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恐怖に立ち向かい打ち勝つ心。その名は

少年と呼んではいますが、名前はしっかりと分かっています。

 俺の知識にプロテクトを掛けるのは良いとして、そんな事よりも少年だ。何やら意気消沈していて、肝心な事が頭から抜けちまっているらしい。


 『おいおい少年よ。今話をしてる俺は何だったか忘れたか?制御だの回路だのって知識は、俺バッチリよ?』

 「そ、それって、僕に勉強を教えてくれるって事です…!?」


 おっ、表情に明るさが戻って来たな。教師役なんざやった事ないが、まぁ何とかなるだろ!


 『おうよ!任せな!バッチリ教えてやるぜ!だが悪い事に使うんじゃねえぞ?』

 「使いませんよ!って言うか、さっきから僕の事子供扱いしてません!?」

 『してるぞ?少年は少年なんだから、子供扱いすんのは当然だろ?』


 何を分かり切ったこと言ってんだか。まぁ、子供ってのはどうしても大人から認められたいと思う傾向があるから、子供扱いされたくねぇってのは、分からんでも無いがな。


 だが、子供に無理に背伸びをさせて危険な目に遭わせるなんざ、俺の矜持が許さねぇ。このボディを少年が作ったってんなら、少年が一人前になるまで、俺がしっかりと保護してやらねぇとな!


 「だから、僕はカルモですって!それと、僕はもう15才だかられっきとした大人です!子供扱いしないでください!」

 『無理だな。』

 「何でですかっ!?」


 俺の却下の意見に対して少年が食って掛かる。まぁ、子供扱いするのは当然だ。


 『俺の前世じゃ15才はれっきとした子供なんだよ。大体な、ただでさえ少年の体はチッコイし、体力もまるで無さげじゃねぇか。俺から言わせりゃあ、まぁだまだ半人前のヒヨッ子だ。背伸びなんざしするもんじゃねぇし、する必要もねぇんだよ。』

 「か、体が小さいのは僕がドワーフだからですぅっ!ヒュマやエルフや獣人の人達と比べたら、小さいのは当然じゃないですかっ!?」


 ドワーフにヒュマにエルフ、それと獣人、ねぇ。

 ドワーフとエルフと獣人は、例によって娯楽メディアの知識にあるとして、ヒュマってのは多分ヒューマン。つまり、俺の良く知る人間の姿をしてるんだろうな。


 こいつぁ、いよいよもって異世界ファンタジーって奴を受け入れざるを得なくなってきやがったみてぇだな。


 ところで少年は自分の体が小さいのは種族が、ドワーフだからと言っていたな。

 確かに、俺の知識にもドワーフってのはずんぐりむっくりとした体形をしてる。だが、それにしたって少年の体は小さすぎだ。少年の身長は140㎝もねぇんだぞ。


 『ほーん。種族を理由にすんのか?なら、少年と同年代の同族は、誰も彼も少年と同じぐらいの背丈なんだな?言っとくが、俺の測量能力と感知能力を舐めんなよ?既に少年の身長体重は把握済みだ。ついでに健康状態もな。』

 「ちょっ!?な、何勝手に調べてるんですかっ!?」

 『調べたんじゃなくて、殆ど自動で分かっちまうんだよ。少年がシートに座った時点でな。で?結局んとこ、少年と同年代の同族の背丈はどんな感じなんだ?』

 「うっ…そ、それはぁ…(みんな、僕より大きいですけど…)。」

 『聞こえてんぞ?』

 「うぇひゃあっ!?」

 

 少年の体の大きさはやはり周りと比べて小さいようだ。ボソボソと小声で答えていたが、俺の収音機能はしっかりと少年の声を拾い上げていた。バッチリと録音もさせてもらったさ。


 『何だったら、今の少年の声を大音量で再生してやるが?』

 「ちょっ!?何でそんな事できるんですかっ!?やめてくださいっ!」

 『やらねぇよ。つーか少年はちゃんと飯を食ってんのか?このボディを作るのに夢中になって飯を食わなかった時とか、結構あるんじゃねぇのか?駄目だぞ?大人になってからだと、いくら食っても太るだけで背は伸びねぇからな。今の内にちゃんと食う時に食って、適度に体を動かして、寝る時間になったらしっかりと寝むれ。じゃねぇと、マジで大人になってもチッコイままだぞ?』

