第110話 借り物競争 〜後〜
「前回のクイズの答えは『②』だ!」
次は俺の番だ。
俺は走り出す。
アンカーだからって『二周しなきゃダメ!』とかはない。
ただみんなと同じように一周するだけ。
無心で走ってたら、箱の前まで着いてた。
青団と黄団も俺と同じくらいだ。
つまり、どっちの団もアンカーで、箱から紙を出している。
俺も紙を一枚出した。
さてと……、なんて書いてあるかな……?
……? あれ? 俺の目がおかしくなったのかな……?
『サングラスとマスク』って書いてある。
借り物競争って二つだっけ?
二つものを借りなきゃいけないんだっけ?
他の団はなんて書いてあるんだろう?
俺は隣に立っている生徒の紙をのぞく。
一人目は『お母さん』、二人目は『日焼け止め』
なんだ、簡単じゃ―――
―――いや、待てよ……。
このお題でも、この二人は全く動かない。
普通家族のところに行くよな……?
二人目の『日焼け止め』はなんで止まってるかわかんないけど、『お母さん』はわかった……。
『家族が体育祭に来れてない』か『お母さんがいない』のどっちかだ……。
この生徒の表情からして、多分後者だろう。
まったく……なんでそういうところに気づかないんだよ……先生……。
家族関係とか絶対悲しむ人いるじゃん……。
「……おい」
俺はその紙を持っている生徒に話しかける。
その生徒は涙を流していた。
「お前……これと交換」
「え……?」
「そのお題、俺がやるから」
「なんで……?」
「なんでって……。いいから」
俺は少し強引に紙を奪おうとした。
しかし、その生徒はギュッと紙を握りしめる。
「えっと……なんで俺が泣いてるかわかる?」
「え……家族がいないから……」
「いや、目にゴミが入った」
……は?
「俺の母さんはいるよ? じゃ」
そいつは走り出す。
俺は固まる。
なんだったんだ……あれは……。
めっちゃ無駄に心配したじゃん……。
もういいや、俺もやろ。
でも、マスクとサングラスって誰もかけてないよな……?
……いや、一人いた。
『Rira』さん!
えっと……どこにいるかな……?
……いた! 本部の近く!
俺はそこまで全力で走り、『Rira』さんの前で止まる。
「あの……マスクとサングラス……貸してもらえませんか……!」
「え……」
まぁ、そうなるよな。
男に『今つけてるマスクよこせ』って言われても、貸すわけにはいけないもんな。
「いいですよ」
いいんかい!
『Rira』さんはマスクとサングラスを外し、俺に渡す。
意外とかわいいな……顔が……。
今はそんなこと、どうでもいい。
俺はゴールまで本気で走る。
笛が響き、赤団が一着となった。
「康輝……。それと康輝がナンパした女……。よくしているマスクを男に渡せるな……。まぁ、康輝はイケメンだし……。ではクイズだ! 『体育祭の途中でやる演劇。冬乃は何の役?』。難しいな……」




