第284話 ケンカ……?
「前回のクイズの答えは『母親』だ!」
「言って」
また水麗に言われる。
さっきからずっとこう言われてる。
一瞬言おうと思ったけど、俺の一言で大ごとになってひなたさんにとって迷惑になるかもしれない。
だから誤魔化すしかない。
「本当になんでもない」
「そんなわけないでしょ、あの感じ」
下手に嘘つくのは無理そうだな。
水麗には悪いけど、ちょっと怒った感じになって『今それ訊くな』オーラ出しとくか。
「水麗、ここで話すのはやめろ」
いつもより声を低くして言う。
「これは俺だけの問題じゃない。これ以上ここで話をするのは許さない」
「私も……我慢してるんだから……せめてここくらいはいいじゃん!」
言い返してきた……!
こんなこと初めてじゃない?
「いっつもそうだよ! 私にはなんか隠してる! 冬乃ちゃんとのこととか、前崎先生のこととかも!」
ちょっと待て、なんで前崎先生のことも知ってるの?
「私のことそんなに信頼できないの? 1年も一緒のご飯食べたのに、一緒の学校に行ったのに、一緒の家に暮らしたのに信じれない? 私に隠し事しとかなきゃいけない?」
「でも隠し事くらいいだろ、お前と俺は全く同じ人間じゃない。俺がお前の全部知る権利はないし、お前も俺の全部を知る権利はない」
「別に全部知ろうとなんて思ってない!」
「じゃあなんだよ、お前の言ってること、支離滅裂すぎるぞ」
「だからって――」
「いい加減にしろ!」
つい叫んじゃった。
演技とかじゃなくて、無意識に叫んでた。
水麗は表情は変えてないけど、俺から目をそらす。
俺も水麗から目をそらした。
「……少し頭冷やせ」
それだけ言って、俺は水麗に背中を見せて歩いた。
……なんで叫んじゃったんだろ、俺。
お互い冷静じゃなかったな。
それより、さっきの水麗、いつもと違った。
あんなめちゃくちゃなこと言わないし、急に怒ったりしてた。
ストレスとかたまってるのか……?
まったく、せっかくみんなとここまで来て楽しい空気だったのに、俺と水麗だけの空気は悪くなっちゃったな。
でも今は水麗に謝る気になれない。
今はみんなのところに――
「――あーあ、かわいそ」
近くから聞き覚えのある女の声が聞こえる。
「康輝があんなに叫ぶの珍しいね、いつもはクールなのに」
「ストレスたまってるんでしょ、私たちのせいで。掃除ばっかさせちゃったもんね」
「それとさ、話ずれるけど康輝の妹さんかわいかったね」
「本当に話ずれたね」
さっきからそんな会話が聞こえる。
ここになってやっと、どこから声が聞こえるか気づいた。
その方向を見たら、3人の女の人がいた。
「さ、なんか修羅場みたいだから私たちが手伝ってあげるよ。よかったね、今私たちがここにいて」
「上から言ってるけどさー、私たちにできる? 私、康輝の妹さんのこと全然わかんないよ。なんか言っても、なんて反論されるかわからない」
「心配するもんじゃないよ、私たちはそういうの得意でしょ? いろいろパターンを想像すればいいだけだよ、『詰将棋』みたいにね」
その人たち――明田先輩、結城先輩、丸木先輩は俺に向かってニカッて笑った。
「また康輝と水麗のケンカ……? 最近あったよね、そういうの。ま、ケンカするほど仲が良いってことか。ではクイズだ! 『将棋部の現在の部員数は?』。これもそんなに難しくないな」




