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旅をする僕と旅をする猫  作者: あぼがど
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樹獣

 森の中、風もないのに急に木々が騒めき出す。先程まではてんでばらばらに茂っていたのに突然あたり一帯せわしなく動き出して、ぐんにゃり腰を曲げていた木はすっと背を伸ばし、だらしなく枝を垂らしていた木はさっとばかりに高く掲げる。こりゃ樹獣のお通りですね。と猫。 樹獣? ええ旦那、ちょいとご注意くださいね。向こうは木のことは分かりますが、わたしたちにゃあ気がつきませんので。

 下生えたちが潮の引くように走り去り、一同かしこまってこうべを垂れると森の中には一本の道が拓かれる。大きく、広く、長い道だ。まっすぐに伸びて、まっすぐに続いていく苔むした大路。ふたつに割れた森の上からは空の光が道を照らし、そこを行くのは。 ごらんなさい、あれはやはり樹獣です。


「大きいですね」

「そりゃあもうね」


 それは樹で、それは獣。見上げれば四方に太く鋭く幹を突き出し、八方にはその尖角を構える。蠢く無数の根がその身を運び、幹には根も葉もない。体躯は純粋な緑が歳を古りて色濃く変えた様に深く重く染まり、艶やかに光を照り返す。およそこれと似た樹は見たことがなく、これと似た獣も見たことがない。そういうものが道を行く。


「不思議だな、音がしません。あんなに大きなものが、歩いているのに」

「あれは深山幽森の奥津城で、誰の目にも看取られず誰の耳にも聞き取られずに朽ちて倒れた樹から生まれたものです。ですから、最初から音を纏ってはいないのです」


 まるで森の主のようだなあ。 どうなんでしょうねえ。ともかく木々はあれを敬うのですが、さりとて樹獣が森を治めたり、何かを差配したというのは聞いたことがありません。それでもまあ、そういうものかも知れませんね。森の中とて、我々には与り知らぬことです。

 見上げる僕らの目の前を、樹獣は静かに通り過ぎていく。目も耳も無いものは、何かを見たり聞いたりはしないもの。ただそこに居るだけで、そこに在るもの。しかしよくよく目を凝らせば、そこかしこに帯金が巻かれ鋲が打たれて、修繕された痕が見える。

 あれはどなたか、手入れをされてる人がいるのでしょうね。 いやいや旦那、それが人とは限らんでしょう。 ああ、確かに。

 樹獣が通り過ぎると、木々は再び元の姿へと立ち返る。枝を伸ばしたり幹をくねらせたり、太く固い根元をこれ見よがしに持ち上げたり。そうして道は消え、そこにはただ森が、在るがままに繁っていた。

 やがて猫に促されて、僕らはまた歩き始めた。



勅使河原蒼風の「樹獣」(じゅじゅうと読みます)を初めて見たのはテレビ東京の「美の巨人たち」という番組でした。あおりと接写のカメラワークを駆使してずいぶん迫力のある映像が流れて、非常に興奮したことをよく覚えています。その勢いで東京都現代美術館に展示されている実物を見に行ったら、これが思っていたほどには大きなものではなくて微妙にしょんぼり(笑)。それでも自分の中に在る「樹獣」は大きくて迫力のあるものなのです。そういう気持ちを言葉にしてみました。実際の「樹獣」はいまでも東京都現代美術館に展示されていると思います。拙作を読んでご興味を持たれた方が居られましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 動物でもあり植物でもある存在、もしくは動物でもない植物でもない生き物は人の理解を超えるわけで、それが巨大な塊となって目の前に現れたとき、人はどんな感情を抱くのかなと想像しながら堪能させていた…
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