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作戦会議

少しだけこの世界の事が説明されます。

 シミュレートは完了した。突破口も見えた。だが、ここでもう一押し、ソイツを実現させるためにも、少年に確認を取る。


 『少年、確か、重量を軽減する魔法が使えるっつったよな。反対に重くする魔法は使えんのか?ついでにいやあ、ソイツは"ジーク"越しにも出来そうか?』

 「え?はい。…出来そうですね…。他の方もやってる事だと思います。でもサブロウさん、僕の魔法じゃデュアンさん達ほどの効果はありませんよ?」

 『ああ、そこは気にしなくて良い。ダメ押しってヤツだからな。それより、効果の割合と効果時間を教えてもらっていいか?』

 「軽くする方が本来の重量の3%軽くして、効果時間が3セコです。それと、重くする方が10%増量の効果時間が5セコです。」


 マジか…。とんでもねぇ盲点だった。そりゃ異世界だったら時間の単位が違ってるのも当然だわな。

 だが解せねぇ。なんで時間の単位は俺の知るそれじゃあねぇのにパーセントって言葉は普通に適用されてんだ?


 もしかしなくても、昔に俺の前世と同じ世界から、こっちの世界に来た奴がいたりすんのか?そんでもって中途半端に俺の前世の世界の知識が伝わったってんなら、こっちの世界で付喪神の概念だったりコンデンサだのエンジンだのって知識があっても説明がつく。


 ってか今んなこと考えてる場合じゃねぇ!落ち着け、時間にはまだ余裕がある。少年の魔力にも余裕があるんだ。一度魔法を使用してもらって、そっから計算すればいい!俺ならそれが出来る!


 『少年!一度弾丸に軽量化の魔法を使ってくれ!』

 「え?わ、分かりました…。」


 少年は目を瞑ったままだ。状況をまだ正確に理解してねぇことに加えて、俺と"ジーク"を信用してくれてるおかげで取り乱しちゃいねぇ。


 少年が魔法を掛けて弾丸の重量を減少させる。割合としちゃあ確かに3%。正確にはもうチョイとだけ軽くなるが、誤差の範囲だな。んでもって効果時間は…3秒チョイ。微妙に1秒より長いようだが、それは俺が合わせりゃいいだけだ。誤差はしっかりと修正するとして、1セコ=1秒って考りゃいい。


 なら、それを踏まえたうえで再度趣味レート開始………コンプリート!


 これならイケるぜ!


 『少年!"弾丸"の装填だ!とびっきりのヤツをお見舞いしてやるぞ!!』

 「は、はい!」


 今まで通りジークレストに"弾丸"を装填してもらうが、ここから更に追加で負荷をかける。


 『少年、そのままマギ・バンドを更に引っ張ってくれ。』

 「こ、ココからですか!?それだとレールからはみ出てしまいますよ!?」

 『問題ねぇ!俺なら正確に発射が可能だ!』

 「それなら、どうして…。」


 今までそこまでマギバンドを伸ばさなかったのかって話だろうが、単純だ。


 『効率が悪ぃんだよ。そのうえ消耗も激しくなるからな。更に言うなら、そこまでしなくても一撃で他の魔物は倒せてた。』

 「今はここまでする必要がある、と言う事は…。」

 『それだけ厄介なのが来てるってこった。それが何なのか知りたかったら、下がってった連中と合流してからにしてくれ。今少年のメンタルに支障が出ると、出来る事も出来なくなる。』

 「うぅ…。怖いですけど…でも…僕は…。」


 ちと情報を与え過ぎちまったか?とはいえ、少年に納得してもらうにはこれぐらいの情報は出してしかるべきだろうしなぁ…。後は、少年が恐怖に勝てるかどうかだな…。


 「僕は、"ジーク"とサブロウさんを信じます!」

 『サンキューな…!少年、"弾丸"を発射させるタイミングで"弾丸"に魔法を掛ける事はできるか?』

 「はい…サブロウさんが指示を出してくれればですけど…。」

 『なら大丈夫だ。心配すんな。バッチリのタイミングで支持を出す。発射だ。発射のタイミングで"弾丸"に魔法を掛けてくれ。』


 さっき少年に魔法を使ってもらって分かったが、魔法ってのはどうも触れていなくても効果を届かせる事が出来るみてぇだ。


 つまり、"弾丸"が発射された瞬間に加重の魔法を掛けてやれば、速度はそのままに重量だけは上昇させられるって事だ。それはつまり、多少とは言え発射された"弾丸"の威力増加に繋がる。


 それでもあのデカブツの鱗に罅ぐらいは入れられるはずだ!


