第196話 頑張って逃げる
「前回のクイズの答えは『お化け屋敷』だ! 定番だな!」
「なぁ……、お前らここにいていいのか?」
俺は両手を挙げながら二人に言う。
「いや、お前から離れたら、お前逃げるだろ」
「だーかーらー、俺が逃げないように、ここにいんなって言ってんの」
俺の言葉でさらに混乱した鬼たち。
確かに、俺の説明不足だ。
でも少しでも時間を稼いで、工芸室に向かってる鬼たちをここから離したい。
「この教室から出られるのはそこの出入り口だけだ。出入り口の幅は狭い。だからお前らが一人ずつそこに立ってれば、俺はどう頑張っても出られないだろ」
「……あなた、怪しい。なんで自分が不利になることを自ら言うの?」
「言ったろ? 俺は『裏切り者』で鬼の味方だ」
「……本当に鬼の味方みたいだね」
二人は俺に背中を見せないまま教室の出入り口まで行く。
『背中を見せないまま』ってことは、ずっと俺を見たまま歩いてた。
つまり後ろ向きで歩いてた。
笑いそうになった。
ってか、ちょっと笑った。
でもこれのおかげで俺は逃げれそうだ。
だけどあの逃げ方、怖いんだよな……。
落ちたら怪我しそうで。
ま、やってみよ。
俺は両手をおろす。
鬼は俺を警戒する目で見る。
心の中で『なにしようとしてるんだ? そっから逃げれるわけないのに』って思ってくれたら嬉しいな。
俺はすぐに窓を開けて、そこから降りる。
鬼はすぐに俺のところに来る。
今来ても意味ないのに……。
俺はもう水道管の上に乗ってる。
それにしてもこの水道管、丈夫だな……。
結構上から落ちてきても耐えれてるんだから。
とにかく、早く逃げなきゃ。
俺はちょっとだけ移動して、窓が開いてる教室の中をのぞく。
そこには誰かがいた。
誰かが背中を見せてる。
鬼ではなさそうだ。
俺は教室の中に入る。
すると、そいつは驚いた表情をして俺を見た。
皆嘉だ。
「康輝……」
「よ、皆嘉」
俺は皆嘉に近づく。
「びっくりした……」
「そんなか?」
「マジで鬼かと思った」
「そっか。で、一人か?」
「ああ、みんなと離れた。さっきまで美月と一緒にいたんだけど、鬼が来て……」
そこで美月とわかれたのか。
多分、鬼は美月のほうを追いかけたんだな、皆嘉じゃなくて。
美月なら逃げれるかな……?
「とにかく、康輝だけでも捕まってなくてよかった」
「ああ、こっちもお前がまだいてよかった」
「俺も鬼に今追われててな。多分、この教室の中にいるってことはバレてる」
「マジか……。逃げるか?」
「いや、もう走りたくない。隠れる」
俺は教室の中を見渡した。
「なんか『水道管の上に乗る』って表現なんだが、『配管』や『配水管』と言う者もいるらしい……。小学校でよくある、あの灰色のむき出しになってるやつだからな……? 伝わるかな……? ではクイズだ! 『1年生のときの美月のクラスの出し物は?』。あれは恥ずかしかったな……。