 「そ、それ、本当ですかっ!?」


 随分と食いつき良いじゃねぇか。少年もやっぱり自分の体がチッコイ事を気にしていたみてぇだな。


 『おうともよ。ま、流石にもっと小せぇ頃から食って動いて寝てた奴よりもデッカくなる事はねぇとは思うが、それでも平均サイズぐらいにはデカくなれるんじゃねぇか?』

 「そ、そうなんだ…!あ…でもやっぱり、僕の稼ぎじゃ…。」


 希望が持てた事で一度は目を輝かせるが、再び少年は表情を曇らせちまう。

 さっきも稼ぎがどうのこうの言ってたし、どうやら少年はあまり経済的に余裕があるわけじゃないみてえだ。


 だが、それこそ心配無用だろ。やっぱり肝心な事が頭から抜けてやがるな。

 少年に、もう一度俺にとって当たり前の事を問いただそう。


 『おうコラ少年。少年は今誰と話をしてるよ。』

 「誰って、サブロウさんに決まってるじゃないですか。」

 『じゃあ俺はどういう存在だったか、覚えてるか?』

 「ええっと、"ジーク"みたいな魔導鎧装(マギ・アーマー)を効率よく動かすための装置の、付喪神さん、ですよね?」


 マギ・アーマーとやらじゃなくて"МT(メガトレーサー)"の、だがな。まぁ、大体合ってる。

 で、何でそこまで答える事が出来て[何言ってんだコイツ?]ってな口調で回答してんだよ?


 『分かってんなら話は早ぇだろうがよ。俺と少年がこのボディ、"ジーク"を使って金を稼げばいいだけじゃねえか。とりあえず、目の前のトカゲのバケモンは幾らか金になるんだろ?』

 「へっ?」

 『何を素っ頓狂な声を出してんだよ?このボディを作ったのは少年だろ?少年はコイツを自分以外の誰かに乗せるために作ってたのか?悪ぃが、俺にはそうは見えねえぜ?』

 「そ、それはそうですけど…。ぼ、僕が、た、たた戦うんですか?」


 おっと、少年がかなり震えちまってる。

 まぁ、戦いを経験した事がなさそうだし、どうにも元の性格もビビりっぽかったからなぁ。俺が思わず叫んじまった時も悲鳴を上げてたし。


 『安心しろ。少年は最低限の操縦をしてくれりゃあ、後は俺がやる。元々俺は、そういう目的で作られたんだからな。』

 「そ、そのぅ…サブロウさんが全部動かすわけには…。」

 『無理だな。』

 「ええ…。だって、さっきも勝手に動いてたし、付喪神、なんですよね?」

 『あのなぁ、少年。いくら魂を得たからって、一般的な人間の倍以上のデカさがある金属の塊を、何の動力も無しに動かすなんざ、魂の消耗がデカすぎて精々20分ぐらいしか出来ねえぞ?一応言っておくが、前世の俺のボディは人間の10倍以上の大きさだったが、一人で全部動かそうとしたら1、2分程度しか持たなかった。』


 一度死んだ事で魂ってもんの理解力が上がったからか、俺がボディの機能を使わずにボディを動かした時に、やたら疲れる理由が大体分かった。


 どうやら魂そのものにも何らかのエネルギーがあるみたいなんだ。んで、そのエネルギーを消費してテレキネシスじみた事をやってたみたいなんだよ。

 20m級の人型機動兵器を一つの、それも出来立てホヤホヤの魂だけで動かそうとすりゃあ、なるほど、そりゃあ疲れるってもんだわな。


 「で、でも、できる事はできるんですよね?」

 『ああ、できはするぜ?だがその後、しばらくは俺の補助無しで少年が全部自力で"ジーク"を操縦する事になるがな。仮にその状態で魔物共に襲われたら、少年は一人で"ジーク"を操縦して戦えんのか?』

 「う゛っ…む、無理ですぅ~…。」

 『大体、少年は一人前になりてぇんだろ?こういう肝心なところで全部他人任せになんてしてたら、一人前にはなれねぇぞ?』

 「うぅ…で、でもぉ…。」

 『動かし方自体は分かるんだろ?動かすタイミングは俺が指示を出す。その通りにレバーだのペダルだのを操作すりゃあ、後は俺の方で上手い事動かす。少年、このボディ、"ジーク"は何のた』


 俺が少年を説得している最中に、いきなり激しい振動と共に天井が崩落して、さっきのトカゲのバケモンと同じ奴が三体も降ってきやがった!


