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あばよ、相棒

二作目の連載小説です。

やや見切り発車なところがありますが、よろしくお願いします。

 ―銀河暦3247年―


 地球人類が太陽系を離れ、外宇宙へと進出して既に数千年。

 太陽系内で培ったテラフォーミング技術によって、地球人類はその生息域を大幅に広げ、制限なくその数を増やし続けていた。


 だが、気の遠くなる年月の流れは自らのルーツを忘れさせ、同族であるにも関わらず住まう惑星が違うというだけの理由で、惑星間で戦争が頻繁(ひんぱん)に勃発するようにもなっていた。


 争いの理由は、指導者が侮辱を受けたというような些末な事から、資源衛星の所有権を巡ったものや、惑星固有の資源を求めての侵略など、様々である。


 規模が惑星同士の争いであるため、その戦いは長引く事が多い。

 最も長いものでは500年以上も昔に勃発し、今もなお続いている戦争すらある。

 そう言った戦争は、既に世代が何代も変わり、戦いの理由すら忘れられ、ただ相手が自分達にとって不倶戴天の敵だとだけ教えられ、それが当たり前となってしまっている。


 最早戦争の原因を取り除く事など叶わず、どちらかが滅びるまで戦い続けるしかないのだ。



 そして今、100年にも亘る(わたる)一つの惑星間戦争に決着が付こうとしていた。

 この戦争も理由は既に忘れられ、ただ、敵であるというだけの理由でお互いを滅ぼそうとしている戦いである。


 高度な感覚透写技術と制御AIによって、強力な人型機動兵器"MT(メガトレーサー)"を駆使する"惑星サピエンテ"と、肉体を捨て、意識をデータベースに写して半永久的な命を得た"惑星サーバス"。

 この二つの惑星が、互いの命運を掛けた最終決戦を行っている真っ只中である。


 "サーバス"が"サピエンテ"滅亡のために用意した決戦兵器は、自らの母星を改造し、惑星破壊兵器へと変貌させた究極要塞惑星"(ディザ)・スター"。

 その最大の攻撃は、一つの惑星を丸々飲み込んでしまうほどの規模で陽電子ビームを照射する事が可能な惑星破壊砲、"ディザスター砲"である。


 対して、"サピエンテ"が勝利のために用意した決戦兵器は…。




 ―D・スター外壁―


 まるで流星かと思わせるような速度でありながら、不規則な挙動で無数の敵無人機を翻弄し、一つ一つ確実に撃墜していく。流石は俺の相棒だ。


 「ったく、次から次へと湧いて出て来やがって!」

 『キリが無いとはまさにこの事だなぁ!お行儀よく入り口を探してる暇はなさそうだぜ!?』

 「サブロウッ!切り札の使い時だっ!壁をぶち破って中に入るっ!!【SDV】をやるぞっ!いけるなっ!?」

 『了解。【SDV】、発動シーケンス開始!』


 相棒の呼びかけに答えて必殺技の発動準備に取り掛かる。  


 『"ツインマグナドライブ"、最大出力。』


 理論上、無尽蔵のエネルギーを生成可能であるこの機体の動力を、最大出力で稼働させる。

 機体内部から膨大なエネルギーが強烈な発光現象として現れ、機体そのものを輝かせている。


 今、この機体の性能は通常の3倍近くまで引き上げられている。

 本来なら圧倒的な機体性能で相手を翻弄、連続攻撃を加えるなりして動きを封じるんだが、今回に限って言えばその必要はねぇ。次のシーケンスに移行だ。


 『全エネルギーの90%を右脚部先端へ伝達。』


 生み出した膨大なエネルギーの大半を右脚部の先端部、つま先に当たる部位へと送り続ける。 


 『"バニシングスフィア"、四基形成、完了。』


 右脚部の先端部に送られたエネルギーを、そこに搭載された装置を用いて触れるもの全てを、対象のエネルギーを変化させる事なく、素粒子レベルで分解させて消滅させるエネルギーの球体、"バニシングスフィア"を四基形成する。コレで準備は整った。


