかったり……」
「…。そうか、康輝なら教えてもよいな」
美月はそう言って走る。
そして、俺から一メートルくらい離れたところで止まり、俺を見る。
「私ね……」
ここでまた美月は地声に戻る。
「……中学まで……ストーカーされてたんだ」
「!」
俺は目を大きくして美月を見る。
ストーカーされてたのか……
「同級生、先輩、後輩、全然知らない男の人、たくさんの人にね」
「……」
「みんな私のこと好きだったみたい……。さっきも言ったけど、私メスガキだったから……そういうの好きな人に……。だから高校に入ってから声低くして口調も変えてみたんだ。それでもうストーカーされないと思って……。これは護身用なんだ」
美月は胸ポケットからポケットナイフを出す。
「……あ、なんか自慢みたいになちゃったね! ごめん……」
「……お前も大変だったんだな」
俺が言うと、美月は驚いたように俺を見る。
俺は目を細めて昔のことを思いだす。
「……康輝?」
「あ、なんだ?」
「いや、ボーっとしてたから……」
「ごめん……」
「……あ、私この後用事あるんだ! ごめん!」
美月はそう言い、俺の前を走る。
……ん? あいつの持ってたポケットナイフ……
新坂が持っていたものと同じだった……?
「……私の過去……どう……? す、ストーカーって本当に怖いんだよ! ……こんなこと言ってないでクイズするよ……。コホン、では、クイズだ! 今回は前回よりも少しだけ難しいぞ! 康輝や水麗、大雅は一年何組? 我がよく行く教室だ!」