 「「「ギュアアアアアッ!!」」」

 「ひぃいいいいいっ!?!?」

 『おいマジかよっ!?クソッ!こんな時にっ!』


 どうやら肝心な事が頭から抜けていたのは、俺も同じようだったようだな。

 思い返してみりゃ、少年は最初に聞き捨てならねぇ事を言っていた。


 魔物の襲撃を受けてるって言ってたか!?クソッ!自分の周りの情報収集を優先させちまったのが仇になっちまった!とにかく、このバケモン共を何とかしなけりゃどうにもならねぇ!


 ならねぇんだが…。


 「あわわわわ…さ、三体もぉお…!」

 『少年っ!やるしかねぇぞ!腹ぁ括れっ!』


 肝心の少年はかなり怯えてる。萎縮して、頭を抱えてその場に体を丸めて震えちまってる。こんなんじゃまともに操縦なんて出来ねぇ!

 この窮地を切り抜けるには、少年に発破をかけて、(つたな)くてもいいから、とにかくこのボディ、"ジーク"を動かしてもらわねぇと!


 「で、でもぉ…っ!こ、こんなの、こんなの僕には…っ!」

 『忘れたのか少年!このボディのポテンシャルは、あのトカゲのバケモンを倒すのに十分な性能があるんだ!ビビってる場合じゃねぇぞ!死にたくなかったら、少年がこのボディ、"ジーク"を操縦するしかねぇんだっ!!』

 「む、むむむ無理ですよぉ~!さサさ、サブロウさんが、た、た戦ってくださいよぉ~…っ!」

 『だぁから!それをやっちまったらすぐに動けなくなるっつってんだろうがっ!この町は今、襲撃を受けてるんだろ!?魔物とかいうヤツ等の反応は他にもあるんだぞ!?ソイツ等が更に此処に来ねぇとは限らねぇんだ!少年一人で、ソイツ等と戦えんのかよっ!?』

 「い、嫌ですぅ~っ!僕には無理ですよぉっ!」

 「さっきは言いそびれちまったがなぁ!少年は何のためにこの"ジーク"を作り上げた!?ただ作って眺めるためじゃあねぇだんろっ!?」

 「そ、それは…!」


 ジークには少年の思いが強く込められている。

 それは、強者への憧れであり、戦う事への願いだ。"ジーク"からは[自分にも"ジーク"があれば…]って少年の思いが、これでもかってぐらい伝わってくる。


 臆病な少年が、それでも戦う術を求めて5年間必死になって"ジーク"を作り続けて来た事で(つの)った思いだ。まさしく情熱と執念が込められているんだ。


 俺は、その想いに応えてやりたい。少年と俺とで"ジーク"をバリバリに動かして、少年を活躍させてやりたい。少年の努力が、想いが、決して無駄じゃなかったって事を証明してやりたい。


 だから今!ここで少年が"ジーク"を操縦する必要があるんだ!ここで動けなけれりゃ、少年はきっといつまでも怯えて動けねぇままになっちまう!


 ああっ!クソッ!そりゃ言葉も通用しそうもねぇバケモンが、大人しくこっちの準備が整うまで待っててくれるわきゃあねぇわな!一体コッチに腕ぇ振り上げながら突っ込んできやがった!


 「怖ェってんなら目ぇ瞑ってたって良い!動かし方は分かんだろ!?どのタイミングで何処を動かすかは俺が指示を出すっ!」

 「う、うぅぅぅううう…!」


 何とか腕を動かしてレバーを握ってはくれたが、まだ覚悟が決まらねぇか。

 まぁ、これまで戦いを経験した事も無さそうな少年が、いきなりバケモンと対峙して戦えって方が無茶な話だってのは分かってんだが…。


 何か、何かねえのか!?少年の思いを奮い立たせる何かはよぉっ!?


 だぁっ!間に合わねぇ!バケモンが両腕の爪で"ジーク"を引っ掻いてきやがる!

 仕方がねぇ!俺が自分で動いてバケモンを止めるしかねぇ!!


 俺の魂そのものに宿っているエネルギーを俺のボディ、"ジーク"全体に行き渡らせる。

 これでさっきみたいに"ジーク"を動かせる。外側から無理矢理動かすようにして左腕を持ち上げ、バケモンの爪を受け止める。


 「きゃぁあっ!?サ、サブロウさんっ!?」


 腕部に装着された巨大なシールドは相当頑丈なようで、多少の衝撃がありはしたが、バケモンの爪を物ともしていねぇ。が、バケモンはそのまま押し切ろうとして腕に力を込め続ける。

 "ジーク"は結構頑丈で、パワーもあるボディだ。少なくとも、目の前のバケモン共よりも大分パワーは上のようだ。いくら押し込もうとも、俺が止めている限りは、ここから押し負ける事は無さそうだな。


 何とか拮抗した状態にして時間を稼ぐ事は出来た。出来たんだが…。


 『ぐぅっ!少年!長くは持たねぇ!左腕を思いっきり上に上げるんだ!』


 クソッ、さっきも咄嗟になってやった事だが、やっぱしんどいなコレ!

