ここから始まる成り上がり道
エピローグです。
勝鬨の声が聞こえてくる頃には、日はすっかりと昇り切って夜明けを俺達に知らせてくれた。まるで、俺達の勝利を称えてくれてる気分だぜ。
んで、着地に成功したのは良いんだが、流石に"ジーク"みえぇな超重量のマギ・アーマーが20m近い高さから落下しちまったら、その衝撃は凄まじい事になる。
何とか衝撃を殺す事はできたが、"ジーク"の脚部も耐え切れずに損壊しちまった。
つまるところ、俺達は点で動けねぇ状態になっちまったって事だ。
まぁ、コクピットハッチは開くから、少年は外に出られるんだが、真夜中の時間、ずっと置きっぱなしだったからな。
防衛戦に勝利した実感が湧いた途端、気が抜けて眠っちまった。
本当によくやったと思うぜ?お疲れさん。今はゆっくりと休みな。
少年が眠ったのは良いんだが、問題は俺だな。脚部も腕部も見事にブッ壊れちまってるから、碌に身動きが取れねぇ。今はただ喋る事が出来るだけの箱になっちまってる。
ああ、そうそう、オーバーリミッツを景気よく使っちまったせいで、ディスチャージャーもイカレちまってる。どう頑張っても移動は無理だ。
俺の魂のエネルギーもかなり無くなっちまってるからな。休めば回復すんのは経験上分かってんだが、しばらくはボディを動かしたくねぇって気分だ。
おっ?通常の魔物共を片付けてた連中がこっちに来たな。少年の安否が気になるってとこか。
「おぉーーーい!カァルモォーーーっ!無事かぁーーーっ!!」
「うわぁ…ひっでぇな、こりゃあ…。」
「ボロボロもいいとこじゃねぇか…。」
まぁ、流石に今の"ジーク"の状態を見りゃあ最悪の事態も考えるだろうなぁ…。
魔法を使える奴が探索型の魔法を使ってるのか?コクピットに先端がぼんやりと光った杖を翳して、少年の安否を確認してるな。
「反応あり…!カルモは生きてる!無事だぜ!」
「ホントか…!よ、良かったぁ~…。」
「戦いに勝ってもカルモが分じゃなかったら、デュアンさんがどんな反応するか、分かったもんじゃねぇしなぁ…。」
「サブロウさん…。俺達のために、ここまでしてくれたんだな…。アンタの事は、忘れねぇよ…。」
オイコラ、何勝手に俺まで殺してんだ。今は魂のエネルギーの回復に勤めたかったから、あんまし喋りたくねぇんだよ。喋るだけでも微量にエネルギーを使う見てぇだからな。
普段なら全く気にならねぇが、エネルギーが枯渇してる時は喋るのも億劫なんだぜ?人間にもそういう時あるだろ?
だが、今反応しねぇと死んだ扱いにされかねねぇんだよなぁ…。
しゃあねぇ。ちっとしんどいが、話しかけてやるか。
『勝手に殺すんじゃねぇよ。死にゃあしねぇって言っただろうが。』
「うぉおっ!?」
「サ、サブロウさん!?無事だったのか!?」
『おうよ。』
なんだよなんだよ。お前等みんなして俺が無事だと知った途端に腰抜かしやがって。だらしがねぇぞ?
「無事なら無事って言ってくれよぉ~…。腰が抜けちまったぜ…。」
『人間だって極度に疲れたら喋るのも億劫な時があるだろ?今の俺はそれと同じ状態なんだよ。』
「付喪神もつかれるのか…。」
『当然だな。俺にも魂ってもんがあるんだ。魂ってのは所謂エネルギー体だからな。使い続けりゃ疲れるに決まってんだろ?』
「そういうもんなのか…。」
俺の状況も把握してくれたところでついでにもう一つ、いや2つだな。コイツ等に頼みてぇことが出来ちまった。
まずは1つ目。静かにしてもらいてぇって事だ。騒がしくしすぎると少年が目ぇ覚ましちまうかもしれねぇからな。
折角寝れたってのに起こされたんじゃあたまったもんじゃねぇだろ。
