第260話 前崎先生の過去
「前回のクイズの答えは『◯』だ!」
「ちょっと聞いてくれるか……? 俺の昔話」
「はい……」
先生はスマホをポケットにしまって笑う。
どう見ても、無理に笑ってる。
「今のお前から見たら、俺は『なにも考えてない気楽な人間で、いつもふざけてる』だよな?」
「そこまでじゃないですけど……。でも、とても元気が良い性格だと思います」
「そうだよな……。ありがとう。これはちょっとした確認だった。じゃ、話すな」
前崎先生は背筋を伸ばす。
だから俺もそうした。
「昔な、俺、不登校気味だったんだ。原因は精神疾患みたいなものかな? 人間が汚く見えてた。自分がよければ他人はどうなってもいい、平気で悪口を言うし、人を殺すやつもいる。だからちょっとおかしくなってたんだよ」
「……そうですね……」
「みんなに合わせて悪いことをしたのに、自分がなにか遭いそうになったら背中を向ける。あとは記憶から消すんだ」
「……そうですよね……。いじめてたやつが自殺したら『自分は関係ない』の一点張りだ。そして罪の擦りつけあいをするんだ」
……実際に芽依がそうだ。
みんなの前で――みんなに死体を見られるところで自殺した。
それに俺のために。
俺は結局死体を見てないけど。
……本当によくないよな、だって芽依は俺のために――。
そこまで思ったところで、今の状況を思い出した。
今は前崎先生の話を聞かなきゃ。
「ごめんなさい、遮りました……」
「いいか? じゃあ話すな。そんな感じでもうダメだった。でもな、そんなときでも『あいつ』は俺と仲良くしようとしてくれた。俺がいくらそっけない態度をとっても、俺を独りにさせなかった。『あいつ』はいつも俺を笑わせてくれたんだ。……今の俺みたいな……ふざけた態度でな」
「…………」
「でさ、『あいつ』とお前が……似てたから……」
それから前崎先生はなにも言わなくなった。
俺も、なにか言う必要がないから、ずっと黙ってた。
『その人は今なにしてるんですか?』なんてバカみたいな質問できない。
だってその人は多分――。
「――『あいつ』……交通事故で死んだんだよ」
俺の代わりに前崎先生が言う。
「本当……、酷いよな……。『コウタ』……」
ここからまた黙った。
……この世に何人いるんだろうな、こういう気持ちになるやつって。
「なんか話重いな。みんな結構悲しい過去持ってるんだな……。……あ、我もちゃんとストーカーされてらな!? ではクイズだ! 『作中で大雅が泣いているシーンがある。◯か✕か』。まーた泣いている系だよ」




