野郎絶対にぶっ殺すの精神
初めて踏み入れる雪山は想像していたよりも白く険しい。時には吹雪き、視界すらままならなくなる。オーロラが見えたり、ダイヤモンドダストが発生した時には思わず足を止めて見入ってしまった。
登山の間、聞こえてくるのは環境音ばかり。戦闘音も悲鳴すら聞こえないまま登り続け、いつしか山頂が見えてきた。そこに一人の男子が地べたにあぐらをかいていた。
そいつは登ってきたこちらに気付くと立ち上がり、手を挙げる。
「騒ぎを起こせば来ると思ってたよ。二人とも初めましてじゃないけどわかるかな?」
見た目は小学校高学年。お坊ちゃんという風貌が似合う容姿だった。物腰も柔らかい印象を受けるが、どこか傲慢さを感じられる。嫌味な奴に見える。
アンジェラは警戒し、それには答えない。
俺はアンジェラの前に腕を出し、臨戦態勢に待ったをかける。
「ショッピングモールで俺を見逃したのはお前か?」
「うん、そうだね。それは僕だ」
「何故見逃した?」
「その頃はまだそこの彼女のお手付きじゃなかったし、彼女を倒した奴がどんなもんか生で見たかっただけだからね」
「なら何故今日また騒ぎを起こした?」
「さっきも言っただろう。君らに会いたかったのさ。特にそこの彼女にね」
そいつはアンジェラを指差した。
アンジェラは睨みつける。
「お前は精霊みたいだけど、あたしはお前のことなんて知らない」
刺すような視線にもそいつはひるまない。それどころか不遜な笑みを浮かべ、舐め切っているようにも見える。
「君は知らないだろうね。だって君、いつもひとりぼっちじゃあないか」
アンジェラが握り拳を作り、震えていた。
模倣犯は楽しそうにそれを見ながら続ける。
「それに君は有名だからね。この時代で神を目指してる馬鹿としてね。ただ、本当に神になっちゃうのは馬鹿にしてた僕たちからすると見返されたようで気にくわないから邪魔させてもらう」
それは宣戦布告と呼ぶにはあまりに幼稚なものであった。言ってしまえば人の成功が妬ましいから邪魔をする。人の足を引っ張るだけの動機。負の感情ばかりが先行した道理であった。
「それをあたしが許すと思っているの?」
アンジェラが虚空から姿を消し、エネミー形態となって現れる。
「今まで努力すらしてこなかったクズがあたしに勝てると思ってるの?」
「もちろん僕一人じゃ無理だろうね。でも僕には同士がいる」
山頂を囲むように虚空が無数に現れる。
それら一つ一つからエネミーを模した存在がこちら側へと入ってくる。アンジェラは黒、大してそれらは白い見た目をしていた。俺らを囲み敵意を向ける構図は悪魔を罰するために遣わされた天使にも思える。
「半神未満な君がこの数を相手に勝てるとでも思うのかい? 君がやりあえばそこにいる彼もただじゃ済まないだろ」
アンジェラが俺に視線を向ける。
それは彼女が俺の身を案じているようだった。
俺はアンジェラに告げる。
「野郎ぶっ殺してやるの精神を持つんだろ」
「そういうところ大好きよ」




