第279話 疲れすぎた
「前回のクイズの答えは『✕』だ!」
なんとかみんあのところまで道具を運べた。
ただ、それと引き換えに俺の腕にとてつもない疲労感と激痛が送られた。
もう今日は大人しく飯食べてゆっくりしてよ。
本当はすぐそこにある森で散歩とかしたかったのに。
「康輝くん、大丈夫? 疲れた?」
「いや、なんというか……、日々の運動って大切なんだなって実感できた。もうほぼ毎日ジョギングとかすることにした」
「康輝くんって何部だったっけ?」
「将棋部……」
「あー、あんまり運動できる部活じゃないね。水麗ちゃんって何部?」
「私はダンス部」
「お、じゃあ水麗ちゃんにダンス教えてもらえば? 結構動き激しそうだよね」
「あんな激しい動き、今の俺はできない……」
そんな呑気な会話をしているけど、準備はちゃんとしてる。
前崎先生とか大雅とか冬乃がやってくれてる。
つまり、さっきひなたさんと道具取りに行かなかった人たち。
あとはまぁ、皆嘉とかも大雅たちのこと手伝ってる。
俺はもう体力ないから手伝えないけど。
「康輝先輩……、部活でも軽い運動できるようにしますか……?」
「そんなことしたら先輩たちが反対――しないか、あの先輩なら」
「きっと『楽しそうだし賛成!』とかおっしゃると思います」
「? 将棋部の先輩ってそういうお方なの?」
「そういうお方なの」
「へー、楽しそうだね、私も将棋やってみよ。水麗ちゃんも将棋とかやるの?」
「あ、う、うん……。ちょっと……ね……」
ヤバい、これ以上は水麗に将棋の話をさせちゃダメだ。
大好きだった母親が好きな将棋を自分もやって、母親と対局した。
それは水麗の、母親との一番の思い出。
もうこの世にいない母親ののことを、今ここで思い出させちゃダメだ。
ひなたさんには悪いけど、話を遮らなきゃ。
「あ、でも他に――」
「うん、楽しいよ」
逆の俺の声が遮られて、水麗が喋る。
その声は明るくて、この言葉と声だけ聞くと元気そうだった。
「大好きなんだ、ずっとやってたよ」
大丈夫……なのか?
そう思って水麗の顔を見る。
そしたら水麗は満面の笑みを浮かべていた。
「とっても面白いよ、スマホアプリとかでもあるからやってみな?」
「うん! あとでインストールするよ! それと、水麗ちゃんと康輝くんで戦ったことあるの? 将棋で」
「1回だけ……かな?」
「へー、楽しそうだね! カップルでやる将棋かー……」
「うん! 恋人とやる将棋楽しかったよ!」
「手つなぎながらやった?」
「うん! イチャイチャしながらやった!」
「……あのさ、俺マジで思うんだよね。嘘はよくないぞ」
「え? 嘘? 私嘘ついた?」
「いや、嘘でしょ。お前と手つなぎながら対局した覚えないよ」
「アハハ、そうだったね!」
今度は声に出して笑う水麗。
……うん、これでいいんだよ。
「今回我なんも喋ってないじゃないか! 我のセリフは!? 一文字でもいいから喋らせて! ……じゃあクイズ! 『康輝が学力が高い理由(単に勉強してるからは除く)は、作中で明かされている。◯か✕か』。……ただ単に勉強してるからじゃないの……?」




