第179話 大雅と屋上へ
「前回のクイズの答えは『美月、冬乃』だ!
放課後、屋上まで来た。
そろそろゴールデンウィークか……。
しかも屋上なんて初めて来たかも。
意外と広い。
「――おーい、ここだ」
奥から大雅の声がする。
大雅がなんか持ちながら座ってた。
透明で、中にある液体が見えるタイプの水筒かな?
その中には黒色の液体が入ってた。
どう見てもイカスミにしか見えない……。
「なぁ、康輝――」
「おい、ちょっと待て。まずツッコみたい。その液体はなんだ?」
「ああ、これか?」
大雅が俺にその水筒を投げてくる。
俺はそれを掴む。
本当になんだよ……、これ……。
「なんか美月がくれた。『栄養いっぱいあるから飲め』って渡された」
「……美月がつくったのか?」
「ああ、『美月特製、スペシャルドリンク!』とか言ってたし」
じゃあ飲んじゃダメなやつだ。
絶対ヤバイやつ入ってる。
「康輝、飲んでみてくれねぇか?」
「はぁ? なんで俺がそんなことしなきゃいけねぇんだよ」
「お前なら強ぇだろ? 胃」
「いやいや、んなわけねぇだろ。しかも、俺はいつも水麗の美味い飯食ってるから、こんなの飲めねぇよ」
「食レポしてほしいだけなんだ、頼む」
……大雅ってそんな『頼む』なんていうやつだったっけ?
そんなに頼むなら飲んでやるか。
俺は蓋を開ける。
そして液体のにおいを嗅いでみる。
……無臭……?
「なんかにおいしねぇぞ?」
「ってことは味もねぇかもな」
なら安心だな。
ちょうど喉乾いてたし、ありがたい。
俺は中にある液体を大量に口に含む。
……なんだよ、無味じゃねぇか――
――!
なにこれ……!
変な味する……!
苦いし、からいし、すっぱい……!
「康輝、大丈夫かー? 今にも吐きそうな顔してるぞ?」
ヤバイ、マジで吐くかも……。
いや、吐くのはダメだ。
俺は頑張って飲み込む。
そのとき、液体が食道を通るのがわかった。
……あ、今胃に到着した。
なんかグツグツいってる感じがする……。
「感想は?」
「……大雅、これ絶対飲むな。冗談抜きで死ぬ」
「……俺のためにありがとな」
「本当だよ」
「……本当はお前と喧嘩するつもりだったんだけど、その状態じゃ無理そうだな。今日はもう用はねぇ」
大雅は俺から水筒を受け取り、屋上から出ていこうとする。
「――あとさ」
屋上の出口の前で止まる大雅。
そして俺を見る。
「俺が喧嘩好きな理由、わかるか?」
……んなのわかるわけねぇだろ。
ってか、今考えごとしたくない。
「……じゃあな」
大雅はそう言って屋上から降りていった。
なんだったんだよ……。
「なっ! 大雅……我のつくった特製ドリンクを飲まなかったのか……! しかも康輝! 食レポはお世辞でも『美味い』というものだぞ! それに『冗談抜きで死ぬ』とはなんだ! ……興奮しすぎて疲れた……。ではクイズだ! 『康輝と大雅が初めて喧嘩したのは第何話?』。なぜ喧嘩にしか興味がないのだ……?」




