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嵐の前の静けさ

何事も準備は大事です。

 デュアンに案内された場所には、人間からすりゃあやたらデケェ、車輪の付いたコンテナが5台も並んでいやがった。

 その大きさたるや、前世で言うところのトレーラーのコンテナぐらいはある。


 『ほへぇ~~~、スッゲェな!このコンテナの中には、どんだけの物資が積み込まれてんだよ・・・。』

 「食料、水ならばタンタスの町民1ヶ月分、回復用の薬品は合計1,000瓶、武器、防具は総数500、そして魔導鎧装用(マギ・アーマー)のパーツは魔導鎧装が丸々10機作れるだけの部品が積み込まれている!流石に好きなだけ、とは言えないが、事情を説明し、ある程度2人に都合する事は既に伝えている。欲しい物があれば、遠慮なく言ってくれ!」

 「デュアンさん、本当にありがとうございます!サブロウさん、僕、アッチの方見てきますね!」

 『おう!この辺りのは俺が見とくから、好きなとこ見て来な!』


 "ジーク"から降りて、元気よく離れた場所のコンテナの方に向かって少年が走ってく。

 何だろうなぁ、ああいう後姿を見るとこう、ほっこりしてくるっつーか、なんかこう、あったけぇ気持ちになるんだよなぁ…。


 デュアンも同じみてぇだな。少年の背中をさっき怒鳴り散らしてたやつとは別人かってぐらい優しい顔で見つめてやがる。コレが父性って奴なのかねぇ…。


 っと、感傷に浸ってる場合じゃあねぇな。この辺りのパーツで使えそうなモンを探さねぇと…。


 いやぁ、それにしてもマジでスゲェな…。

 こんだけの物資を積み込んだコンテナを、車輪がついてるとは言え一体どうやって…ってぅおい!?なんじゃいありゃあ!?


 俺の知識にある象ぐらいデケェ、見た事もねぇ動物が、コンテナの近くで伏せの状態になって寛いでやがる!?


 ま、まさか、コンテナはコイツ等に引かせてたってのか!?


 『た、大将、あのコンテナの近くにいる、バカみてぇにデケェのは…動物、なんだよな?アレにコンテナを引かせたのか?』

 「ん?ああ、サブロウはエレフノスを見るのは初めてか?非常に巨大で力のある動物だ。この国以外ではほとんど生息していない動物でもあるな。トルンガスでは、荷物の運搬はもっぱらこのエレフノスに行ってもらっている。」


 今はのほほんと寛いだ顔をしてるが、あの外見通りのパワーがあるってんなら、アイツ等を怒らせたら、人間なんて簡単に蹴散らされちまうんじゃねぇか?

 この世界の人間は、誰も彼もがマギ・アーマーに乗ってるってわけじゃあねぇみてぇだしよぉ…。


 『踏みつぶされちまったら、人間じゃあひとたまりもねぇだろうな…。』

 「ハハハ!トルンガスでそんなヘマをする人間は1人もいないさ!それに、エレフノスは皆温厚な生き物だ。古くから我々人間と共存して来ているのさ。良きパートナーというやつだよ。」


 あんなのと昔っからつるんでたのかよ…。お互いに、子供の頃から顔見知りって事なんだな…。


 『へぇー…種族を越えた信頼ってヤツか…?なんか、良いよな、そういうの…。』

 「ああ、私もそう思う。この国の自慢であり、誇りの一つだよ。」


 かぁあああ~~~!カッケェこと言ってくれんねぇ~!

 少年が慕うわけだわコリャ。俺の相棒にも、こんな感じの奴がいた事があったからなぁ~…。通りで馬が合うわけだぜ。


 信念持ってて親馬鹿で、大事なモンは意地でも守る。

 アイツもそんな奴だった…。怪我が原因で退役しちまってから、その後の事はまるで知らんが、家族ともども無事だと良いんだがねぇ…。


 ま、俺が今考える事じゃあねぇな!今はじっくりと物資を確認させてもらって、防衛戦に役立ちそうなモンを見繕わせてもらうとするぜ!




 なるほどなるほど、なぁ~るほどぉ。なかなか良いぃ~品揃えじゃあねぇのよ!これだけありゃあ結構なモンが作れるぜ?

 だが、俺だけの判断で何でもかんでもやるわけにゃあいかねぇ。物事ってのは、ちゃんと少年と相談したうえで決めねぇとな!

