好きだからこそ許せない
楽しかった時間は早く過ぎ去るものであり、シオミンと同じ空間で過ごす時間は夢のように一瞬であった。気が付いたら配信を終わる時間になっていた。あとはホストとなった妹が締めのトークを行い、配信は終わる。
そのはずだった。
街へ戻り、ゲーム内イベント用に用意された広場へ向かう。今はイベントなどは行っておらず、人が多く集まる時に使われる場所であった。そこで妹とシオミンのファンに囲まれて挨拶をする予定だ。そして、少なくない数の俺アンチもそこに集まるだろう。
もっとも俺アンチは妹もしくはシオミンのファンも兼ねているのか今日ばかりはいつもよりも大人しく俺に大して野次はあまり飛ばしてこない。飛ばしてくる過激派もいたものの、妹とシオミンのファンにとっちめられていた。「アイツを叩くことが俺のファン活動なのだ!」などと捨て台詞を残してログアウトした奴もいた。
あまりよろしくない空気の中、妹とシオミンはどうにか群集を落ち着かせようと声をかけていた。シオミンがやっているならばと俺も真似してみたら「お前は黙ってろ」などと言われてしまったので、今度は黙ってみたら「妹ですら働いているのにお前は何やってんだ」とお叱りを受ける。
ならばどうしろというのだと叫びたくなる気持ちを抑えて、やいのやいのと騒がしい群集を眺めていたらそこに見覚えのある顔を発見する。
蜂蜜色の髪に透き通るような白い肌。
アンジェラだ。
彼女は少し離れた高台に腰かけ、この騒ぎを観察していた。俺が諦めて棒立ちになっているのが不愉快らしく足をバタバタを動かし、つまらなそうにしていた。俺がアンジェラのことを見ていたことに気付くと、彼女の顔は明るくなって、俺に手を振ってくる。
ここで手を振るとまた騒ぎになるだろうと返さないでいると、シオミンが隣に移動して耳打ちする。
「ファンが手を振ってくれてるんだから返さないと」
シオミンがアンジェラに向かって手を振る。するとあろうことにアンジェラはわざとらしく舌を出し、顔を背けたではないか。何が気に入らなかったのか小一時間詰めたいところである。
「あらら、汐見のことは嫌いみたい。あとであのカワイイファンに手を振ってあげてね」
そう言ってシオミンは俺の肩にポンと手を置いてくれたので許そうと思う。
ちなみに言われた通りにアンジェラに手を振ってみたら立てた親指を下に向けられた。それだけかと思いきやその親指を首元まで持っていって切るフリまでしやがった。俺は今アンチが生まれる瞬間を目にしたのだ。
シオミンの何が気に入らなかったのだろう。ともかくあとで我が盟友の機嫌を取らねばなと考えていたら妹が「では締めましょー」と締まりのない声で言った。
締めのトークが終わる頃にはアンチはほぼ追い出され、邪魔する者もいない。
何事もなく終わるそう思っていた。
正体不明の敵性存在が現れたことを告げるアナウンスがあるまでは。




