第194話 四捨五入して0
「前回のクイズの答えは『喧嘩バカ』だ!」
「お兄ちゃん、これからどうするの?」
水麗が窓から外を見ながら俺に訊く。
外には鬼がたくさんいる。
「まぁ、もう一人くらい見つけに行くか。美月とかそのへんのやつ。あいつ、下手したらすぐ捕まりそうだし」
「そうでもないぜ? あいつ陸上部のマネージャーってだけあって、結構ビシバシ言ってくるんだよな。そのときの圧がすごくて、部員全員美月に参ってる」
マジか……。
それは普通にすごいな。
「今では美月は陸上部の女王になってるからな」
マネージャーが女王……。
「だからそんくらいの圧があれば、鬼に怒鳴ったりできるだろ。そして鬼が怯む」
「そんな上手くいくかな……? 美月ちゃんだったらもっと生物的なこと使いそうだよね」
「でもどうやってやるんだ?」
「……思いつかない!」
なんなんだこの会話……。
しかも、この場にいないやつのこと話してもな……。
「とにかく、しばらくはここに待機してよう。あと下手に喋らないほうがいいな。場所バレるから」
「じゃ、俺ちょっと廊下見てくるわ。鬼が今廊下にいるか調べてくる」
勇気すごいな。
さすが大雅。
大雅は出入り口のところまで行って、そこから頭を少しだけ廊下に出す。
しばらくしてからゆっくりとこっちに戻ってきた。
「康輝、面白かったぜ」
「面白い……?」
「ああ、四捨五入して0人だった」
そっか、0人か。
なら安心だな――
――って、『四捨五入』!?
「……このへんにいるかもしれない」
廊下から声が聞こえてくる。
めっちゃ近くから聞こえる。
絶対鬼だ。
「お前、四捨五入って……」
小声で大雅に話しかける。
俺たちは窓側に寄った。
「合ってるだろ?」
「……何人いたんだ?」
「8人くらい」
「四捨五入したら『10』じゃねぇかよ!」
つい叫んでしまう。
だって叫んじゃうじゃん。
四捨五入して0じゃないし……。
「十の位で四捨五入したら『0』だろ?」
「いや、一の位で四捨五入しろよ……」
元の声量に戻す。
でも鬼は教室に入ってきてない。
これなら安心――
「――いたぞ!」
ガラッとドアが開いて、同時に大声が教室に響く。
数人の鬼がいた。
バレてたのかよ……。
ってか、バレたならもっと早く入ってこいよ……。
なにいまの間?
それより、今にもこっちに向かってきそうだな……。
ここには水麗もいる。
だから、俺がなんとかするしかない。
「大雅、水麗と上手く逃げろ」
俺が言うと大雅はすぐにひざまずく。
よく一瞬でその行動ができたな……。
「水麗、乗れ」
「え、いや――」
「乗らねぇと怪我するぞ」
水麗は大雅の背中に乗る。
俺は視界の端でそれを確認すると、大雅から離れる。
そして転んだふりをした。
チャンスだと思った鬼たちは一斉に俺に向かってくる。
嬉しいことに、全員来てくれた。
大雅はその隙に廊下に出ていく。
……俺はどうやって逃げよっかな……。
「なんか我の部活のこと暴露されてる!? そして大雅! 四捨五入! ……うん、今日も叫んだ。ではクイズだ! 『美月は康輝にクイズを出したことがある。◯か✕か』。クイズ、ね……」