 「行っくぜぇえええっ!!」


 相棒が気合の入った叫び声を挙げ、フルスロットルでⅮ・スターの外壁へと機体を突っ込ませる。


 『"バニシングスフィア"、高速回転開始。』


 形成した"バニシングスフィア"を高速回転させる。

 この機体の右脚部先端に今触れようものなら、例え何者だろうと問答無用でその存在を消滅させる事が出来るってわけだな。


 『ターゲット、ロック完了。【SDV】、発動可能。』


 目標は目の前の壁そのものだからターゲットのロックオンもクソも無ぇんだが、まぁ、様式美ってヤツだ。

 ともあれ、これですべてのプロセスは完了した。後俺がやるべき事は、相棒に合図の一声を掛けてやるぐらいだ。


 『叫べ。』


 その一言の後、ここまで溜めに溜めていた気合を解き放つように、相棒が大声で必殺技の名を叫ぶ。


 「スパイラルゥッ!!」


 「ドォリルゥッ!!」


 「ヴァニッッシャァアアアーーーーーッ!!!」


 壁に機体が激突する瞬間に右脚部を突き出して、"バニシングスフィア"をⅮ・スターの外壁へと押し当てる。


 これまでどんな兵装を用いても傷一つ付ける事が出来なかった、あのクッソ忌々しいⅮ・スターの外壁が、"バニシングスフィア"に触れた途端、嘘みてえに消滅していく。

 高速回転しながら外壁を抉り、削り取っていくその様は、まさしくドリルそのものだ。


 このありとあらゆる物質を消滅させるエネルギー体を確実に対象に押し当てる。


 これぞ必殺、【SDV】。即ち、スパイラルドリルバニッシャーだ!


 まぁ、この機体には音声入力機能なんて無ぇし、気合で性能が上がるようなシステムが搭載されているわけでもねぇから、叫ばなくても発動できるんだがな。


 じゃあ何で叫ばせたかって?俺の趣味だ。文句は言わせねぇ。


 それにな、実際に叫んで必殺技を放つ事で、過去に多くの強敵を実際に(ほふ)って来たんだ。叫ぶ事の有用性は、実体験で証明済みなんだよ。


 Ⅾ・スター内部に侵入するまで、ちょいと時間がある。ちょうどいいから、この辺りで俺の事も教えておこう。


 俺の名はサブロウ。イタルガ・サブロウだ。


 正式名称は、Independen(自立型)t Tactical(戦術) Learning(学習) Unlimited(無制限) Growth(成長) Ai(AI)

 それぞれの頭文字を取ってイタルガ。その3626号機、それが俺だ。


 サブロウってのは今の相棒、つまり俺を搭載した機体の現パイロットが俺に付けてくれた名前だな。

 製造番号から付けただけの安直な名前だが、ただの番号よりは人間の名前みてぇで愛着がある。俺だけの名前ってわけだ。正直言って、スッゲェ気に入ってる。


 この戦争が始まってからすぐに、俺達イタルガシリーズは製造された。

 つまるところ、俺は100年間もの間、戦闘経験を積みに積み重ねた、ベテランもベテラン、大ベテランってわけだ。

 まぁ、俺以外の同僚は全機撃墜されちまって、誰も残っちゃいないんだがな。


 人型機動兵器"MT"の制御AIとして製造され、長い事"サーバス"の連中と戦い続け、今の相棒がこの機体のパイロットになった一年前に、ちょうど俺が製造されてから99年目を迎えてな。

 その時にこうして"魂"ってモンを得る事になったわけだ。


 魂を得た理由が相棒から名前を与えられたからなのか、100年近い時間、人間に使われ続けていたからなのかは俺には分からんが、理由はどうであれ、悪い気はしてねぇ。


 相棒が言うには、付喪神って呼ばれてる、やたら古くからある概念なんだとさ。

 長いこと大事に使われ続けた道具ってのは、その内自我が芽生えて命を、魂を得るんだってよ。

 付喪ってのは九十九とも表記できるらしい。つまり、俺が魂を得るまでに人間達に酷使され続けてきた時間と同じ数字ってわけだ。


 俺が俺として"魂"を得てからというもの、やたらスムーズに機体を動かす事が出来るようになっていた。

 その時に分かったね。自分のボディを得るって事の意味が。


 俺の機体、ボディは当然だが100年間も同じ機体ってわけじゃねぇ。被弾はしょっちゅうしていたし、破損する事だって数えきれねぇぐらいあった。

 だが、それでも俺のパイロット達は生き延び、帰還してくれやがった。


 その時には、どいつもこいつも俺に[生き延びられたのは、お前のおかげだ。ありがとうよ。]だなんて礼を言ってきてよ、今思い出すと神経なんざ通ってねぇってのに、ボディがむず痒くなってきやがる。


