タンタス防衛戦!
生身の人達の強さが大体わかります。
時間は推定深夜。俺のカメラアイによる視覚から得られた情報と周囲の状況を照らし合わせた結果、俺の感覚で1日を24時間として考えたら深夜0時ちょうどって所だな。
俺達が地上に出た時はまだ空に恒星と判断できる強烈な光と熱を発生させてる天体が観測できたからな。チャチャッとデジタル時計を作製しといた。つっても俺だけしか確認できねぇようにしてあるが。
この世界の物理法則が俺の前世の物理法則が同じと仮定して、光の速度と天体の大きさ、天体の移動速度、その他もろもろを計算して時間を計測した結果だ。
この星の正確な大きさや質量何て分からねぇからな。推定な部分もかなりある。
マギ・アーマーなんてもんを作れるなら、時計を作ることぐらい、この世界の連中でもワケねぇだろうからな。いずれは手に入れておきてぇもんだぜ。
魔物ってのは俺が思ってた以上に頭の良い生き物らしい。連中、人間が寝静まった時を見計らって一斉に町まで押し寄せて来やがった。
まぁ、人間も馬鹿じゃあねぇ。襲撃が来る事が分かってて全員で呑気に寝るワケがねぇんだわ。
魔物の襲撃を知らせる大音量の鐘の音が鳴り響く。
"ジーク"のコクピットの中で支給された毛布にくるまって少年は熟睡してたわけなんだが、"ジーク"を起動させてたからな。外の音もバッチリコクピットの内部に伝えられる。
「んうぇ?」
『少年、始まるぜ?しっかりと目を覚ましな!』
「っ!?し、襲撃!?」
慌てて自分をくるんでた毛布をはぐり、シートベルトを装着してレバーを掴む。目は…しっかり瞑ってやがんな。やっぱまだまだ怖いか。ま、当然だな。時期に改善してくだろ。
『おうよ!気合と覚悟は十分か!?俺達がやる事は覚えてるな!?』
「はいっ!サブロウさん、指示をお願いします!」
『任せとけ!』
ってなわけで、目的に沿った指示を少年に出していく。
俺達がやるべき事は前衛から引いたところでジークレストによる遠距離射撃だ。ついでに前衛を抜けて来た魔物から後衛の人間達を守る事だ。
前衛の連中の動き次第だが、場合によっちゃあ忙しくなるぜぇ?
俺達は前衛の連中から200mくらい離れた場所にいる。そこかしこに岩山だの大岩だのが乱立してくれてるおかげで、ジークレストの弾には困る事がねぇ。
この辺りの岩の性質なら"ジーク"でちょいと殴りゃあ、簡単に砕けるからな。手ごろなサイズに砕きゃ、それだけで石ころ弾の出来上がりよ。
おーおー、来てる来てる。魔物の大群がよぉ。斥候のヤツ等はよくこんなのを少人数で見に行けたな。
魔物の数は俺の『魂索』によると、こいつぁ少なく見積もっても全部で3000体はいるな。
対して俺達の数は前衛後衛合わせて精々400って所か。
相当な戦力差だが、防衛戦に参加する連中は誰一人として不安気な表情はしてなかったし、腰が引いてるヤツ等もいなかった。
それが恐怖に負けねぇぐらいの勇気と鋼の心を持ってるからなのか、それとも単純に負ける気がしねぇからなのか、どちらにせよ、すぐに分かる。お手並み拝見とさせてもらうぜ?
さって、俺達はひとまずはここから射撃で地道にコツコツ魔物の数を減らしていくぜ。これだけ多いと石ころを用意するのも大変になるだろうからな。
『それじゃ、手はず通りに行くぜ?少年、準備は良いな!?』
「はい!いつでもどうぞ!」
うっし!そんじゃ、ジークレストと俺の精密射撃のお披露目と行きますか!
ウハハハハ!順調!快調!絶・好・調!!
面白れぇぐらいにジークレストから放たれた石ころ弾が魔物が倒していくぜ!
俺が計算した通り、どんな魔物も一撃必殺!くぅ~~~たぁまんねぇなぁ!
