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旅をする僕と旅をする猫  作者: あぼがど
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1945年2月14日

 猫が不思議そうに見つめるものを、僕はよく知っているのだった。

 灰色と、灰色と、灰色に塗り固められた世界。解体された世界。

 月の裏側みたいでしょう?と僕が言うと、猫は真面目に返すのだ。


「冗談言っちゃあいけません。月に裏も表も無いでしょうに」


 ああ、こちらではそうでしたね。僕の方には裏も表もありましてね。 するとこれはつまり、旦那の方の物なんですか? 物というか、景色ですねこれは。 景色……ああ、鳥の目から見たらこういう風に景色が見える、これは地面なんですね。 まあ、鳥が見た訳じゃありませんが。 鱏とか。 僕の方じゃ鱏は空を飛ばないんですよ。


 この、渦巻みたいなものが三つ並んでるのはなんですか。 これはアウトバーンのジャンクションでしょうねえ。 なんですって? 辻ですよ、四つ辻。四つではないですけれど ああ、なるほどこれは街道なんですか。でも、穴開いてますね。街道にも道沿いにも、沢山。 開いてますね。 街道がずっと伸びて行って大きな川に、橋が、


「落ちてる」

「落ちてますね」


 ずいぶん立派な橋なのに、これじゃあ川を渡れないじゃないですか。


「渡れないようにしたんですよ」

「なんでまたそんな、意地の悪いことを」


 猫は実に不思議そうに僕を見るのだけれど、僕はあまり不思議ではない。そういうものごとを、是とする場があるのだ。世の中には。僕のいたところには。


「旦那はこれとご縁のある方なんですか?」

「うーん……僕はとりわけこの場所、この時に居合わせたという訳ではないのですが、縁というか繋がりはありますね。ええ」


 共に旅を続ける猫よりも、ずっと強く、僕はこの光景と繋がっている。


 建物みたいなものは、やっぱり街なんですかね。 ああ、それはね、出来立ての廃墟なんですよ。


 出来立ての廃墟。 ええ。 それじゃあ廃墟になる前は、ついこの、ほんの少し前までは 人が住んでたんでしょうね。 街道と橋と建物と、どこも穴だらけですね。 穴だらけなんですよ。


「旦那は随分と、剣呑なところからいらっしゃったんですねえ……」


 もっと目を凝らせば、そこにある兵舎や陣地に気づくことも出来るだろう。しかしどうやら、猫はそれが何なのかを判らないようなのだ。解らないということは、それはそれで幸せなことなのかも知れないなと、僕は思った。


 さあさあ、あんまりじろじろ見過ぎるものでもありませんよ。 僕は猫を促して、また旅をはじめた。こちらが戦争を見るときには、戦争もこちらを見ているものなのだ。

ゲルハルト・リヒターの「1945年2月14日」を見て「アートだ」と思う人もなかなか多くは居なかろうとは思います。これは第二次世界大戦における連合国の空爆結果調査の記録写真で、ドイツ・ケルン市南部の空襲被害を記録した1枚をただ拡大して展示している、言ってみればそれだけのものです。リヒターの他の作品というのは、たとえば写真の上に絵の具を落として偶然性から生まれた「流れ」のようなものを見せたり、写真をそのままキャンパス上に描き写して必然的に同じものを出現させたりとか、何かそういうものが多いのですが、本作品に関しては何も手を加えていません。

手を加えた人は、画面の外にいるわけです。それは記録写真を撮影した人ですらなく、それ以前にこの地域を攻撃した航空機の乗員の手で、都市や道路、橋脚はかたちを変えさせられています。

それをアートと呼ぶのでしょうか?Art of War といえば「戦術」のことですが、戦略爆撃というのはもっとストラジティックに、計画されて必然的に行われるものです。とはいえその結果は偶然に左右され、なにが起きたのかは起きた後でないと観測できません。

アートって何でしょうね?日本語では「美術」と言いますが、artという英単語に「美」はあるのでしょうか?「芸術」の「芸」ってなんでしょうね。

たぶんそういうことを考えさせられるから、この作品は面白いのだろうなと思います。投弾地域に暮らしていた人にとっては、それどころではないのでしょうけれど。

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