 重要なのは、タイミング…。最大効果を発揮できるギリギリまで惹き付けねぇと、"ジーク"の足だと離脱が間に合わなくなるかもしれねぇからな。早すぎても、遅すぎても駄目だ。


 つっても、それをミスっちまう俺じゃあねぇんだがな!


 魔力を限界までマギ・バンドに込めて、マギ・バンドの弾性を急激に高める。本来の"ジーク"の出力なら、とうてい抑えきれねぇほどの弾性だ。


 だが、"ジーク"には俺がいる。

 俺の魂のエネルギーを"ジーク"の腕部に宿して、"ジーク"の本来の性能を越えた出力を発揮させる。

 当然、俺自身も消耗するし、"ジーク"の腕部も負荷がデカくなる。人間が100%の力を普段は発揮してねぇのと同じだな。肉体が持たねぇように、"ジーク"のボディがもたねぇんだ。

 この魂エネルギーによる性能の上乗せ、名付けてオーバーリミッツは、俺達の切り札も良いとこな隠し玉だ。


 デカブツに対して、一番いい場所に正確に"弾丸"を当てるために常に照準を修正し続ける。

 この操作は俺がやる。少年には魔法の方に集中してもらいてぇからな。タイミング、合わせてくれよ?


 そうしてデカブツを可能な限り惹き付けて、遂にその時が来た。


 『今だ!!"弾丸"、発射ぁあああっ!!!』


 少年に合図を送り、"弾丸"を発射させる。その瞬間、"弾丸"に魔法が宿り、重量が僅かに上昇する。


 成功だ。多少の変化だが、この多少の変化で何が大きな変化をもたらすかもしれねぇってんなら、やらねぇわけにはいかねぇよなぁ!


 音速を余裕で越える速度で"弾丸"はデカブツの額へと直進し、そのまま眉間に吸い込まれるように衝突する。


 次の瞬間、デカブツが衝撃に耐えきれずにつんのめり、頭を地面にこすりつけたかと思えば、今まで移動して来た勢いを殺せずに全店をするように転がって背中を付けるように倒れやがった!

 おまけにヤツの額の鱗に罅が入ったのを確認できた!これ以上ねぇ結果だ!


 大成功ってのはこの事だな!時間も十分稼げた!俺達も下がらせてもらうぜ!