 お前らが生き延びられたのは、お前らの腕が良かったからだっての。俺の方こそ、無事生還してくれて礼を言うぜ。


 んで、破損して帰還するたびに俺のボディは強化、改修されていって、今や敵味方含めて文句無しの最強の機動兵器、"アポカリプス"としてこの星系に君臨してるってわけよ。



 っと、Ⅾ・スターの外壁をぶち抜いて、上手い事このクソッタレ要塞の中枢近くに入り込む事が出来たみてぇだな。


 後はこのクソッタレ要塞の中枢部にある動力炉をブッ壊してやれば、今頃俺達の星を消し飛ばすためにチャージしていたエネルギーが暴走して、このクソッタレ要塞を逆に綺麗サッパリ消し飛ばしてやれるって寸法よっ!


 「いよっしゃあっ!上手い事内部に侵入出来たぜっ!」

 『喜ぶのはまだ早ぇぞ?こっからゴールまではもうチョイあるんだからな。』

 「おうっ!サブロウ!中枢部までのスキャンを頼む!」

 『フッ既に終わらせてるぜ。マップを表示する。』

 「流石だぜっ!」


 このクソッタレ要塞の内部に侵入できた時点で、俺のボディに搭載されたセンサーをフルに活用して要塞内部は(くま)なくスキャン済みだ。

 多少中枢部までの道のりは入り組んでるが、俺の相棒ならどうってこたぁない。余裕でたどり着けるとも。


 だが、ここで無粋な連中が来たようだ。


 レーダーに反応あり。さっきまでちまちま潰してた無人機の同型機共が、ワラワラと俺達の所まで押し寄せて来やがった。


 「どうやら"お巡りさん"が来たみてぇだな!」

 『だが、中枢部からは来ちゃいねえ。気にせず進みな。背中は俺に任せとけ!』

 「おうっ!背中は預けるぜっ!サブロウ!」

 『任せろ相棒っ!』


 相棒は"アポカリプス"を高速飛行形態へと変形させて、最大戦速で中枢へと機体を進ませて行く。俺の仕事は、後ろからついて来る"お巡りさん"共の処理だ。


 "アポカリプス"には独自に稼動する射撃兵装、近接戦闘用の高周波ブレード、そんでもって推進剤を用いる事なく推力を発生させる推進機構、コイツ等を一つにまとめたタクティカルバインダーが搭載されている。


 射撃兵装はビーム砲タイプとレールガンタイプ、それぞれ4基ずつ。合計8基のタクティカルバインダーが機体の背部に搭載されてるってわけだな。


 このバインダーは前方は勿論の事、側面にも背後にも容易に射撃が可能だ。

 機体本体を全く動かさずに全方位に射撃が出来るし、高速飛行形態中でもそれは変わらねぇ。


 相棒には中枢への移動に専念してもらって、この8基のバインダーを操作して"お巡りさん"共を一機残らず撃ち落とすってのが俺の仕事だ。


 8門の砲身を同時に操作して精密射撃を行う。超が付くほどの俺の得意分野だ。


 "魂"を得る事が出来たおかげか、俺は多少の無理をすれば自分のボディを機体のシステムを全く介する事なく、自分の意志で動かす事が出来るようになっていた。

 つっても、俺だけじゃ機体全体を十全に動かして戦闘する事なんざできねぇんだがな。


 確かに、やろうと思えばできねぇ事は無い。だが、せいぜい出来て1分か2分程度だし、それやった後はメチャクチャ疲れるから、できりゃやりたくねぇ。


 機械が疲れんのか?って疑問に思うかもしれねぇが、疲れるもんは疲れんだよ。

 なんつうかこう、なーんもやる気が起きねぇような、しんどぉ~って思うような感じ、倦怠感って奴か?アレがな、メチャクチャするんだよ。


 だがまぁ、そいつぁボディ全体を動かした場合だ。こうして機体の一部をシステムを介して動かすぐらいなら、訳はねぇってなぁっ!