『少年!ちょい照準左だ。ストップ!オッケィ、そこで良い。…発射ぁっ!!…ッシャア!!少年!次弾装填だ!』
「はい!…サブロウさん、今ってどんな状況なんですか…?」
ここまでの間、少年はずっと目を閉じたままだ。怖けりゃ目を閉じてて良い、ってオレが言ったからな。少年はその通りにしてるわけだ。
つまり、少年は今戦場がどうなってるかまるで分らねぇ、って事だな。
『気になるなら目を開いて見てみるか?この近くに魔物はいねぇから、俺達が襲われる心配はねぇし、前衛のみんなも無事だぜ?』
「そ、そうなんですね。そ、それじゃあ、ちょっとだけ…。」
次弾装填の操作をしながら、おっかなびっくりにちらっとだけ少年が目を開けてみれば、現状前衛の状況がどうなってるのかは一目瞭然だ。
「うわぁ…!みんな、凄いなぁ…。」
前線で戦ってくれてる連中を見て、少年は素直に感嘆の声をあげている。
その気持ちは俺にもよぉ~っく分かる。
何せアイツ等、どいつもこいつも生身の体で、自分達よりも体がデカい魔物を圧倒してるからな。
これも魔力のおかげなのか?魔力ってのは、使い方次第で身体能力を上昇させるらしいからなぁ。アイツ等全員、魔力の扱いが上手ぇのかもしれねぇな。
自分より体のデケェ魔物の一撃を盾でガッツリ受け止めるヤツもいれば、弾いたりいなしたりして魔物のバランスを崩すヤツもいる。
そうして動きが止まったところに他の連中が一気に攻めて、あっという間に魔物を倒しちまったな。大した連携だぜ。
一人でとんでもねぇ活躍をする奴もいる。確か、グレートソードだったか?自分の背丈以上の刀身を持つ馬鹿みてぇにデケェ剣を、細枝みたく振り回してバッタバッタと魔物を倒すヤツがいれば、槍の一突きで50m先まで直線状の魔物共に風穴を開ける奴もいるな。
おお!?なんだぁ!?アイツはぁ!?空中で軌道を変えてやがる!?よぉっく観察すりゃあ、空中に魔力で足場を作ってやがる!そういう使い方も出来るのか!?スゲェな、魔力って。
うおぉっ!?こっちもスゲェ!?弓使いなのに前線に出て素早く移動しながら、近接武器の間合いで弓を撃ってるヤツがいる!
速ぇーーー!!あの動きを今の俺が捉えるのは、かなり厳しいな!俺が補足出来ても、"ジーク"の動きが間に合わねぇ!
後衛の連中も負けちゃいねぇ!どいつもこいつも強力な魔法が使えるみてぇだな!馬鹿デカイ爆発する火の玉を飛ばしたり、同じぐらいデカい氷柱をぶち当てたりしてやがる!
使い手から魔物に向かって、一直線にすっ飛んでく電撃を放つ魔法もあるな!正直、ビームみたいで親しみが持てるぜ!
おおっ!魔物共の地面の質が変わって、足が取られてんぞ!?アレも魔法か!?やろうと思えば何でもできんだなぁ、魔法ってのはよぉ!大したもんだぜ!
いやホント、マギ・アーマーなんてもんがあるから、この世界の戦闘はマギ・アーマーありきのもんかと思ってたが、全然違ったな!
生身でもマギ・アーマー以上の活躍をしてる奴もいるんだ。これが魔力のおかげってんなら、とんでもねぇ万能エネルギーだぜ!
だが、マギ・アーマーの連中も負けちゃあいねぇな!大活躍してる生身のヤツ等と同じぐらい、獅子奮迅の戦いっぷりを見せてやがる。
いや、全高6mはあるマギ・アーマーと同じぐらいの活躍ができる、生身の人間の方がおかしいんだがな…。
こうして見ると、マギ・アーマーにも用途が色々と別れてるみてぇだな。
攻撃、防御、素早さのどれかに特化した気体があればバランスよくそろえてる機体もある。それに、遠距離用の機体もあるな。
馬鹿デカイ弓を装備してる機体や魔法を撃ってる機体まである。魔法を撃ってんのは、多分、魔力コンデンサに蓄積された大量の魔力を使ってるんだろうな。規模がマギ・アーマー基準になってるから、その分効果範囲がヤベェ事になってら。
「あっ!デュアンさんだ!カッコいいなぁ…。」
デュアンが操縦してるマギ・アーマーはバランス型みてぇだな。だが、性能はやたら高ぇみてぇだ。
武器はマギ・アーマーに合わせたグレートソードか。よくあんなもん振り回せるな。機体の出力どうなってんだ?
おぉ、あっちにゃデュアンのグレートソードに引けを取らねぇぐらい馬鹿デケェランスで、魔物の集団に突っ込んでる奴がいる!