 とは言え、犠牲が無かったってわけでもねぇ。


 ジークレストがブッ壊れた。

 マギ・バンドに負荷をかけ過ぎたんだ。バンドは千切れるはレールは歪むわで、もう使い物にはならねぇ。

 移動中に態勢を立て直した後に、俺達に何が出来るのか、それとあのデカブツを倒す方法を考えておかねぇとな。


 先に下がってった連中は後退しながら足止め用の障害物やトラップなんかも設置してくれてたらしい。

 俺達がソレに引っかからないようにするのはチト手間取ったが、それでも無事みんなと合流する事が出来た。

 ま、俺達が合流する頃にはデュアン達に追いつかれるどころか追い抜かれそうになっちまって、けん引してもらう形になったんだがな。


 いや、ホント"ジーク"の足の遅さは何とかしておきてぇぜ。



 さて、何とかみんな無事に態勢を立て直す事が出来たわけだが、周囲の空気は葬式ムードだ。

 なにせあんなバケモンが出て来ちまったからな。碌に攻撃が通用しなかったから、どいつもこいつもみんな意気消沈しちまってる。


 「あの、サブロウさん…みなさんはどうして…。」


 やべ、少年にはまだあのデカブツの事を教えてなかったな。流石に隠しきれるような状況じゃねぇし、他の連中はあのデカブツの正体も分かってんだろうな。


 しょうがねぇ。俺もアレが何か知りてぇし、何が起きたのか少年に伝えながら、周りの連中にアレの正体を聞くとするか。


 『こっちの攻撃が碌に通用しねぇ馬鹿みてぇにデカい魔物が出て来たんだ。なぁ、ありゃあ一体何なんだ?』

 「ちょ!?知らずに戦ってたのかよ…!?」

 「いや、知らなくて逆に良かったんじゃねぇか…?知ってたら冷静な判断が出来なくなってたかもだし。」

 「カルモって魔導鎧装(マギ・アーマー)を操縦してる最中は目を瞑ってるんだよな…。」

 「アレ見てたら流石にな…。正直、サブロウさんグッジョブだぜ…。」


 俺の判断を肯定してくれてんのは良いんだが、結局のとこあのバケモンの正体はなんなんだ?俺はそれを知りてぇんだが…。


 「アレはベヒモスだ。それも、かなりの年月を生き抜いた、厄災級のな…。」

 「べ、ベヒモス!?しかも厄災級っ!?」


 デュアンが俺達にあのデカブツの正体を教えてくれはしたんだが、それがどれだけとんでもねぇ相手なのかまでは俺には分からん。


 その代わり少年が驚いてたから、聞かせてもらうか。後、厄災級って言葉がある以上、魔物の強さをランク分けしてるって事だろうからな。その辺りも時間がある時に聞かせてもらうか。


 「ベヒモスは物凄く頑丈な魔物です。サブロウさんも見たと思うんですけど、全身にとても強固な鱗を纏っていて、生半可な攻撃はまるで通用しないんです。」

 「サブロウ達のおかげで、通常サイズのものは全て撃破できたが、肝心の厄災級はまるで傷付ける事はできていない。」

 『さっきも言ってたが、その厄災級って奴は何なんだ?』

 「魔物の強さの基準だ。厄災級は上から3番目の強さになる。」


 あんな化け物よりも更に強いのが2段階もあんのかよ…。想像が出来ねぇな…。


 ただでさえまるでこっちの攻撃が通用しなかったからな。ここにいる連中が意気消沈するのも分からなくもねぇ。

 討伐を諦めちゃいねぇのは、デュアンを始めとした最前線で暴れてた実力者ぐれぇか。


 町を放棄して逃げ出そうって意見もちらほらと出始めてる。

 それも手段の一つだろうが、正直悪手だな。賛成はできねぇ。


 町の人口を考えると、魔物が跋扈する場所を此処にいる連中で護衛をしながら進む事になるわけだが、子供や老人も大勢いる以上、移動速度はかなり遅くなる。

 その間にあのベヒモスとか言うバケモンが追い付かねぇとは言い切れねぇ。その場合、間違いなく全滅だ。


 ここで迎撃して撃退、もしくは討伐するしかねぇ。

 だがどうすればいい?そんな事はここにいる連中全員が分かってる事だ。それが出来ねぇから町を放棄しようって意見が出てるんだからな。


 シミュレートしろ…。ヤツに確かにダメージを与える事が出来たんだ。

 俺と"ジーク"と少年だけじゃどうやっても勝てる相手じゃねぇ。だが、今ここには大勢の仲間がいる。


 仕えるモンは全部使う…。

 防衛戦で俺が確認した、あらゆる記録を生かすんだ………!


 「さ、サブロウさん…?」

 『ちょい待ちな。今シミュレート中だ…。』

 「は、はぁ…。」


 防衛戦での出来事…。何が出来る?何をしてた?何が起きてた?


 ………。

 ……。

 …。


 ………シミュレート、コンプリート。答えが出たぜ。


 だが、それをやれば"ジーク"は…。


 俺だけで切れられる事じゃねぇし、他の連中が賛成してくれるかもわからねぇ。だが、あのベヒモスを倒すのなら、コレしかねぇ!