 100年もの間(つちか)ってきた俺の戦闘経験は、俺の射撃に正確無比な弾道を約束してくれる。

 どうせコイツ等、たった今Ⅾ・スターの内部で製造されて大慌てでこっちによこしてきた急増品、つまりはヒヨッコ共だ。大ベテランの俺とじゃあ戦闘経験の年季が違うぜ。



 中枢部までの障害物は相棒の操縦テクで乗り越え、背後の"お巡りさん"共は俺の射撃で切り抜け、遂に俺達はⅮ・スターの中枢部に辿り着いた。

 予想通り"ディザスター砲"を発射するために、動力部にエネルギーをチャージし続けてやがる。


 コイツをブッ壊して["惑星サピエンテ"大勝利!希望の未来へLet's Go!!]と事が運べば良かったんだが、残念ながらそうは問屋が卸さねぇらしい。


 「さって、コイツが目当てのお宝ってわけだが、サブロウ、残弾は?」

 『ある事はある。だが、ありゃあ外の壁と同じ材質だ。』

 「つまり、アレをブッ壊すには【SDV】を使う必要があるって事か。」


 このクソッタレ要塞の中枢に使用されている素材は、忌々しい事にこれまで"バニシングスフィア"以外では一ミリも傷をつける事の出来なかった、あのクソ外壁と同じ素材だった。

 流石に外壁ほどの厚みがあるわけがねえから強度は下回るだろうが、それでも残りの残弾で破壊する事は出来ねえだろうな。


 必殺技をもう一度使用するには、まだ時間が掛かる。

 アレは文字通りの切り札で、連発できるようなものじゃねぇ。無理に発動させようものなら、ボディがエネルギーに耐え切れずに、機体そのものがボンッだ。


 「サブロウ、【SDV】の再使用まで、後どれぐらいだ?」

 『…まだだ。後5分28秒必要だ。』

 「……"ディザスター砲"の発射までの残り時間は?」

 『………3分だ…。』


 どうにかしてこのクソッタレ中枢を破壊しねえと、"ディザスター砲"が発射されて、俺達の星そのものが消し飛ばされちまう。


 「そうか………。なぁ、サブロウ。」

 『何だ。』

 「他に何も無いのか?コイツを破壊する方法は。」


 破壊する方法は、ある事はある。だが、それをやれば…。


 『ある。方法も至って簡単だ。今からもう一度、"ツインマグナドライブ"を最大出力で稼働させりゃ良いだけだ。』

 「つまり、自爆……か…。」

 『………ああ…。』


 何もしないでいる時間は本来なら微塵も無ぇ。

 俺が"魂"を得る前だったのなら、迷わずこの場で"ツインマグナドライブ"を最大出力で稼働させて自爆していただろうな。


 だが、今の俺にはそれができねぇ。俺は、俺なりに命ってモンがどういうものなのか、ようやく分かって来たんだ。こんなところで失わせたくねぇ。


 だってのに、俺の相棒はそうじゃなかったようだ。覚悟を決めちまったらしい。


 「良いぜ。お前と一緒だってんなら、悪くねぇ。サブロウ、やってくれ!」


 馬鹿野郎が。嫌に決まってんだろうが!悪ぃが、俺は俺のやりてぇようにやらせてもらうぜ?


 『断る。こんなクソ要塞の中でお前と心中なんざ、死んでも御免だ。』

 「なっ!?いきなり何を言ってんだっ!?ようやく終わらせられるんだぞっ!?みんなの仇を撃てるんだぞっ!?大体、今俺達がここでやらなきゃ、みんな死ぬんだぞっ!?カティアだって!」


 分かってんなら、気軽に心中するみてぇな事言ってんじゃねえ!


 制御系掌握。準備は整った。これで心置きなくこのクソ要塞をブッ壊せるぜ!


 『そうだ。お前にはカティアがいるだろうが。こんなクソ要塞と心中する必要なんざ、ナノファイバー繊維の一本分もねぇんだよ。』


 "アポカリプス"のコクピットには、緊急脱出用のために本体から分離して小型高速戦闘機に変形させる機能がある。

 今の今まで使う機会が一度も無かったから、オミットしても良いんじゃねぇかって話が、前に出た事があったな。

 今にして思えば、オミットしなくて本っ当に良かったぜ!


