第289話 伝え方
「前回のクイズの答えは『✕』だ!」
俺はひなたさんと反対方向を歩いて水麗をさがしてる。
メールで水麗に『今どこいる?』って送ったのに既読がつかない。
あいつ一人でどこ行ってるんだよ……。
どうせもっと奥までさがさなきゃ見つからないんだろうな。
あとどのくらい時間かかるんだろう?
すぐには見つからないと仮定して、きっと1時間くらいかな?
そう思って歩いてたら、前を誰かが通る。
女子高生かな?
多分そうだ。
……いや、こいつ水麗じゃん。
水麗は俺に気づいてないみたいで、歩き続けてる。
なんであんな近く通ったのに俺に気づかないんだろう……。
いや、これめちゃくちゃいいチャンスじゃん!
今謝らなきゃ。
「なぁ、水麗!」
近くにいるのに、俺は大声で名前を呼ぶ。
すぐに水麗は振り向いた。
……気まず。
ちゃんと言えるかな? ごめんって。
「言いたいことがある」
「……夕飯はちゃんと作るから安心して」
は? なに言ってるの?
なんで急に夕飯の話になった?
まったく理解できないんだけど。
「そ、それより俺から言いたいことがあって……」
「そっか」
素っ気な。
逆に謝りにくくなったわ。
怒ってくれたほうが謝りやすいのに。
でも謝らなきゃ。
「さっきは本当にごめん!」
「……なにが……?」
え? 『なにが』?
数分前のこと忘れてるの?
え、こいつ水麗の偽物?
……そんなわけじゃなさそう。
水麗の表情からすると、多分とぼけてるんだ。
今の水麗は感情がこもってない表情を浮かべてる。
無表情ってわけじゃないけど、なんかしらの表情を浮かべてるってわけじゃない。
「別に水麗が信頼できなかったわけじゃない! 俺も変に誤魔化して悪かった! ただ、あれはひなたさんのプライベートの問題だった! あの感じからすると、ひなたさんは俺だけに話してくれたみたいなんだ! だからそう簡単に話せなかったんだ!」
「…………」
水麗は黙って表情を変えないまま俺に近づいてくる。
俺もこれ以上なにか言うつもりはなかったから、黙ることにした。
「…………」
まだ水麗は黙ったままだった。
そして俺に抱きついた。
めちゃくちゃ強く抱きついてくる。
俺は抱き返したりしないで、水麗の頭を見てた。
水麗はなんも言わなかったけど、今になってやっと伝わった。
こいつも『ごめん』って伝えようとしてる。
伝え方が言葉じゃないだけだ。
そうだ……こういう伝え方もいいんだ……。
「……これってさ、ひなたちゃんまださがしてるよね? 康輝と水麗の抱擁シーンの最中も、ひなたちゃんは水麗のことさがしてるんだよね? ひなたちゃん、お疲れ様……。ではクイズだ! 『大雅の好きな食べ物は?』。最近大雅出てないな……」