 それに、デュアンも言ってたが、好きなだけってわけにはいかねぇからな!受け取る物資は厳選しねぇと!


 お!ちょうどいいタイミングだ!少年が戻ってきた!やったら良い表情をしてるし、欲しいモンが見つかったのかね?


 『よう少年、そっちはどうだ?なんか良いモンあったかよ?』

 「ハイ!高品質の魔力ジェネレーターと魔力コンデンサを1つずつ融通してもらえました!」


 マジかよ!?その2つが今の"ジーク"に搭載されてるものより性能がグンと良くなるってこたぁ、"ジーク"に搭載されたディスチャージャーも断然効率よく使用できるようになるし、"ジーク"の出力自体もグンと上がる筈だ!"

 要するに、"ジーク"が大幅にパワーアップするって事よ!


 ジーク"は今の状態でも結構なパワーがあるからな。パワーアップしたらどれだけ強くなるか、チョットだけワクワクして来たぜ!


 こりゃあ思ったよりも防衛戦で苦戦する事はねぇかもしれねぇな!


 『やったじゃねぇか!それで少年、パーツの交換はすぐに出来そうか?』

 「あのぉ、そ、その事なんですけどぉ…。」


 おん?急に表情が曇ったっつーか、気まずい表情をしだしたっつーか…。

 こりゃあ、何かやたらデカい落とし穴があるな?問い詰めるべきはしっかりと問い詰めて置かねぇとなぁ。そこんトコ、甘やかすわけにはいかんのよ。



 やってくれたぜ、少年よぉ…。


 物はある。ありはするが、ソイツを取り付けられる設備が無いと来た。つまり、少年が大喜びで融通してもらった高品質なパーツは、おそらく防衛戦じゃ使う事が出来ねぇって事だな。

 手作業で交換しようとしたら、途中で襲撃が来るかもしれねぇんだ。そんなリスク、負えねぇよなぁ…。


 しかも少年はもう受け取りの手続きをしちまったうえ、手続きの取り消しは出来ねぇそうなんだ。

 おまけにそんだけの物を提供するとなると、もう大したもんは融通できないんだとよ。


 『少年…。』

 「ごめんなさい!ごめんなさい!"ジーク"の性能を一気に引き上げられると思ったら、いても立ってもいられなくなっちゃって…!」


 肝心なところ、パーツの交換の部分が頭から抜けてたって事だな。こんな事なら俺も少年について行きゃあ良かったぜ。


 っておいデュアン、何を安心した顔をしてんだよ。


 「安心もするさ。これでカルモが最前線に出る事は無くなるだろうからな。」

 『あん?』

 「カルモ、その魔力ジェネレーターと魔力コンデンサ、妙に強く勧められたんじゃないか?」

 「えっ?は、はい。最新型じゃないけど、一般流通してるものよりも性能はいいから、凄くお得だって言われて…。」


 おおぅ…。言ってる事は間違ってねぇんだろうが、どういうわけか悪徳セールスマンの口上を聞かされてる気分になってきたぜ…。

 どう考えてもとんでもなく高価なパーツっぽいからなぁ…。それがタダで手に入るってんなら、飛びついちまうわなぁ…。


 デュアンはパーツの交換が出来ない事を知ってたうえで、少年にジェネレーターとコンデンサを勧めたって思ってるわけだな?


 「そうだ。それならば"ジーク"が無理をして前線に出て来る事も無いだろうからな。残りの融通できるパーツを使ったとしても、それは変わらん。」

 『つまり、俺達を危険な目に遭わせないため?』

 「そういう事だ。」


 かぁあああ~~~っ!こんなところでヘンな老婆心出してんじゃねぇよ!今は少しでも戦力が欲しい時なんだろ!?

 俺達は戦いに、この町を守るためにココに来たんだぜ!?しかも、少年は魔物と戦うって事にまだ慣れてねぇにも関わらず、精一杯勇気を出して、だ!


 そんな俺達に[危ないから下がってろ]なんて態度取られちまったら、どんだけショックを受けると思ってんだよ!?


 ああ、ホレ見ろ、少年が表情曇らせちまってんじゃねぇか。少年はみんなに頼られてメチャクチャ嬉しかったんだぜ?