『ああ、それとな。俺達が無事な事を喜んでくれるのはありがてぇんだが、少年は今ぐっすり眠ってる状態でな。できりゃあこのまま寝かせてやってもらえるか?』
「あー…そうだよな。夜中の間ずっと起きっぱなしだったから、眠くなるのはそりゃそうか。すまんかった。」
分かってくれて何よりだぜ。どの道町に戻ったら起こされるかもだが、それでも少しぐらいはゆっくりさせてやりてぇからな。
ってなわけで2つ目。俺達ゃ今碌に動けねぇ状態だからな。移動の手助けをして欲しいって事だ。
『もひとつ頼みがあるんだけどよぉ、無事なマギ・アーマーと操縦者がいたら、ここに連れて来てくれねぇか?』
「今の状態じゃ動けねぇもんな。だが、ソイツはちょっと待っててくれ。魔導鎧装は軒並み破損しちまった見てぇだから、各々修理してるんだ。」
『あー…ベヒモスの最後っ屁か。』
「ああ。あれでみんな脚部をやられちまったみたいでな?今まともに動けるヤツがいないんだよ。」
俺達と"ダイナイト"以外のマギ・アーマーはベヒモスを抑えるために行動してたからな。マギ・バンドごと思いっきり上空に打ち上げられちまったんだ。
"ダイナイト"は元から脚部の稼働に支障が出てたみたいだし、落下の衝撃で他の連中も軒並み似たような状態になっちまったらしい。
ってなわけで俺達を運べるマギ・アーマーを応急処置程度で良いから修理する必要があるって事だな。
「つか、よくカルモとサブロウさんは無事だったな?」
『ま、そこは俺と少年のコンビネーションってヤツよ。信じらんねぇかもしれねぇが、少年の操縦センスは天才的だぜ?』
「マジかよ…。」
「サブロウさんもいる事だし、将来安泰…?」
「デュアンさん、喜ぶだろうなぁ…。」
少年の才能を教えてやると皆して驚いていたが、あんま騒がしくしてると少年が起きちまうかもしれねぇ事を分かってたからか、かなり声のボリュームを落として話をしてるな。
このまましばらくこの連中と駄弁りながら待つ事になるかと思ってたんだが、俺達をカッ飛ばした時点で機体の修理を始めてたデュアンが、こっちに駆け寄ってきた。
デュアンからも"ジーク"の腕部が引きちぎれたりしてたのは見えてたからか、いても立ってもいられなかったらしい。
馬鹿デカい声で少年の名前を呼びながら"ダイナイト"で全力疾走してきた時には、全員で呆れちまった。
幸い、少年が目を覚ますような事は無かったが、それでも全員でコッテリと絞らせてもらったぜ。
デュアンの奴は少年に激甘だからな。少年の睡眠の邪魔をしたかもしれねぇって事が分かると、珍しくしょぼくれてやがった。
ま、デュアンが来てくれた事で俺達は無事に"ダイナイト"に引っ張ってもらって町まで戻る事が出来たってわけだな。
町に戻って来ると、避難してた町の人達は既に防衛戦に勝利した事を通達された後で、しかもそれが俺達の活躍だって伝えられてたんだ。
デュアンに連れて来られた俺達、ってか"ジーク"のボロボロな姿を見た時にゃあ、いくつも悲鳴が上がってたぜ。
そんだけ騒がれりゃあ、流石に少年の眼も冷めてな。心配してるから姿を見せてやれって事でコクピットを開いたんだが、そしたらあっという間に少年が外に引っこ抜かれてな。
褒め称えられるわ頭撫でられるわ抱きしめられるわ胴上げされる話で完全に英雄扱いだったぜ。
ま、実際少年の戦果は英雄のそれだとは思うがな!
お前等、少年は未だ眠たそうにしてんぞ?褒めんのも程々にして、気が済んだらゆっくり休ませてやれよ?
町はボロボロ、負傷者も多数だが、それでも俺達は全員生き延びた。
もう一度言うが、全員だ。今回の襲撃で怪我をしたヤツは確かにいたが、命を落とした奴は何と一人もいなかったんだとよ!
あんな大規模な戦闘でよく誰も死なずに済んだもんだぜ!
