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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
6章 一転

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報連相という筋の通し方

 樹神さんに従い、旅行支度を始めた。キャリーケースへ荷物を雑に詰め込んでいる最中、今日は講義があったことを思い出す。もはや呑気に大学に行ける状況ではないので諦めることにした。そちらはすっぱり断念することができたものの、バイト先には一報入れておかねばならないだろう。


 しかし、自宅に押し寄せたマスコミの数から考えるとバイト先にも出向いていそうな気がする。あの気のいい店長のことだマスコミにビビり散らかして変な言質を取られていそうだ。


 メッセージで一身上の都合からしばらくバイトに出れない旨を伝える。


 すぐに返事があった。


「テレビ見たよ。大変だったね。でも無事でよかったよ。こっちはどうにかするから世間の誤解が解けるまでゆっくりしてね」


 温かかった。こちらの事情は何一つ伝えていないのに、俺を悪だと断ずる放送を見たのに、それでも俺のことを信じてくれている。本当に、本当に良い人であった。おかげで少しばかり心に余裕が戻った気がした。


「ありがとうございます。この件が解決したらすぐに復帰します」


 そう返答し、旅行支度を進める。


 妹は俺が無事だったことで気が抜け、画面の中でうつぶせに倒れていた。その格好のまま、器用にマスコミが流す情報を収集していた。


「家の前にいたマスコミの人たち、みんなアパートの敷地外に追いやられたらしいね。警察がアパートの住人と関係者以外は立ち位置禁止ってことで規制線張ってるし」


 キャリーケースに一通りの荷物を詰め終え、他に入れ忘れがないかチェックしつつ、その情報に感想を返す。


「まるで犯罪者だな」


「さっき侵入してこようとした人は逮捕されたみたい」


「テレビの前であそこまでして逮捕されないのはおかしいしな」


「マスコミの人たちはさっきの人は捕まえたのに、にーちゃんは捕まえなくていいのかって抗議してる。テレビのコメンテーターとかは中年男性は現行犯逮捕で、にーちゃんはまだ逮捕状が出ていないから逮捕できないのでは、とか言ってる。んで保護を兼ねた任意同行を求めるのでは、とか予想してるね」


「わからなくはない論理だな」


 そもそもオカルトも総理大臣お墨付きの作戦だということも周知されていない。ならばそういう結論に至ってもおかしくはないだろう。何も知らない人からすれば奇妙に映るだろうが。


 ただ、少し悪意が足りないような気がした。


 俺の予想では鬼の首を取ったようにマスコミは民衆を焚き込み、政府への攻撃材料にするものだと考えていた。だが現実の報道は幾分理性的であるように思える。無論、俺の命を取ろうとした中年男性は現れたし、親と縁を切られたが、大した悪意には感じない。


 そう、悪意が足りていない。


 アンジェラが死んだ今、もはや模倣犯を止められる存在は消えた。


 ならば車や飛行機の自動運転ハックしたり、それこそ自衛隊に配備されたロボットを操ってしてしまえば簡単に人を殺せてしまう。それを人質に俺や妹の存在を引き渡すように迫れば、政府も無碍にはできない。何故やらないのか。やれないのか、まだやれない理由があるのか、それとも他に目的があるのか。


「そういえば桜庭は何か声明を出していないのか?」


「えーとね……」


 妹が調べている間に旅行支度を終える。


 しばらくは返ってこれないことを考えると、お守りに一つぐらいシオミングッズを持っていきたい欲に駆られる。


「え、う、嘘」


 妹が言葉を詰まらす。


「……桜庭さん、行方不明だって」


 野郎、姿をくらましやがった。

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