 「デュアンさん、僕達では、役に立てないんですか…?僕達では、戦力にはなれないんですか…?」

 「う゛っ!?…す、すまん…!」


 あ~…、こりゃあ効果抜群だな。

 溺愛してる息子同然の少年からあんな言葉を投げつけられたら、まぁ、罪悪感が募るわな。少年に顔を見せねぇようにしてるけど、俺にはハッキリと分かる。


 デュアンの奴、今にも泣きそうな顔してら。

 しょうがねぇなぁ、少年を守る同志の(よしみ)だ。ちっとだけ助けてやるか。


 『少年、デュアンを責めても意味がねぇぞ。それにな、元々俺としては前線に、前衛に出るつもりは無かったからな。』

 「サブロウ…。」

 「どういう事ですか?」


 元より少年には、防衛戦での行動方針を受け取る物資を決める前に伝えておくつもりだったからな。ここで教えておくとすっか。伝える前に少年は受け取る物資を決めちまったが。


 『"ジーク"の性能を考えると、例えジェネレーターやコンデンサを換えても他のマギ・アーマーの動きには付いて行けねぇ。だから俺達が前衛として行動しても、他の連中の邪魔になっちまう。』

 「でも、ディスチャージャーを使えば…!」


 確かにディスチャージャーのパワーはスゲェ。よくぞあれだけのパワーを持った推進装置を作ったと手放しで褒め称えてぇ。

 だが、アレには少年が自分でも言ってた欠点がある。


 『アレは魔力の消費がデケェから乱発はできねぇだろ?防衛戦ってのは長期戦って相場が決まってんだ。"ジーク"が出来る限り長い時間を戦うってんなら、遠距離から前衛の援護をするのがベストだと俺は判断した。それに、"ジーク"の防御力はこのシールドと重量も相まって、他のマギ・アーマーよりも頭一つ飛び抜けてるだろうからな。後衛の護衛にうってつけなんよ。』

 「僕達に出来る事が、何も無いわけではないんですね?」


 不安気に聞いて来るって事は、そうか。少年は、何もする事が無い事を恐れてたんだな。

 へっ!そんな不安、俺が一気に吹っ飛ばしてやるぜ!


 『安心しな!後衛にいようとやるべき事はたっぷりあるだろうからな!むしろ前衛で活動するよりも忙しいかもしれねぇぞ?覚悟は良いかぁ!?』

 「ハイ!」

 「おお…。あのカルモが…。臆病だったカルモが…。」


 はは、そっか、デュアンはこんな表情をする少年を見た事が無かったのか。キリッとした表情の少年の顔見て感動してら。

 まぁ、実際、少年はビビりだし、なんなら今でもそれは変わっちゃいねぇ。だが、そんな少年にだって守りてぇ奴はいるんだ。


 その大事な人を守りたいって想いが、少年に勇気を引き出した。今の少年は1人じゃねぇからな。一緒になって戦ってくれるヤツ等がいる。

 それが言わずと知れた、俺と"ジーク"ってわけだ。


 んじゃ、そんな少年の覚悟と勇気を引き立てるために、俺も今俺が出来る事をやらせてもらおうかね!


 防衛戦で最も効率の良い武器を、受け取れる物資を上手く使って作るんだ!



 で、俺は今少年と共に受け取った物資を加工、組み立てて一つの武器を作ってるところだ。


 特定の条件でやたら弾性が強くなるバンドがあったから、ソイツを利用した全長2mの石弓を作った。


 構造は単純明快。石弓とは言ったがソイツは見た目だけで、原理は実質スリングショット、つまりはパチンコだからな。

 頑丈なレールに投射物を置いて、ソイツをバンドの弾性を利用して目標まで吹っ飛ばす。条件次第じゃ、その辺に落ちてる石っころですら、下手なマギ・アーマーだったら一撃で破壊できる威力になった。まぁ、石ころっつっても、"ジーク"基準での石ころだから、人間からすりゃあ、馬鹿デカイ岩石に見えちまうがな。


 バンドの弾性が強くなるのは、バンドに魔力が込められた時だ。魔力がまったく込められてねぇ時はまるでチューインガムみてぇに何の抵抗も無く10倍の長さまで伸びる事が分かった。


 んでもってこのバンドの魔力を込めた時の弾性だが、魔力を込める量によって変動する。込める量が多けりゃ多いほど強力な弾性を持つようになる。

 んでもって引き延ばしたバンドの形状が戻ると魔力が抜けていくってわけだな。

 当然、デカいバンドに強力な弾性を持たせたいのなら、それだけ大量の魔力を込める事になる。


 俺は今の"ジーク"の魔力ジェネレーターの魔力生成量と"ジーク"のパワー、それからバンドが十分な弾性を得るまでの魔力量を計算し、最も効率の良いバンドのサイズを割り出し、石弓を作ったってわけだ。


 完成した石弓、ってのも流石に格好がつかねぇな。う~む…ヨッシャ!コイツの名前はジークレストだ!