あのランス、なかなか良いなぁ!"ジーク"の重量でディスチャージャー使ってカッ飛びゃあ、とんでもねえ威力になるだろうぜ。
うおぉ!?デュアンのヤツ、明らかに自分のマギ・アーマーよりも重量がある魔物をグレートソードの腹で50m先まで吹っ飛ばしやがった!?しかも20mは上昇したぞ!?何がどうなってんだ!?
『少年!今デュアンの奴がクッソ重い魔物を剣の腹で吹っ飛ばしたぞ!ありゃあ一体どうなってやがんだ!?ああ、それと、照準を右にずらしてくれ・・・良しストップ!』
「えっと、多分、魔法で自分の魔導鎧装の重量を上げたんだと思います。」
会話をしながらも少年は問題無く"ジーク"を操作してくれてるな。魔物が周囲にいないって分かったからか、ちゃんと目を開けて操作してら。
『マジかよ。それじゃあひょっとして、反対にマギ・アーマーの重量を軽くする事も出来るのか!?…発射ぁ!!』
「っ!はい。でも、重くする魔法よりも効率はかなり悪いです。僕も一応使えなくはないですけど、"ジーク"を軽くして、機敏に動けるようにするのは無理ですよ…?」
『…ッシ!命中!説明サンキュ!参考になったぜ!』
「ど、どうも…。」
なるほどなぁ~~~、いや、機敏に動けるのは魅力的ではあるが、"ジーク"の重量は強みでもあるからな。軽くする必要はそんなにねぇ。
重量の増減が自由自在にできるってんなら、動く時は軽く、攻撃の瞬間に重くして破壊力をあげることも出来るだろうな。
だが、多分だが自由自在にはできねぇんだろうなぁ…。それが出来りゃあみんなやってるだろうし。
っとぉ!おいでなすったぁ!石ころ弾じゃあ一撃で倒せねぇ魔物だ!
『少年!"弾丸"を装填だ!んでもって少し照準右だ…良し、ソコ!』
魔物に攻撃するってなったら少年はすぐに目を閉じちまいやがった。ハッキリしてんのは良いんだが、何時かは目を閉じないようにしてもらいてぇよなぁ…。
少年が休む前に魔法を使って生成してもらった、ジークレスト専用の2種類の特殊断層。
その1、"弾丸"。
外皮が固すぎて石ころ弾じゃ貫通できねぇ魔物用に用意した弾だ。
まぁ、ぶっちゃけジークレストの大きさに合わせた徹甲弾だな。
ちなみに材質は石だ。出来る事なら金属製にしたかったんだが、受け取れる物資の関係上、断念する事になった。
それに、今の少年は金属の加工を魔法で出来るっつっても、精密な加工はできねぇし、時間も掛かるらしいからな。
魔物に対して"弾丸"を使用すんのはこれが初めてだが、俺が『魂索』で対象の外皮の硬度や生命エネルギーに魔力を計測した限り、余裕を持って一撃で倒せる相手だ。
今観測できる魔物の中にあの魔物以上に頑丈そうな奴はいねぇ。つまり、あの魔物をジークレストで一撃で倒せりゃ、少なくとも"弾丸"ならどんな魔物が来ても一撃必殺ってわけよ!