 オートパイロットのセッティング完了。後は機体を分離して、相棒をみんなの所に返してやるだけだ。


 「機体の制御がっ!?おいっ!?サブロウ!?何してるっ!?」

 『お前の命、こんなところで終わらせたりなんてしねぇよ。このクソ要塞と心中すんのは、俺だけで十分だ。』

 「馬鹿野郎っ!!俺にお前一人を犠牲にしろって言うのかよっ!?」

 『"一人"、か。その言葉だけで俺は十分満足だぜ…?まぁ、お前とカティアの子供が見られねぇってのは、ちっとばかし残念だが…。』

 「オートパイロットまで…っ!?サブロウ!お前、今になって自分だけ死のうって言うのかよっ!?俺達は、一蓮托生じゃなかったのかよっ!?」

 『そいつは戦争の間の話だ。もう、戦争は終わる。俺が終わらせる!俺の手で、仲間達の仇を取るんだっ!』

 「…サブロウ…お前…っ!」

 『あばよ、相棒…。カティアと、幸せにな…。』

 「サブロォーーーーッ!!!」


 コクピットを切り離して相棒をクソ要塞から脱出させる。

 あの小型高速戦闘機の性能なら、これから俺が起こす爆発に巻き込まれる事も無ぇ筈だ。


 『待たせたなぁクソ要塞!テメェはここで終わりだ!"サピエンテ"最強の機動兵器が付き合ってやるんだ。有り難く思いながら、くたばりぃ…!』


 "ツインマグナドライブ"を最大出力で稼働させる。

 直後、膨大なエネルギーが生み出されるが、その力にボディが耐え切れずに崩壊を始め、暴走。大規模な爆発が生じる。


 『やがれぇーーーっ!!!』


 "バニシングスフィア"と同質のエネルギーの爆発だ。如何なる存在も、物質であるならばこの爆発による破壊を耐える事は出来ない。


 クソ中枢が崩壊していく様を"アポカリプス"のカメラアイが捉えたところで、俺の意識はプッツリと途絶えちまった。

 そんな映像すら見る事なく、俺の存在は消えると思ってたんだ。見返りとしては、十分すぎるぜ。



 これで100年にも亘る俺の役目は終わりを告げた。

 相棒達が言うには、善い事をした奴等ってのは死んだ後は天国って場所で、生きている親しい連中をのんびりと見守る事が出来るらしい。

 なら、俺もその天国って場所で、相棒達の今後を見守らせてもらおうかね。


 一つの惑星を救ったんだ。そいつは間違いなく善行だろう?俺は人間じゃねぇけどよ、行けるもんなら行ってみてぇもんだな。天国って場所によぉ。








 ん?


 何だ?


 なんも見えん。


 それに音も聞こえん。


 もしかして、死ぬってのは、見る事も聞く事も動く事も出来ない、何も無い状態の事を言うのか?

 だったら、俺の"魂"もそのまま消えて欲しかったんだがな…。


 この状況、どうしたもんか…。何かないかー?何かできんかー?


 んー…?ボディは…ある?だが、なぁんか調子が悪ぃな?配線がおかしいのか?あー、どうにかこうにかいじくれそうだな?んじゃあ、やるか!




 おっ!あれこれいじくってたら微かにだが、物音が聞こえてきたぞ!?駄目元だろうと何でもやってみるもんだなぁ!


 けど、妙に騒がしくねぇか?それも、かなり不穏な音のような気がするぞ?


 この音は…襲撃の音によく似てるっ!ま、まさか"サーバス"の連中、まだ生き残りがいたってのかっ!?

 上等だぜっ!あんのエセ付喪神共、今度こそ一体残らずスクラップにしてやろうじゃねぇかっ!



 のわぁっ!?誰かがボディのコクピットハッチを開けて入ってきやがった!?


 おいおいおい、大丈夫なのか?やたら小柄だぞ?身長は140センチもねぇ。そんな体で"アポカリプス"を動かせんかよっ!?


 「お、お願い…っ!"ジーク"、動いてっ!」


 そう言って小柄な誰かが俺のコンソールパネルに触れて、何らかのエネルギーを流すと、何と俺のボディの感覚が鮮明になってきた!


 誰だか分からんが凄ぇじゃねえかっ!おかげで襲撃を仕掛けてきた"サーバス"のクソ野郎どもをぶちのめせるってもんだぜっ!