 とにかく、このジークレストを適当な岩に向けて、その辺の石ころで試し打ちしてみりゃあ、結果はビックリ、先述の通りってわけだな。

 下手な、とは言えマギ・アーマーだ。一撃で破壊できるなら、大抵の魔物にもダメージが通るだろ。


 ちなみに、魔力の込め方なんだが、コイツは俺が"ジーク"のコンデンサに蓄積された魔力を操作してバンドに込めている。


 マギ・アーマーのサイズじゃあどうにもできねぇような細かい作業を少年がしてる間に、自分の準備を終わらせたデュアンに、魔力の扱い方を軽くレクチャーしてもらったんだ。

 俺はそこそこ筋が良いらしくてな、このまま訓練を続けりゃ将来的に魔法も使えるようになるんじゃねぇかって言われちまったぜ。

 だが、興味が無いワケじゃないが、今はそれどころじゃねぇんだ。一旦この話は置いておこう。


 元超高性能AIだった俺の情報処理能力がやたら高かったから、話の内容もすんなりと理解できたわけだが、デュアンのヤツ、アレは絶対に若い連中から鬼教官って呼ばれてるタイプだ。

 教え方が前世でそう呼ばれてる奴と、ほぼ同じやり方だった。



 ま、それはそれとして、ジークレストの威力がここまで出るとは思ってなかった少年が、両目を見開いて驚いてら。


 「こ、コレだけの威力を、こ、こんな簡単な仕組みで…。マギ・バンドって、凄かったんですねぇ…。」

 『ま、原理自体は超簡単だからな。だが、使いようによっちゃあ、こうしてとんでもねぇ威力を引き出せる。徹底的に効率を精査して、今の"ジーク"に最適な作りにしてあるぜ。逆を言えば、これ以上のモンは作れねぇって事でもある。』


 少年はジークレストの威力に大層驚いているようだが、まだまだこんなもんじゃねぇぞ?

 このジークレストを、俺の射撃能力で弱点に向けてのピンポイントショットを決めりゃあ、大抵の魔物は一撃で倒せる!



 ジークレストを制作してる最中に確認したが、近くで(たむろ)して襲撃を企ててる魔物の連中に、ラプタード以上の頑丈さがある魔物はほぼ確認出来ねぇらしいんだ。

 んでもって過去のラプタードとの戦闘記録から計算してみたが、ジークレストならラプタードを一撃で倒せるって結果が出たわけよ!


 って事で、ジークレストで魔物の弱点を撃ち抜けば、襲撃に来る大抵の魔物は一撃必殺ってなわけだ!


 だが、ここで更に確実性を出す。

 弾丸だ。ジークレスト用の弾丸を作製するんだ。

 その辺の石ころでほぼ全ての魔物を一撃で倒せるのなら、専用の弾丸をつくりゃあ確実に一撃で仕留められるようになる!


 ってなわけで、弾丸の作成を少年に提案したら、何と少年が結構な数をパパッと作ってくれちまった!


 少年もそれなりに魔法が使えるらしくてな、手で触れた土だとか、石だとか、鉄だとかの形状を、ある程度変化させる事が出来たんだよ!


 そんなスゲェ魔法があるなら利用しねぇ手はねぇってな!早速用途に適した弾丸を2種類、作れるだけ作ってもらったってわけよ。

 石ころのジークレストじゃ一撃で倒せねぇような魔物にもコレでバッチリだってな!


 いいぞいいぞぉ!俺達がやる事もハッキリとしてきた事だし、準備万端だ!後は少年にゆっくり休んでもらって、これまでの疲れを癒してもらうだけだぜ!


 来るなら来やがれ!魔物共!

ジークレストの見た目はオトモ〇チゴトデストロイヤーが非常に近いです。

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