第124話 本当に大丈夫?
「前回のクイズの答えは『六時』だ! もう少しいてもよかったのにな……」
「……本当に大丈夫……?」
登校中、水麗が話しかけてくる。
今日は二人で登校してる。
「大丈夫って……何が?」
「いや、さっきから無口だし……。いつもより冷たいし……」
「え、あ、マジか……。悪い……」
「やっぱり変だよ!」
急に大声を出す水麗。
そして水麗は俺と向き合い、俺に一歩ずつ近づく。
俺は一歩ずつ後ろに下がる。
水麗が怒った顔をしていたからだ。
しばらくすると、俺の背中に壁がぶつかる。
それでも水麗は近づいてくる。
「悩みがあるなら相談してよ! 約束したじゃん! 『お互い、つらいことがあったら相談する』って!」
そんな約束したっけ……?
……したかな……?
なんも覚えてねぇ……。
そしてヤバイ。
なんか別のこと言わなきゃ……。
「水麗……、あのな、男子高校生には結構悩みがあるんだ。女の前では言えないこと。『異性の身体に興味ある』とか、女のお前にとったら理解できないだろ? そういう――」
「理解できるよ!」
水麗は叫ぶ。
「いや、不快でしょうがないだろ?」
「そんなわけないじゃん! そんなこと思わないから相談してよ! お兄ちゃんがそうやってなんでも心にためるのが嫌なの!」
水麗は俺の手を握る。
強く握ってるみたいだけど、あんまり痛いとは感じない。
「なんでいつもそうなの!? 皆嘉に殴られたときも、怒ってなかったし!」
なんでここで皆嘉が出てくるんだよ……。
ってか皆嘉に殴られたっけ?
……あ、思い出した。
ロッカーで殴られたんだ。
あれは結構痛かったなー……。
「お兄ちゃんは優しすぎるんだよ! そのせいでお兄ちゃんが傷つくんだよ!」
「……俺は優しくねぇよ……」
「優しいから相談とか怒ることができないんでしょ!?」
「……今はな……」
俺は水麗の頭を撫でる。
水麗は俺の手に触れた瞬間、怒りが少しおさまったみたいだ。
「お! 隙あり!」
横から声がする。
俺は反射的に水麗を抱え、しゃがむ。
顔を上げると、大雅が俺に蹴りかかっていた。
クソがよ……水麗もいるのに……。
俺は大雅の片脚を掴む。
大雅はもう片方の脚で俺を蹴ろうとする。
――今だ!
俺は大雅の脚を引っ張る。
大雅は自分の脚を思いっきり蹴った。
「ってぇ! おい、康輝! ちょっとは手加減しろよ!」
「急に蹴りかかってきて『手加減するな』なんて言うな! せめて水麗がいないときにやれよ!」
俺らは立ち上がる。
大雅の後ろには美月がいた。
「すまぬな、康輝。止めたんだが……」
「いつものことか……」
「あの、お兄ちゃん……」
水麗が俺に言う。
俺は水麗の目を見た。
「ありがとう……」
水麗の小声が俺に聞こえた。
俺は笑い、水麗の頭を再び撫でた。
「水麗が康輝に怒ったぞ! こんなシーン、初めて見た! ……うん、じゃ、そういうことで。ではクイズだ! 『作中で喧嘩シーンが出てないのは誰VS誰? ①康輝VS皆嘉 ②皆嘉VS大雅 ③大雅VS白斗』。なぜ恋愛物語なのに喧嘩シーンがあるのだ……」