 流石に全身に纏わせたエネルギーを使い切っちまったら押し負けそうだし、その前にどうにか少年に奮い立ってもらって、"ジーク"を操縦してくれねえと、俺達どっちもやられちまう!


 「ぼ、僕には…僕にはぁ…!」

 『いいか少年!戦いにおいて一番重要なのは、体でも技術でも装備でもねぇ!心だ!戦おうとする意志が無けりゃあ、どんだけ実力があっても勝てねぇんだ!それとなぁ、怖いと思う事は、別に悪い事じゃねぇ!』

 「え?」


 少年は、他の同年代の連中と比べて体が小さい事をかなり気にしていたからな。オマケに自分がビビりな事を良ぉく理解してる。

 そんな臆病な自分では、戦いに向いていない、戦う事が出来ないって思ってるんだろうな。


 だが、違うんだ!怖いって思う事は、大事な事なんだ!


 『むしろ、怖いって思う心は持っているべきなんだ!怖いと思う心を無くしちまったら、躊躇(ちゅうちょ)しなくなっちまう!取り返しのつかない事だって平気で出来るようになっちまう!いいか少年!恐怖を感じない事と、恐怖に立ち向かう事は、似ているようでまるで別物なんだ!』

 「恐怖に、立ち向かう…?」


 だから、俺は少年に言葉を送ろうと思う。俺の前世の相棒達が、揃いも揃って好きだったアニメやコミックスにも頻繁に出て来て、その度に俺や相棒達を心の底から奮い立たせてくれた、俺が一番好きな言葉を。


 『勇気だ!怖いと思う心を、勇気を出して立ち向かうんだっ!』

 「勇気なんて強い心、僕には…。」

 『少年に勇気が無いのなら、俺が出す!少年は一人じゃねぇ!今の少年には、"ジーク"と、俺がいるっ!』

 「"ジーク"と、サブロウさん…?」

 『おう!俺は信じるぜ…。"ジーク"の性能と、"ジーク"を作り上げた少年の情熱と執念をよぉ…!だから少年も、少年が作ったこの"ジーク"と、"ジーク"に宿ったこの俺の魂を…っ!』


 レバーを握る少年の手から震えが消え、力が込められるのを感じ取る。大丈夫、少年はやれるさ。

 少年も、次に俺から何を言われるのか、なんとなく察しているみたいだ。


 だったら、声に出して言ってやらないとな!目の前のバケモンを怯ませるような、デッカイ声でよぉっ!!


 『俺の勇気を信じろぉおおおっ!!』

 「う、うぁあああああっ!!」


 悲鳴にも似た叫び声と共に、少年がレバーを操作する。

 途端、俺のボディに掛かっていた負荷のようなものが一瞬で消え失せ、左腕部に関しては羽根のように軽くなった感覚を得る。


 『ぃいよっしゃぁああーーーっ!!!』

 「ギュワウゥッ!!?」


 左腕部を大きく振り払う事で、バケモンが前足ごと、大きくのけぞる。絶好の反撃チャンスだ!


 『少年!そのまま右腕を横から前に向けて振り回せっ!腰も一緒に動かしながらなぁっ!』

 「腰と一緒に、右腕を、横から前にっ!」


 少年は目を瞑っちゃいるが、ちゃんと動かし方は分かってるみてぇだな!違和感なく、思い通りにボディを動かす事が出来る!


 『グゥウウウ・・・ッ!』


 腰の動きと連動させて右腕部を思いっきり振り抜く。所謂フックパンチだ。右腕部のシールドの先端部をバケモンの側頭部に思いっきり突き入れてやる。


 『レイッットォオオーーーッ!!』

 「ギェアァッ!?………ア゛…ッ…。」


 上手い具合にバケモンの脳天にシールドの突起が突き刺さったな!殴られた衝撃で真横に吹っ飛ばされたバケモンは、最初の奴と同様、ピクリとも動かなくなった。


 先ずは一体だ!この調子で残りのバケモン共も蹴散らすぞっ!

サブロウはかつてのパイロット達の影響をかなり受けています。

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