 と思ったんだが、俺の視界に現れたのは今まで見た事も無い、馬鹿みたいにデカいトカゲに似た、二足歩行の化け物だった。


 「う、動いた!?って、ひ、ひぃぃっ!?め、目の前ぇえええっ!?!?」

 『な、何じゃあコイツぁああああっ!?!?』


 思わず取り乱して叫んじまった。俺とした事が不覚だぜ。


 「えっ、えええええっ!?しゃ、喋ったあああああっ!?!?」

 「ギュアアアアアッ!!」


 っておい!何でそこに驚くんだよ!?俺が喋れるのは当然だろうがっ!?


 とにかく、今はこのトカゲのバケモンを何とかしないとな。

 トカゲのバケモンは60㎝はある鋭い爪を立て、俺のボディを前足でひっかくつもりのようだ。


 ボディはどうにもしっくりこない感じがしてしょうがねぇが、動かす事自体はできるんだ。


 ならば―――


 『やぁああらいでかぁああああっ!!』

 「えっ!?ウソッ!?勝手に動いてっ!?うわぁあああああっ!?!?」


 ボディを前に倒す勢いで前に傾けて爪を躱し、倒れた勢いと共に一歩前に踏み出してバケモンの顔面に俺の左腕部を思いっきりブチ込んでやる。


 "アポカリプス"の前腕部には、バリアフィールドを発生させられるひし形上の小型シールドが左右にそれぞれ搭載されてんだが、コイツが大きさの割に結構な重量物でな。

 よく射撃中に距離を詰められた際は、コイツで相手をブン殴ってた。


 頑丈なうえに質量兵器になるからな。精密機械にゃ効果抜群ってなもんなのよ!


 で、今はバケモンの方なんだが、上手い具合にシールドの突起が顔面に突き刺さったらしい。仰向けになってピクリとも動いちゃいねぇ。

 殴りつけた反動で俺のボディも倒れる事なく立ったままだ。完璧だな!


 『っしゃあああっ!!ハゲ頭仕込みの格闘術舐めんじゃねえぞぉおおっ!!』

 「た、倒しちゃった…。ラプタードを…?」


 さて、ひとまず状況が落ち着いたのは良いんだが、俺に乗り込んできたこのチッコイのは何者だ?子供にしちゃあ、随分とずんぐりしてるっつーか、なぁんか体型が不自然なんだよなぁ?


 だが、声からしておそらくは子供だろうな。んで男か。じゃあ、コイツの事は少年で良いか!


 『で?少年は何者だ?状況を説明してくれ。俺よりは状況を理解してんだろ?』

 「あ、あなたこそ誰なんですかっ!?どうして僕の"ジーク"から声が聞こえてきて、そのうえ勝手に動いてるんですかっ!?」


 ん~?


 "ジーク"だぁ?なんのこっちゃ?


 いや、待てよ…?さっきから感じてるこのボディの違和感は…。


 至急俺のボディの確認だ!


 全身のマルチスラスター


 無し!


 両腕部のバリア発生機 


 無し!ただし代わりに腕部全体を覆うほどのやたらデカいシールドが、両腕部に装備されてる!


 携行武器


 ビームソード×2、高周波ブレード×2、ヒートダガー×6、可連結式高出力エナジーライフル×2、ひとっつも無し!


 脚部先端のバニシングスフィア形成機


 無しっ!


 背部のタクティカルバインダー8基

 一基も無し!!


 動力部!"ツインマグナドライブ"!


 これも無ぇっ!!


 じゃあ、高速飛行形態への変形はっ!?


 出来ねぇ!!


 つーか俺のボディの外観はっ!?


 ……8頭身の"アポカリプス"のボディとは似ても似つかねぇ、4頭身ぐらいのずんぐりむっくりなボディだ…。


 「あ、あの…?」


 ………。


 『なんっっっじゃいこりゃぁあああああっ!!!?』

 「ひぃぃいいいいっ!!」


 俺、今までで一番デカイ声で叫んだと思う。

天国へは行けなかったようです。


ちなみに、"アポカリプス"の近接戦闘用の携行武器は全てソード〇ットよろしく遠隔操作によるオールレンジ攻撃が可能です。


お読みいただきありがとうございます。

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