おかげで町はお祭りムードだ!デュアン達が遠征で仕入れて来た食料や酒なんかを無償で振るって派手に騒ぎ散らしてやがる。
食料や飲料物を全部使っちまうこたぁねぇとは思うが、随分と奮発したもんだぜ。
俺と"ジーク"はどうなったかって言うとだな。簡易的に建設されたガレージに安置されてるよ。
前世のМTもそうだったが、やっぱ自在に動かす事ができる巨大な人型の機械ってのは、高性能な重機でもあるんだよな。
簡易的とはいえ、あっという間に出来上がっちまったぜ。
んで、そんなガレージ1人、足を運んで来た男がいる。
デュアンだ。
『どうしたよ、大将。アンタも今回の防衛戦で勝利に貢献した英雄様だろ?こんなとこに足を運んでていいのか?』
「フッ、一番勝利に貢献した者が言っても説得力が無いぞ?」
言ってくれやがる。俺はマギ・アーマーに宿った付喪神なんだから飯なんざ食えねぇし酒も飲めねぇんだっての。人間のお前さんと一緒にすんじゃねぇってんだ。
『んで?俺達を労いにここで酒盛りでも始めんのか?』
「いや、酒は既に結構飲まされてるからな。自分から飲もうとは思わん。」
『んじゃあ何しに来たんだよ。』
「礼を言いに来た。」
ほーん。ああ、そういや、確かにデュアンには[礼なら全部終わってからにしろ]って言ったな。
まったく、律儀なヤツだぜ。別に今礼を言わなくても、落ち着いてからでも良いってのによぉ。
「サブロウ。君が"ジーク"に宿ってくれたおかげで、カルモは大きく成長した。あの臆病だったカルモが、魔物と戦い、厄災級の魔物を討伐するまで至った。」
『言っとくが、少年は戦闘中はずっと目を瞑ってるからな。まだまだこれからだぜ?』
「聞いている。だからこそ、だ。君がいなければ、カルモは戦う事ができなかっただろうし、それはつまり、我々の敗北を意味していた。」
言われてみりゃあ、その通りだな。例え"ジーク"が動いていたとしても、少年と"ジーク"だけだったらラプタードを前にしても戦えずにやられちまってただろうし、逃げ遅れて瓦礫に埋もれちまった人達も助からなかった。
それに、俺が"ジーク"に宿ったとしても、乗り込んだのが少年じゃなかったら、やっぱり駄目だったかもしれねぇ。
サポートは当然するが、少年みたくぶっつけ本番で理想的な操縦が出来るヤツは滅多にいねぇだろうからな。
あの3体のラプタード戦、俺は確かにもっとてこずるかと思ってたんだ。
そんでもって"ジーク"。俺が宿ったのが一般的なマギ・アーマーだったら、これも駄目だった。
あそこまでラプタードを簡単に仕留められたのは"ジーク"の超重量があったからだ。それとディスチャージャーだな。
この2つが無けりゃあ、ベヒモスは倒せなかった。
俺と"ジーク"と少年。どれか1つ抜けてても駄目だったんだ。
『もしかしたら、俺は少年を助けるために"ジーク"に宿ったのかもしれねぇな。』
「かもしれないな…。サブロウ、改めて言わせてくれ。我々を、何よりカルモを助けてくれて、本当にありがとう…!」
『おう…。』
かぁーーーっ!ほんっと、父親やってんねぇ!
あれこれ言ってるが、結局んとこデュアンは俺が少年を助けた事を感謝てるってことだ。
素直に受け取るぜ。その感謝の気持ちはよ。俺も、俺達もアンタには助けられたからな。お互い様ってヤツよ。
『なら、俺も礼を言わなきゃな。』
「君が私にか?」
『アンタがいなけりゃ、俺達はベヒモスを倒せなかった。礼を言うぜ?ありがうとよ。』
「フッ、やらせたのは君だろう?それに、私は私のできる事をやっただけにすぎんよ。」
ああ、こりゃあ親子だ。俺が少年に礼を言った時も、同じこと言って謙遜してたもんなぁ。やっぱ子は親に似るって事かね?
お?何やらデュアンを呼ぶ声が聞こえて来てんな?デュアンも呼び声に気付いた見てぇだ。まぁ、宴の主賓の1人がいなくなってたらそりゃ探すわな。
『行って来いよ。俺はしばらくここを動けねぇんだ。離したい事があるなら、少年も連れて来て、改めてみんなで話をしようぜ?』
「そうだな。では、またな、サブロウ。これからも、カルモの事を頼む。」
『言われるまでもねぇよ。』
しっかりと育てて、少年には俺の相棒になってもらうぜ!
あの防衛戦が終わってから3ヶ月の月日が経過した。
防衛戦での活躍もあって、俺達の修理にかなり力を入れてくれたみてぇでな。少年が手配してもらった上質なジェネレーターやコンデンサも装備した新生"ジーク"が遂に完成した。ようやく自由に動けるようになったって事だな!
町の復興もマギ・アーマーのおかげで順調だ。まだ襲撃の名残は残っちゃいるが、それでも町の外観はほぼ取り戻しつつある。
『少年!確認は済んだか!?忘れ物はねぇな!?』
「はい!いつでも行けますよ!」
そして俺達はこれからタンタスとは違う町へと旅立つところだ。
魔物と戦ったり物資を運搬したり人を護衛したりって仕事を生業にする、冒険者ってのに登録をしに行くんだ。
本当ならこの町でも登録できたんだが、魔物の襲撃でその設備も壊れちまったらしくてな。近くの町まで行く必要があるってわけよ。
で、"ジーク"のボディが完成した事でようやく出発できるってわけだな!
『少年、楽しみか?』
「ええ。憧れに一歩近づけましたから!」
『これからも魔物と戦う事になるぜ?』
「大丈夫ですよ。まだ、ちょっと怖いですけど、"ジーク"もサブロウさんもいますから!」
「なら、バンバン稼いでドンドン"ジーク"をパワーアップさせような!」
「はい!」
いい返事だ。さぁて、それじゃあ行くとするかね!
俺達の成り上がりは、これからだぜ!!
打ち切り最終話では無いです。ですがこれにて1章は終了です。少しずつ書き溜めて、2章の執筆が終わり次第投稿していこうと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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