第167話 ケーキ屋へ
「前回のクイズの答えは『焼きそば』だ……」
放課後。
プレゼントはもう買ってあるけど、ケーキはまだ買ってない。
だから買おう。
結構美味いケーキ屋があるから、そこに向かってる。
ここからまぁまぁ離れてる。
それでもその店に行きたい。
ケーキが死ぬほど美味いから。
水麗にそのことがバレないように、一人でそこに向かってる。
水麗はなんか居残りがあるらしい。
……気づいたらケーキ屋についてた。
チェーン店じゃなくて、個人で経営してる店。
俺はその店の中に入る。
めっちゃ美味そうなケーキがある。
さてと、どれにしようかな……。
「――康輝くん?」
右から声がする。
中年の女の声だ。
俺は右を見る。
エプロンを着た女の人がいた。
この店に来たのは、ケーキを買うという目的だけじゃなかった。
この人に会いたかった。
「お久しぶりです」
「本当久しぶりねぇ! きっと芽依も喜んでるわ!」
俺は目の前にいる女性――芽依のお母さんに向かって微笑んだ。
ここは芽依の家。
芽依は俺と付き合ってた女。
同い年で、中学校で知り合った。
今はもう、生きてないけど。
「もしかして買いにきてけれたの!? ケーキ!」
「はい、今日家族の誕生日で……」
「お母さん?」
「いや、義理の妹です。再婚したんですよ……」
「へー、おめでとうね!」
芽依のお母さんは楽しそうに話してくれる。
そんな芽依のお母さんの顔を見てると、なぜかこっちも嬉しくなってくる。
「――ミカ、なにしてるんだ?」
奥の方からエプロンを来た中年の男が出てくる。
俺はその男と目が合った。
そのとき、その男の表情が変わった。
「テメェなにしに来たんだよ!」
男は俺のところまで足早で来て、俺の胸ぐらをつかむ。
けど俺は抵抗とかしないで、黙ってその男を見る。
「なんだ! なにしに来た!」
「あなた、違うの。ケーキを買いに――」
「ミカは黙ってろ!」
芽依のお母さんの声を遮る男。
この人は、芽依のお父さん。
奇跡的に、今は俺以外に客はいない。
「俺に文句でも言いにきたのか!」
「違い……ます……」
「じゃあ来んなよ! この人殺しが! 芽依を殺しといてよく呑気に生きてられるな!」
芽依のお父さんの声が響く。
「じゃあ……、俺が死ねばいいんですか……?」
「逆にどうだと思うんだよ!」
「俺が死んでも……、芽依は戻ってきません……」
「そうだよ! もう芽依は来ないんだ! テメェのせいだからな!」
「知ってますよ……、そんなの……」
俺は手に力を入れる。
『ダメだ』、『堪えろ』。
それはわかってる。
でも、そろそろ我慢できなさそう。
「――とっとと帰りやがれ!」
芽依のお父さんはそう言って奥に戻った。
俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
「康輝……、よくそこに行けたな……。ではクイズだ……。『芽依の名字は?』。覚えているか?」