 『なぁ、ちょっといいか?』

 「サブロウ?何か、良い作戦が思いついたのか?」

 『まぁな。俺が計算した結果、今の俺達の戦力であのベヒモスとか言うバケモンを倒すには、コレしかねぇって方法がな。』

 「ベヒモスを倒すだとっ!?」

 「そ、そんな事できるんですか!?」


 まぁ、驚くのも無理はねぇよな。みんなが必死に攻撃して、その悉くが通用しなかったんだからよぉ。


 だが、一つだけ、一つだけ明確にダメージを与えた攻撃がある。

 自慢になっちまうが、俺達が放った限界を超えたジークレストの一撃だ。


 『大将、確認を取りてぇんだが、あのベヒモスに再生能力とかはあるか?』

 「いや…ベヒモスの生命力は非常に高いが、再生能力を有しているという話は聞いた事が無い。」

 『そっちの兄ちゃん、アンタのマギ・アーマーのランス、俺達に課してもらう事はできるか?』

 「え?アレを使うのか?まぁ、俺の機体は腕部の消耗が激しいから、どの道仕えないから構わないが…。」

 「サブロウさん、何をするつもりなんですか?」


 俺が何をするつもりなのか気になって少年が訊ねてくる。

 それを説明する前に、少年には最終確認をする必要があるな。


 『少年。俺が今からやろうとする事、コレが決まればあのベヒモスを倒す事が出来る。間違いねぇ。』

 「はい…。」

 『だが、失敗したら確実に死ぬ。当然他の連中も全滅するって考えていいだろう。んでもって例え成功しても、"ジーク"は間違いなくブッ壊れる。具体的に言えば、ランスを抱えた腕部とディスチャージャーがな。』

 「えぇっ!?」


 少年が5年を掛けて作り上げ、ようやく動かせた"ジーク"を壊しちまう。

 勿論、完全にブッ壊れるわけじゃあねぇ。だが、丹精込めて作った物が壊れるってのは、しかもようやく完成した物が壊れるってのは、精神的にかなりキツイ筈だ。


 少年は、俺の作戦を受け入れてくれるかねぇ…。


 「………"ジーク"が壊れたらサブロウさんは、どうなりますか?」

 『俺の事は心配いらねぇよ。ブッ壊れるったって完全に壊れるわけじゃあねぇからな。俺も死ぬこたぁねぇよ。だが、修理には時間がかかるぜ?』

 「………。」


 流石に即答はできねぇよなぁ…。さっきの防衛戦でも、自惚れじゃなけりゃかなりの活躍が出来てたし、俺達はこれからだって時に"ジーク"が壊れちまうなんてよぉ。受け入れたくはねぇよなぁ…。


 「サブロウ、他に"ジーク"が破損しないようにする方法は無いのか?」

 『残念だが、無ぇ。これは俺と"ジーク"と少年じゃなけりゃあできねぇ事だ。他の誰がやっても失敗する。』

 「実際にやってもいないのに分かるのか?」

 『そういうのを計算すんのは得意なんだよ。』


 デュアンの奴も何とか別の方法が無いか探してるみてぇだな。だが、他の連中が考える事ってのは、俺だって考えたしシミュレートしてるんだ。

 考えつく限りの戦法を試した結果、これしか方法が無ぇんだ。


 俺達の会話を聞いてた少年が、覚悟を決めたらしい。町の人達を救助に向かうと決めた時と同じような表情で力強く答えてくれた。


 「やります。サブロウさん、やりましょう!」

 「カルモッ!?」

 『良いんだな?失敗しようが成功しようが"ジーク"はブッ壊れるぞ?』

 「それしか方法が無いのなら、やりましょう!サブロウさんはいなくならないし、"ジーク"だって直せるんです!」


 まったく、普段は臆病なくせに、随分と覚悟を決めてくれるじゃねぇかよ。それだけ、俺や"ジーク"の事を信じてるって事かねぇ。


 だったら、その想いに答えなきゃなぁ!


 『ありがとよ、少年。よぉしみんな聞いてくれ!今から作戦を説明する!』


 チャンスは一度きりだ。何としても成功させて、全員で生き延びるぞ!

これまでの戦闘で出た要素で使えそうなものをすべて動員させます。

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