マギ・バンドに魔力を込め、"ジーク"のマニピュレータで弾性を抑え、照準を魔物の動きに合わせて微調整して…照準が合えば―――
『発射ぁっ!!』
少年がマニピュレータを話す操作をする事で抑えられていたマギ・バンドが収縮を始め、勢いよく"弾丸"を目標の元まで射出する。
その弾速、何と音速を越えた。
"弾丸"が魔物の心臓部に吸い込まれるように着弾すると、次の瞬間には風穴を開けて、その場でブッ倒れちまった。
しかも"弾丸"の勢いはまだ止まってねぇ。車線上の他の魔物にも風穴を開けて、最終的に1㎞先まで威力が減衰しなかった。ちなみに、途中にいた同種の魔物も貫通してくれてるぜ。
つまり、"弾丸"を使用すれば現状、どんな魔物も一撃必殺が確定したって事だ!球数に限りがあるから、あんまし乱発はしねぇようにする必要があるけどな。
俺は予測通りのあまりの威力に、少年もやたら驚いてやがるな。
「す、凄い…!あれだけの威力が出るだなんて…。」
『まぁ、他の奴が使ったところで、正確に弱点に命中させる事はできねぇだろうけどな。』
「そうなんですか?」
『そうなんだぜ?自慢させてもらうが、俺は弾道計算や相手の行動予測をすんのが得意中の得意なんよ。だから射出された弾の弾速と周囲の環境、それから相手の動きを計算して弱点に命中するように照準を合わせてる。実を言うと、弾の発射前にも照準の微調整をしてたんだぜ?』
そうでもしなけりゃ、百発百中で急所に弾をブチ当てるなんざ、まず不可能だろうからな。
つっても、ある程度射撃の腕がありゃ、大まかな場所になら当てられるだろ。それで一撃で倒せるかどうかは別としてな。
んな事よりも、俺はマギ・バンドの性能の方に驚かされたぜ。
俺が発射の際に込めてる魔力量は決して大した量じゃあねぇ。だが、次弾を装填して、照準を合わせるころには、消費した魔力は新たに蓄積し終わってんだよ。
つまり、余計な消耗さえしなけりゃ、弾さえあれば無限に射撃が出来るって事だ。これだけの威力が、だぜ?正直良く融通してくれたなって思うぜ。
まぁ、使い道が思いつかなけりゃあ価値も下がっちまうって事か。
見たところ、マギ・バンドは本来もっと少量の魔力を込めて軽い弾性を持たせる事で、いろんなものを束ねる、前世で言うところの輪ゴムみてぇな使い方しかしてねぇみてぇだからなぁ。
だが、そんな輪ゴムも俺が使やぁこんなもんよ!この調子でガンガン魔物を倒してってやるぜ!
最初の内は全体的に防衛戦も順調だったんだが、流石にいつまでもこの調子が続くわけも無かったな。
とにかく、数が多い。
あれから3時間は経過してるが、魔物の数はまだまだ半分近く残ってやがるんだ。最前線で派手に暴れていた連中も、流石に疲れが見え始めて来たな。
そんでもって、ここまでの間に何体か前衛を抜けられてきてもいる。
『少年!"散弾"を装填!同時に右向いて真っ直ぐ移動開始!』
「はい…!ふぅ…ふぅ…!」
何時間も戦闘を続けてるせいで、少年にも疲れが出始めてるな。ただでさえ、少年はあんま体を動かしてねぇみてぇだし、体力もそこまでねぇのかもしれねぇな。
この戦いを乗り切ったら、定期的に少年には運動をさせて、体を鍛えてもらわねぇとな。パイロットってのは体が資本!体力が無けりゃあこなせねぇもんなんだぜ!
『良っし、少年、ココでストップだ。左を向いて真正面にジークレストを向けるんだ!』
「はいっ!」
『ん?ちょい下を向いてる。もうちょい上だ…ヨシ!んじゃ…発射ぁっ!!』
移動が終了したらすぐに魔物の方へと向き直し、照準を合わせて移動する前に装填してた、もう一つの専用弾、"散弾"を発射する。
ジークレストの専用弾その2"散弾"
"弾丸"と同じくそのまんまな名前だが、効果は抜群だ。百個の小さな玉、っつっても、一つ一つの直径5センチぐらいはあるが。
ソイツが一斉に広範囲に射出される。魔法ってのはホントに便利でな?発射するまでバラけずに固めておくことが出来たんだよ!ホント、魔法様様だぜ。ある意味じゃ、前世より凄ぇ技術じゃねぇか?
とにかく、この"散弾"は、1体や2体の魔物が抜けて来るならともかく、5体も6体も纏めて来られちまったら、流石に狙撃が間に合わねぇ。って事でその対策で作った弾だ。
"散弾"がジークレストから発射されると、ちょっと歪な100個の玉が広範囲に盛大に散らばり、コッチに向かって突っ込んで来た魔物共の体をブチ抜いて行く。
『良ぉし、今回も問題無く倒せたぜ?』
「はぁ…はぁ…サ、サブロウさん、この防衛戦、いつまで続くんでしょうか…?」
『残念だが、まだまだ続く。確認できる魔物の数は、ようやく半分になったってとこだからな。』
「ま、まだ、半分…。」
流石にこれ以上は少年にはキツイか?体力的に参ってるところに、まだ敵がわんさかいるともなりゃあ、精神的にも参るってもんだからな。
ちっとで良いから、少年を休ませてやりてぇんだが…。
っと、後衛を担当してる連中がコッチに向かって来てるな。なんか問題でも出たってのか?
防衛戦はまだ続きます。