偉い人は無茶振りがどういうものなのか理解していない
樹神さんがソファに腰掛ける。
「そんじゃ始めよっか」
そんな一言で始まった。
元々の議題として考えられていたアンジェラをエネミー討伐作戦に赴かせないというものはアンジェラに一蹴され、樹神さんも「やっぱりアカンかぁ」で終わらせた。樹神さんにしてもダメもとで訊いてみたという温度感に近く、断られても仕方ないで終わらせていた。
そうなると樹神さんが本題として挙げたかった議題は別にあるということだ。気になると言っていた件なのだろう。
「作戦に関してはどこまでやるのかとか細かく聞いておきたいのはあるけど、それはあとでいいや。実は他に神として聞いておかなアカンことがあってな」
樹神さんがそう前置いた。
アンジェラもそのことを話すために来たのか、作戦参加を拒否した時と目の色が変わった。
「精霊が集団で行方不明になって困ってるって話がウチのところに来たんや。何か知っとるやろ?」
精霊の行方不明。十中八九、雪山での戦闘の件が関わっているだろう。あの小憎らしい模倣犯が存在ごと喰ったゆえの行方不明。それは禁忌に触れるという。
アンジェラは立ち上がり、頭を下げる。
「先に謝罪を。現場に居合わせたのに凶行を止められず申し訳ございません」
樹神さんは謝罪を受け入れ、アンジェラに顔を上げさせる。
「そういうことなんやな?」
「はい」
「詳しく説明してるな」
アンジェラはブルースフィアであったことを説明する。
自身以外のエネミーが現れたこと。雪山で数多の記憶を奪った事件のこと。
それがアンジェラを嫌う一派の仕業だということ。
その一派に襲われ、俺と力を合わせて撃退したこと。一派の親玉らしき模倣犯が一派全ての存在ごと取り込んだこと。
その説明を聞き終えた樹神さんは深い息を吐く。
「……とりあえず二人が無事に帰ってきてくれて良かったわ」
樹神さんの隣に座る北御門が尋ねる。
「会長、禁忌を犯した者の処遇はいかがしますか?」
「宮内庁に連絡とってそっから退魔関係者各位に連絡いれて。電脳世界に隠れとるからあんま意味ないと思うけど周知だけはしといて」
「わかりました。すぐに連絡してきます」
席を立つ北御門。
樹神さんは立ったままのアンジェラに座ることを許可する。
「アンジェラやっけ? いい名前貰ったやん」
「ありがとうございます」
「由来とかあんの?」
「アングリーとジェラシーを掛けた名前となっています」
樹神さんは「マジか」という思いを込めた視線を俺にぶつけてくる。
「……女の子にそれはアカンやろ」
「あたしは気に入っておりますので、ご心配は無用です」
「アンちゃんがそう言うんやったら……まあええか」
「それに今となっては、あたしを嫌う一派に対して力を発揮できる名の方が都合がいいかと」
「考え方次第じゃそうなるんか」
「ええ。それにエネミー討伐作戦にも奴は現れるでしょう」
「やっぱそう思うか?」
「奴にとっては敵同士が潰し合う絶好の機会となります。漁夫の利を狙う可能性は高いです」
「なるほどなぁ。君はどう思う?」
樹神さんが俺に話を振った。
「……協力して迎え撃つという形に持っていくのがベストだと思いますが、無理だと思います。作戦参加者は、エネミーは敵だという認識があります。今回の事情について知っている者が指揮を執らないと両方を相手しようとして奴の一人勝ちになると思われます」
「ほなら問題ないやんけ」
樹神さんが続けて言う。
「君が指揮執ればええやん」
どこまでいっても巻き込まれる定めなのだ。
俺はそう悟った。




