第183話 冬乃と登校
「前回のクイズの答えは『担々麺』だ!」
「じゃ、行ってくる」
玄関から奥に向ってそう言う。
でも、返事はない。
だって家の中に誰もいないから。
父さんと母さんはもちろんいなくて、水麗はなんか部活の朝練があるらしくて、先に学校に行った。
ダンス部も大変だな……。
俺はドアを開ける。
そして家の鍵を閉めてから歩き始めた。
「――康輝くん」
なんか冬乃の声が近くから聞こえる。
声が聞こえてくる方向を見ると、冬乃がいた。
「おはよ」
「ああ、おはよ」
「あれ、一人? 水麗ちゃんは?」
「なんか部活の朝練があるらしいから先に行った」
「ダンス部も大変だね」
俺と同じこと思ってる。
まぁ、多分みんなそう思うか。
……いや、『みんな』は多分違うな。
「今日ね、ちょっと言いたいことがあって来たんだ」
笑いながら言う冬乃。
今までの『作り笑い』って感じじゃなくて、ちゃんと笑ってる。
「昨日さ、ちゃんとお礼言えてなかったでしょ? だからちゃんと言いに来たんだ」
「いや、担々麺をご馳走してもらっただけで満足してる」
言い忘れたけど、あのあとの担々麺は無料で食わせてもらった。
いつも美味いんだよな……。
「いやいや、私が勝手に康輝くんを家に連れてきたんだからあのくらいは当たり前だよ。本当にお礼を言わなきゃいけないのは私だよ。本当にありがとう」
なんかそう言われると照れるな。
普段言われないから。
「じゃあ……、どういたしまして……」
「うん。……でね、私決めたんだ。やっぱりみんなの前ではおじさんの言う通りにするよ」
「大丈夫なのか? 結構ストレス溜まるみたいだけど」
「大丈夫大丈夫。ストレス発散法なんて色々あるし」
冬乃が歩き始めたから、俺も歩き始める。
「あと、康輝くんの前では『本当の私』になるね。康輝くんの前ではそっちのほうがいいから」
なんか美月みたいなこと言ってる。
美月も俺の前でしか地声出さないとか言ってたな……。
「あとさ、これも相談なんだけどいい?」
「ああ、なんだ?」
「私は、バカキャラ演じるためにテストとかわざと間違えて悪い点数とってるんだけど、呼び出しとか喰らうかな?」
「……わざと間違えてるのかよ……」
「うん。だって正解しちゃうとキャラ崩壊しちゃうじゃん」
だとしてもその勇気がすごいよ……。
……ってことは、冬乃、めちゃくちゃ頭いいかもな……。
なんか1回だけあった気がする。
俺が『え、なにそれ?』ってなったやつ。
「まぁ、常識内の点数取っとけば大丈夫だろ」
「そーなんだよねー、『常識内』だよね……」
冬乃は空を見る。
なにを考えてるんだろう……。
「やはりそうだよなー、冬乃。康輝の前ではありのままの自分がいいよなー! それより冬乃、わざとあんな低い点数取っていたのか……。ではクイズだ! 『大雅は冬乃に、お前いいやつだな!、と言ったことがあるが、なぜ?』。……このクイズか……。




